439 / 754
断罪 3
しおりを挟む「ゴブリンとの戦いで死亡したと報告されていたフランカは、つい最近までゴブリンの巣穴で生きていたことが分かった。 私がフランカの遺体を直接確認したから確かなことよ」
メラーニアが大きな声でギャラリーに向かって言うと、
「フランカが死んだと思い込んだのは俺たちのミスだと認める! フランカには本当にすまないことをしてしまった……。 だが、俺たちもゴブリンから必死に逃げてきたんだ。どうしようもなかったんだ!」
男は自分たちにはどうしようもなかったと主張し、
「フランカが私たちを逃がしてくれたんだから、あんたに何かを言われる筋合いじゃないわよ! そんなことよりも、フランカが最近まで生きていたなら、どうしてここに連れて戻ってこなかったのよ! やっぱりフランカの遺品目当てにそのアリスって女が殺したんでしょ!?」
女はフランカを盾に自分を守り、私に罪を着せようとした。
男女の言い分を聞いたメラーニアはとても不愉快そうに冷たい目で彼らを見て、
「アリスは自分の品格を貶めてまでお金を求めるほどお金に不自由はしていないわよ。卑しいあんた達と一緒にするな!」
鋭く一喝した後、またギャラリーに向き直った。
「残念なことにフランカは死亡していたけど、ちゃんとお墓に埋葬されていた。 ギルマスとサブマス、私とBランクのエルダ、職員のイルマが確認したことだから間違いない。エルダはパーティーの連中との依頼遂行中で今日は街にいないけど、いたらきっと、そいつらがアリスに罪を擦り付けようとするのを止めようとするはずだ」
「あ! それって、多分、コレのことだ!! あたい、エルダから報告書ってのを預かってるよ! アリスとフランカの名前で何かが起こった時に、みんなに自分の見解として見せて欲しいって言ってた! もしも何も起きなかったら、捨てていいって言ってたけど」
メラーニアが状況の説明を始めると1人の女性冒険者が立ち上がり、❝エルダの報告書❞をギャラリーたちに見せつけるように掲げて見せた。それを見たサブマスがニヤリと笑い、
「ああ、さすがエルダだね。頭が回る。 それはしばらくおまえが預かっていてくれるか? 必要になったらみんなの前で読み上げてくれ」
顔色を悪くした男と女…、とビーチェに大人しく座るように命令し、ヤツらが座ったのを見て、メラーニアが改めて状況の説明を始めた。
「とある事情でフランカの遺体は損傷していたけど、とても丁寧に清められていた。服こそ着ていなかったけど代わりにとても美しい絹の布に包まれていてね。 お墓の中は遺体が見えなくなるくらいにカープリフォリオが敷き詰められていた。これは全てアリスがフランカの為にしていたことだよ。
その上で、フランカの遺体を焼いて空と土に還す時には大量の甘味を❝お供え❞していた。それもそのまま置くんじゃなくて、上等な紙を何枚も使って皿を作りその上に供えてくれたよ。 その上で、また大量のカープリフォリオで遺体を飾ってね。遺体と一緒に燃やすってのに惜しみなく、フランカの為に……。
フランカの遺品の髪飾りってのがどれほどの物かは知らないけど、アリスにはフランカを殺して持ち物を奪う必要はないって私が保証するわよ!」
「私はギルドの職員として培った知識を元に、アリスさんがフランカさんにしてあげたお供えを換算すると、フランカさんの遺品と同等以上の価値があったと明言します! アリスさんがフランカさんを殺す理由はどこにもありません!」
メラーニアに続いてイルマが発言すると、大人しく聞いていたギャラリーたちからも賛同の声が上がった。
「カープリフォリオって言ったら、高額買い取り品じゃないか」「服がなかったからって、絹を燃やしちまったのか?」「甘味って…、死んだヤツの為に大量の甘味を? もったいないとは思わなかったのか?」
と言う声を聞いて男は黙り込んだけど、女は、
「フランカとその女は親族じゃないんでしょ!? なのに、そんなことをするなんて逆におかしいじゃない! フランカを殺して遺品を奪うことの罪滅ぼしじゃないの!?」
と声をあげ、ビーチェが大きく頷きながら、
「そうよ! アリスが弔いにお金をかけたからって、フランカを殺していない証明にはならないわよ! 殺したからこそ、それをごまかす為にそれだけのことをしたんじゃないの? 大体、手紙があるってことがおかしいのよ! その女の捏造じゃないの!?」
鼻で嗤って手紙の存在を否定しようとする。
3人の態度や言い分を聞いて、スフェーンに同行したメンバーだけでなく、ギャラリーからも軽蔑のまなざしが注がれたけど、3人はそれに気づくことなく、自分たちの潔白を言い募る
自分たちが正しい!みんなはアリスに騙されているんだ!と言い張る3人を見て、ギャラリーたちの中から、私に不審の目を向ける人が出始めた頃、
「なあ、その手紙を俺にも見せてくれないか? 俺にはフランカの筆跡がわかる」
ギャラリーの中からトリスターノさんが進み出てきた。そして、
「この中には知っているヤツもいるだろう? 俺はフランカと同じ孤児院で育っているからな。アイツの字のクセなんかは当然知っているんだ。 ……ギルマス、その手紙を俺に読ませてくれ」
衝撃の自己紹介をしてくれる。
そんなにフランカに近しい人がフランカを死に追いやった人たちを見張っていたなんて……。どれだけ辛い時間だったんだろう。
トリスターノさんの心情を思い、なんて人選をするんだと思わずギルマスを睨みつけてしまった私に、
「アリスさん、あんた宛にも手紙があったって聞いているんだ。 その手紙も俺に……、読ませてくれないか?」
トリスターノさんが静かに頭を下げた。
249
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる