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街歩き4日目 10
しおりを挟む「寝袋はこれがいいな」
「この寝袋だとお客さまには大きすぎますよ~。小柄なお客さまにはこちらの方がお勧めです。 荷物は少しでも少なくしておかないと、せっかく手に入れた採取物が入りきらなくなりますよ~?」
「うん。色はそっちの方が好みなんだけどね。従魔たちも一緒に寝るから大きい方がいいの」
大きな寝袋と小さな寝袋。当然大きな寝袋の方が高額なのに、店員さんは爽やかな笑顔で私の身体に合う方の小さい商品を勧めてくれる。
儲けよりもお客を大切に考える姿勢に好感度を上昇させながらハクとライムを抱っこして見せると、店員さんは視線をちっちゃくて可愛い私の従魔たちに固定しながら納得したように何度も頷いた。
「うっかり潰したら大変! もっと大きいのをお勧めするべき?」と呟いているのが聞こえるけど、私の寝相はそんなに悪くないから大丈夫だよ? ハクとライムは見た目ほどか弱くないしね!
「それと、1人用の小さなテントと立って着替えができそうな大きめ」
(大きなテントはいらないのにゃ!)
「え?」
(大きなテントの代わりに馬車を買うのにゃ!)
「大きめのテントですか?」
「あ、いや。ちょっと待って?」
途中で言葉を止めた私に不思議そうに問いかけてくれる店員さんから少しだけ離れて、ハクと心話を続ける。
荷物は全てインベントリに入れるし、スレイとニールに乗せてもらうのにも慣れた。あんなにガタガタ揺れる馬車に乗る必要はないし、野営地がいつも自分たちだけだとは限らない。他人がいる所でゆっくりと【複製】や薬の調合、着替えなどをするのに大きいテントがある方が便利だという私に、【複製】や調合、着替えは馬車の中でもできる。テントだと止まっている時しか使えないけど、馬車なら移動しながら複製や調合ができると言うハク。
ハクの言うことももっともだと意見が揺れ始めた私に、
(馬車があると移動中でも一緒に遊べるし、移動中に寝落ちしたアリスが、寝ぼけてスレイやニールから落ちないように心配することもないのにゃ!)
と言われたのが止めになった。 従魔に心配をかけるのは良くないし、移動中にのんびりと遊べるのは魅力的だ。問題は、スレイとニールが馬車を引いてくれるかだけど、
(大丈夫にゃ!)
(だいじょうぶ~♪)
先輩従魔たちが笑って大丈夫!と言っているから大丈夫なんだろう。
「テントは1人用の小さいのが1つでいいわ。蚊帳が付いているものね」
「…テントの中にわざわざ蚊帳を張るのですか?」
だから、ここでの買い物はさっさと済ませて馬車を買いに行こうと思ったんだけど……。いきなり躓いてしまった。 まさか蚊帳付きのテントがないなんて……。
テントの中に蚊帳を張るのではなく、テントの側面の1面だけ外を見られるように蚊帳張りにしているものだと伝えると店員さんは困ったような顔をして、「店長を呼んできます~」と店の奥に駆け込んだ。ディアーナまでもが不思議顔なので、ここでは<テント=すべてが厚地の布張り>というのが当たり前のようだ。
奥から出てきたヒョロリと細く背の高い男性は、一体何の為にそんなものが必要なのかと聞いてくるけど、私の中では<テント=蚊帳付き>なのが当たり前だったので、何の為と改めて聞かれると少し困る。
蚊帳は蚊や害虫を防ぐためのものだということは皆知ってるから、テントの1面を蚊帳にするのは暑さをしのぐ為とか、視界を確保して閉塞感を感じないようにする為とか、綺麗な星空を眺める為だったりとか……。
思いつくままに❝こんな時に蚊帳だと嬉しい❞と私が思うことを挙げていくと、どんどん店長さん達が微妙な顔になっていく。ディアーナだけはポーカーフェイスなので、どう感じているのかはわからないけどね。
彼らにとってテントは視界を遮断して自分のプライベート空間を守る為の物。雨や虫を避けて安眠を得る為の物。風から身を守り体力を温存するための物で、私のいう❝1面が蚊帳張り❞だとそれらが守れないからだ。
だからそういう時の為に、蚊帳張りにしている1面の上から他の面と同じ布をかけておいて、必要に応じてその布を上げ下げできるものが欲しいんだと伝えると、やっと納得してくれた。
もともと商品として存在しないのだから、特注品になるのは仕方がないと思いお店の提示する少しお高めの金額をそのまま受け入れようとすると、
「この<蚊帳付きテント>は商業ギルドで登録申請している最中の物なので、商品化する時には気を付けてくださいね」
それまで黙って様子を見ていたディアーナが突然口を挟んできた。もちろん私も驚いたけど、それ以上に驚いた顔をしたのが店長さんなんだけど……。
「は…!? またまた、ご冗談を! このようなテントなど」
「金持ち相手なら確実に売れるとあなたも思うでしょう? 商業ギルドの彼女を担当しているギルド員も同意見でしょうね。彼女がもう一度ギルドへ戻って首を縦に振るだけで、すぐに登録がすみますよ」
「……うちの店員の話では、こちらのお客さまは❝当然あるもの❞として、ご注文されたようですが? ❝ない❞とは思ってもいなかったようだと聞いています!」
ディアーナ相手になぜか食いつくような勢いで話が続いている。
店長さん、さっきまで❝どうしてわざわざそんなものを❞?って不思議顔だったよね? 私を見て酔狂な客だって言いたげな顔をしていたの、ちゃんと気が付いていたよ?
「市場調査です。申請を掛けている間の暇つぶしに、これにどのくらいの価値があるのかを販売店の様子から確認するためにあえてそのような言い方をしたまで。もちろん、発注自体は本当ですのでご安心を」
「こちらのお客さまが開発者なら、そのようなものをわざわざ外注しなくても……」
「ギルドが試作するものと、本職の職人が作った物との相違点を見るのも必要だと思ったので。
ああ、私は<冒険者ギルド>所属のディアーナと言います。<ギルドマスター>からの指名依頼で、彼女の案内兼護衛を請け負っています」
私が内心でツッコミを入れている間にもどんどん話が進み、ディアーナの嘘と本当のことを混ぜ込んだ微妙な言い回しに聞き入ってしまった私が口を挟む暇もなく、
「では、商品が出来上がったら<商業ギルド>の方へ届けてください。代金は……先ほど言われた金額を前払いすればいいのかしら?」
「……そういうお話でしたら、少しお値引きを。実際に作ってみないと何とも言えませんので、出来上がりと引き換えに頂戴いたしますが、先ほどの価格よりも上がることはありません」
なぜか商品の届け先が<商業ギルド>になった上に、値引き交渉まで完了してしまっていた。
えっと……? この後は馬車を買いに行く予定だったんだけど……。ああ、うん。わかってる。商業ギルドへ行けば良いんだよね?
……街でお買い物を楽しんでいると、いつの間にかディアーナが私のマネージャーに就任してました。 あの時ディアーナに専属担当を受けてもらえた私って、ものすっごく!幸運だったよね?
この件の報酬はきちんと受け取って貰えるのかな? それだけがちょっと心配だな。
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