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断罪 1
しおりを挟む遺品を見せろと言われたものの特にテーブルなどが用意されてはいなかったので、とりあえずはインベントリから帆布と絹の布を取り出した。フランカの遺品を置くための敷物にする為だったんだけど、
「ああ、間違いないわ! フランカの物よ!」
「……………これは私の物よ」
女の口から飛び出したまさかの発言を聞いて、私が攻撃魔法を放たなかったことを誰か褒めて欲しい。
「えっ……? あっ、そんな……。 だって……、フランカも似たようなものを持っていたから……」
困ったように顔を歪ませて言い訳する女の言葉を聞き流しながら帆布を敷いて、その上に綺麗な模様の絹の布を敷くと、
「……ねえ、それ、本当にフランカの物じゃないの? だったらどうして今ここで出しているのよ?」
女が物欲しそうな表情を隠しきれずに、絹の布を指差した。
「遺品を置くために決まってるでしょう? あなたはフランカの……、自分のパーティーのメンバーの大事な遺品を直接足元に置けって言うの?」
湧き上がる怒りを抑え込みながら、フランカの遺品を1つ1つ、大切に布の上に出していく。
使い込まれたテントや寝袋などの野営用品、着替え、タオルや歯ブラシなどの日用品を並べながら男女の顔を見ると、……真面目な表情を顔に貼り付けているけど、目が退屈だって告白していた。それが、
「それは間違いなくフランカの物よ! あたしがもらう約束をしていたの!」
フランカが大切に持っていた髪飾りを見た瞬間に女の顔が嬉しそうに輝き、お金の入った革袋を目にした男の口元がほんの少しだけ緩んだ。
……こんなに素直に感情を顔に乗せるなんて、思っていたよりもおバカなのかと少し拍子抜けしてしまうけど、男女を見ていたギャラリーの大半がたいして表情を変えないのを見て認識を改める。
遺品に金目のものがあれば嬉しいのは当たり前、か。 日本にだって、親族間でも遺産争いとか普通にあるみたいだったしね。
でも、彼らの嬉しそうな顔を見ていると湧き上がるムカつきが抑えられなくて、
「触るな!」
「なにすんだよっ!」
「それはあたしの物よ!? 返してっ」
衝動のままに、彼らが手を伸ばした先にある髪飾りと革袋を取り上げていた。
だって、汚い手でフランカの物に触って欲しくなかったんだもん!
ほんの少しだけ、ギルマス達の段取りを狂わせたかも?という焦りは感じたけど、やってしまったものは仕方がない。後は任せた!の意思を視線に乗せてギルマス達を見ると、ギルマスは❝仕方がねぇなぁ❞とでも言うように口の端を持ち上げ、サブマスは❝後は任せな❞とでも言うように小さく頷いて、
「騒ぐんじゃないよっ! フランカの遺品をお前たちが受け取る権利はない」
鋭い声で彼らを一喝してくれた。
今にも私に掴みかかって来そうだった彼らがサブマスの眼光の鋭さに飲み込まれて動きを止めると、
「どうしてですか? 大事なパーティーメンバーの遺品を彼らが受け取れないなんて、おかしいと思います」
ギャラリーの中からビーチェが出てきた。
「どうしてお前が口を挟むんだ?」というサブマスの問いに、ビーチェが堂々と「彼らのパーティーは私が専属でお世話しているので、彼らの不利益になるようなことは許しません!」と答えると、サブマスは❝ふっ❞と口の端で笑い、ビーチェの同席を許可する。同時に、
「役者が揃いましたね」
ディアーナが進み出て来て私の耳元でこっそり呟いた。
ビーチェが「どうしてディアーナが出てくるの!?」と抗議するように声を上げるけど、「私はアリスの専属担当だもの。彼女を不利益から守るのは当然でしょ?」と、先ほど自分が言った言葉を返されては、悔しそうに黙り込むしかなかった。
今日は私が持っている物がフランカの遺品であるかの見極めと、詳しい事情聴取だけだと聞いていたらしいフランカの元・パーティーメンバーはすっかり油断をしていたようだけど、サブマスの言葉とディアーナの登場で、やっとそれが方便だったと気が付いたらしい。焦りの表情を必死に隠そうとしている。
でも、それも、
「アリスはフランカの遺品だけでなく、遺書も預かって来てくれたんだ。その中には、彼女がゴブリンに捕らえられた詳しい経緯と、お前たちだけには遺品を預けないで欲しいと書かれていた。
……心当たりがあるだろう?」
続いたサブマスの言葉を聞くなり、隠しきれなくなったけど。
「遺書? ……フランカはあいつらの目の前で殺られたんじゃなかったのか?」
「……なんとか逃げ延びたってことかな?」
「でも、遺品をメンバーに渡すなってのは……。あいつらが言うほどパーティーは上手くいってなかったのかもな」
ギャラリーがそこここで口にする言葉を聞いて、焦った彼らは、
「なっ…、なんのことかわかりません!! フランカがそんなことを言うはずが……っ」
「フランカは私たちの目の前で死んだんです! 遺書なんて書く時間は……!
それに! あの髪飾りはフランカが、自分に何かがあったら私にくれるって約束していたんです! 仲間に遺品を譲るなんて普通のことですよね!?」
顔色を変えて、自分たちに疾しいことはないと主張する。 ビーチェがそれを後押しするように、
「遺書なんて……! もしかすると、かろうじて生き延びていたフランカを助けるとか言って、その女が騙して書かせたものかもしれません! そうやって遺品をだまし取ったんだわ! なんて卑劣な人なの!?」
話を捏造した。 え~…、その話は無理があるよ。助ける条件に遺書なんか求めたら、普通はおかしいって思うでしょ? 書くハズなんかないじゃない?
あまりの馬鹿々々しさに、私が反論しようとすると、
「アリスはそんなことしないよっ」
「その人はそんなことしないと思うぞ?」
ギャラリーの中から2人が立ち上がり中央に歩み出てきた。 2人の後を追うように数人が立ち上って、「そうだ!」の声を上げたり大きく頷いたりしている。
突然の援軍に目を瞬かせた私を見て笑った2人。
1人は一緒に森へ行ったメラーニア。そしてもう一人は、あれ? ………誰だっけ?
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