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断罪 4
しおりを挟むトリスターノさんに調査を依頼する際、私情を交えることのないようにとギルマスは事の詳細を話さなかったらしい。ただ❝フランカの死に不審な点があるから、パーティーの交友関係・金の動きなどを調べろ❞とだけ指示を出し、手紙の存在も私を迎えに来させる寸前まで隠していたそうだ。
「手紙を読むと俺が使い物にならなくなると判断したんだろうが……、もう、いいだろう?」
そう言って手を出したトリスターノさんに、ギルマスはゆっくりと頷いて、
「おまえからの報告はすでに受け取っているからな。後はこの手紙……、❝遺書❞の筆跡がフランカの書いたものか否かを判断したら、今回の依頼は完了とする」
ギルマス宛の手紙を手渡した。
ギャラリーが見守る中、トリスターノさんはまず文字の確認をして「フランカの筆跡で間違いない」と証明する。そして、ゆっくりと文面に目を落とし、
「……どうしてフランカがこんな目に!!」
驚愕に目を見開き、ついで射殺さんばかりの視線でフランカのパーティーのメンバーだった男女を睨みつけた。
トリスターノさんの反応の大きさに見ていたギャラリーの中から手紙の内容についての疑問の声が上がったが、トリスターノさんはそれに答えることなく私に視線を寄越した。
「この中にはフランカの身に起こったことと、ギルドに対する要望しか書かれていない。……どうしてフランカが命を落としたのか、アリスさんは知っているか?」
……彼らに答えるのは、全ての真相を理解してから、ということらしい。
トリスターノさんの推測どおり、私宛に書かれた手紙にはその真相が書かれている。
だけど私は、トリスターノさんがフランカと同じ孤児院の出身だと聞いた私は、彼に手紙を渡すことができなかった。 何のために、誰の為にフランカが命を絶ったのかを知らせるのは、あまりにも酷だと思ったからだ。
でも、トリスターノさんは、
「俺も冒険者の端くれなんだ。……フランカの身に起こったことを知れば、その後の想像はつく。答え合わせをさせてくれ……」
彼なりの推測を立てた上で、真実を知りたがっていた。
「にゃあ……?」
「きゅう……?」
「……どうして渡してやらないんだ? 何か不都合でもあるのか?」
従魔たちに促されてもなかなか手紙を渡そうとしない私はみんなの目にどう映ったのか。ギャラリーの中から不審そうな呟きが漏れ始め、それに力を得たのか、
「ふんっ! どうせその手紙とやらにはあんたへの恨み言でも書かれてるんでしょ? 見せたくっても見せられないわよね! それとももう処分済みかしら? 証拠隠滅ってヤツ?」
ここぞとばかりにビーチェが糾弾してくる。
それでも動けない私に、トリスターノさんは、
「アリスさん。俺はこのままあんたが手紙を渡してくれなくっても、あんたを疑うことはない。 ただ、俺はフランカのことを知りたいんだ。 少しでも多くの真実が知りたい」
とても静かな目で訴えるように言葉を重ねた。
「…………」
どんな内容でも真実を知りたいと言うトリスターノさんにフランカの手紙を渡し、ハクとライムを腕に抱きしめながら彼を見守る。
しばらく続いた静寂の中、ギリ…、と歯ぎしりの音が聞こえ、手紙を持つトリスターノさんの手から赤い血が流れ落ちた……。なんと声を掛けていいかわからずにおろおろする私に、トリスターノさんはかすかに微笑みながらゆっくりと手紙を返してくれると、
❝バキッ!! ドカッ!!❞
「ギャッ!!」
「ヒギッ!?」
それまでとは打って変わって素早い動きで振り返ると、ビクビクとしながらこちらを見ていた男女を殴りつけた!
❝ガッ!❞
「それまでだ」
「放してくれ!」
驚きに固まってしまった私の目の前でトリスターノさんが男女に対し次の攻撃を仕掛けようとしていたが、巨体に似合わない素早い動きのギルマスがトリスターノさんを羽交い絞めにする。男女のしたことに感情のおさまりが付かないトリスターノさんがギルマスを振りほどこうとするが、サブマスが、
「こいつらにはきちんと裁きを受けさせる! その為におまえに色々と調べさせたんだ! 今こいつらを殺すのは、フランカの意思に反するだろう!?」
男女、とついでにビーチェを鞭の一振りでひとまとめに縛り上げると、悔しそうにだけど、なんとか落ち着いてくれた。
トリスターノさんの勢いに驚きを隠さないギャラリーだったけど、その中でも勘のいい何人かは、今までの話の流れと彼の行動を見て真実を悟ったようだ。軽蔑も露わに3人を睨みながら、出入り口を塞ぐように移動する。
それを確認したサブマスが、トリスターノさんに手紙の内容を読み上げるように告げると、騒然としていた訓練場内に再び静寂が落ち……、
「やめろっ! 俺は関係ないっ!」
「あれは仕方がなかったのよ! どうしようもなかったのっ!!」
「ちょっと、なんなのよ! 放しなさいよっ!! あたしにこんなことをして、タダですむと思っているの!?」
近くにいた冒険者たちに拘束された3人の、醜い怒鳴り声だけが辺りに響いた。
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