女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

文字の大きさ
436 / 754

断罪のはじまり

しおりを挟む





「――――――――――――――――という訳で、逃げ遅れたフランカはゴブリンに……。すぐに助けに戻ったけど、フランカが自分は致命傷を負っていてもうダメだから、せめて俺たちだけでも逃げてくれって……」
「あたし達だってフランカを助けたかった! でも、群れたゴブリンの前ではあたし達にできる事なんて……。逃げることが精いっぱいだったんです!」
「ちくしょう!! 俺たちにもっと力があれば!」
「あたしたちがもっと強ければ、フランカを死なせないですんだのに……!」

 そう言って泣き崩れる一組の男女。フランカの元・パーティーメンバーの生き残りだ。

 彼らの話を聞いていると、どんどん私の心が冷えていき、彼らが流す涙を見ていると、こんこんと私の心に憎しみが湧いてくる。

 もう、こんな醜い声を聞いていたくない! そんな感情に突き動かされるように前に出ようとした私をの肩が、強い力で引き戻された。

「まだだ。あんたの出番までもう少しだけ待ってくれ」

 肩にかかる手を振り払おうとした私を彼は抱き込むように拘束しながら、耳元で小さく呟くように「もうしばらくだけ耐えてくれ」と言うと、今度はハクとライムに向かって「俺はお前たちのご主人さまに危害を加えないとビジュー神に誓うから、お前たちも少しだけ我慢しておとなしくしていてくれな?」と言って従魔たちの攻撃を未然に防いだ。

 私を拘束している彼は宿までギルマスくまの伝言を持って来てくれた冒険者で、フランカの元・パーティーメンバーを見張ってくれていた人たちの中で、私が特定できなかった最後の1人だった。彼はギルマスから詳しい話を聞いているらしく、私が感情に流されてこの断罪のシナリオを崩さないように見張りの役も担っているらしい。

 奴らが好きなように話を捏造しているのを聞いてぐらぐらに煮えていた私の頭は、彼が私と同じくらいに悔しそうな顔をしていることに気が付いて、少しだけ冷えた。

 自身を落ち着かせる為にゆっくりと息を吐き出して顔をあげてみると、ギャラリーの中にも私たちと同じように憤りをあらわにしている人たちがいるのが見えた。スフェーンまで同行していたAランク冒険者のメラーニアだ。

 彼女がフランカの元・パーティーメンバーを射殺すようなキツイ視線で見ているのを見て、私は落ち着きを取り戻し、あの男女から気を反らす為に少し周りを観察することにした。

 宿まで伝言を持って来てくれた彼・トリスターノによって案内されたここは、冒険者ギルドの訓練場。このギルドで一番広い空間だ。

 訓練器具を片付けて広々とした訓練場の中には、たくさんの冒険者やギルド職員が集まっていた。その中央で椅子に座っているギルマスくまとサブマス。その後ろには議事録を取っているらしいギルド職員のイルマ。その前に立っているのがフランカの元・パーティーメンバーである一組の男女。……名前は知らない。知りたくもないから聞いても忘れる。

 そして、その5人を取り囲むようにして座っているたくさんの冒険者たちの一番後ろ、ギルマス達の顔は見えるけど、ヤツらの目には入らない位置にトリスターノは私を案内した。私が冒険者たちの後ろに隠れるように立つとトリスターノがサブマスに向かって軽く手を振り、それを皮切りにヤツらの説明いいわけが始まったのだ。

 大勢のギャラリーかんきゃくの前で静かに質問を投げかけるサブマスと、じっと黙ったまま話を聞いているギルマス。その前で大仰な身振りで演技をうそをいい始める役者ヤツらはこの舞台を一体どう思っているんだろう?

 ただの状況説明だけに、これほどの人数が詰めかけるものなのかな?

 まるで人に酔っているかのように大仰に悔しがり、涙をこぼし、ギャラリーの同情を集めるのが当然のような口ぶりだけど……。

 ギャラリーの中の何人かの視線は冷え切っていることに気が付かないのか、ヤツらはどんどん感情を高ぶらせて、

「俺たちがもっと強ければ……! そうすれば俺たちだけが生き残るなんてことにはならなかったかもしれないのに! フランカ! チーロ! デチモ……!」

 ゴブリンの襲撃で死んでしまった他のメンバーの名を口にした男の肩に女が顔を埋めて大声で泣き出し、男は女の肩を強く抱きながら天を仰ぐように涙を流した。

 広い訓練場にヤツらの泣き声だけがしばらく続き、何も知らないギャラリーから同情の声やすすり泣きが聞こえ始めた頃、それまで黙っていたギルマスがやっと声を出す。

「そうか。お前たちの話は分かった。 
 ……チーロとデチモの遺体は回収したが、フランカの遺体だけは見つかっていなかったな。遺品だけだが、ギルドに届けてくれた冒険者がいる。見るか?」

「もちろんです!」
「フランカの大事な遺品ですから!」

 ギルマスの問いに食いつくように答えたヤツらだけど、……フランカの遺品と聞いて、ほんの少しだけど、嬉しそうな顔を隠せなかったことにヤツらは気が付いているのかな?

「……そうか。……アリス、居るな? 遺品を見せてくれ」

 ヤツらの様子をじっと見ていたギルマスがやっと私の名前を呼んでくれて、私を拘束していたトリスターノの腕から力が抜ける。

 私に気が付いて道を開けてくれるギャラリーに感謝の言葉を伝えながら、中央に歩み出て……。

 まだだ。まだ、怒りを顔に出してはいけない。もう少しだけ耐えろ!

 ……自分に強く言い聞かせながら、静かにヤツらと向き合った。
しおりを挟む
感想 1,118

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...