女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

文字の大きさ
440 / 754

断罪 4

しおりを挟む



 トリスターノさんに調査を依頼する際、私情を交えることのないようにとギルマスは事の詳細を話さなかったらしい。ただ❝フランカの死に不審な点があるから、パーティーの交友関係・金の動きなどを調べろ❞とだけ指示を出し、手紙の存在も私を迎えに来させる寸前まで隠していたそうだ。 

「手紙を読むと俺が使い物にならなくなると判断したんだろうが……、もう、いいだろう?」

 そう言って手を出したトリスターノさんに、ギルマスはゆっくりと頷いて、

「おまえからの報告はすでに受け取っているからな。後はこの手紙……、❝遺書❞の筆跡がフランカの書いたものか否かを判断したら、今回の依頼は完了とする」

 ギルマス宛の手紙を手渡した。

 ギャラリーが見守る中、トリスターノさんはまず文字の確認をして「フランカの筆跡で間違いない」と証明する。そして、ゆっくりと文面に目を落とし、

「……どうしてフランカがこんな目に!!」

 驚愕に目を見開き、ついで射殺さんばかりの視線でフランカのパーティーのメンバーだった男女を睨みつけた。

 トリスターノさんの反応の大きさに見ていたギャラリーの中から手紙の内容についての疑問の声が上がったが、トリスターノさんはそれに答えることなく私に視線を寄越した。

「この中にはフランカの身に起こったことと、ギルドに対する要望しか書かれていない。……どうしてフランカが命を落としたのか、アリスさんは知っているか?」

 ……彼らに答えるのは、全ての真相を理解してから、ということらしい。

 トリスターノさんの推測どおり、私宛に書かれた手紙にはその真相が書かれている。

 だけど私は、トリスターノさんがフランカと同じ孤児院の出身だと聞いた私は、彼に手紙を渡すことができなかった。 何のために、誰の為にフランカが命を絶ったのかを知らせるのは、あまりにも酷だと思ったからだ。

 でも、トリスターノさんは、

「俺も冒険者の端くれなんだ。……フランカの身に起こったことを知れば、その後の想像はつく。答え合わせをさせてくれ……」

 彼なりの推測を立てた上で、真実を知りたがっていた。

「にゃあ……?」
「きゅう……?」

「……どうして渡してやらないんだ? 何か不都合でもあるのか?」

 従魔たちに促されてもなかなか手紙を渡そうとしない私はみんなの目にどう映ったのか。ギャラリーの中から不審そうな呟きが漏れ始め、それに力を得たのか、

「ふんっ! どうせその手紙とやらにはあんたへの恨み言でも書かれてるんでしょ? 見せたくっても見せられないわよね! それとももう処分済みかしら? 証拠隠滅ってヤツ?」

 ここぞとばかりにビーチェが糾弾してくる。

 それでも動けない私に、トリスターノさんは、

「アリスさん。俺はこのままあんたが手紙を渡してくれなくっても、あんたを疑うことはない。 ただ、俺はフランカのことを知りたいんだ。 少しでも多くの真実が知りたい」

 とても静かな目で訴えるように言葉を重ねた。

「…………」

 どんな内容でも真実を知りたいと言うトリスターノさんにフランカの手紙を渡し、ハクとライムを腕に抱きしめながら彼を見守る。

 しばらく続いた静寂の中、ギリ…、と歯ぎしりの音が聞こえ、手紙を持つトリスターノさんの手から赤い血が流れ落ちた……。なんと声を掛けていいかわからずにおろおろする私に、トリスターノさんはかすかに微笑みながらゆっくりと手紙を返してくれると、

 ❝バキッ!! ドカッ!!❞
「ギャッ!!」
「ヒギッ!?」

 それまでとは打って変わって素早い動きで振り返ると、ビクビクとしながらこちらを見ていた男女を殴りつけた!

 ❝ガッ!❞
「それまでだ」
「放してくれ!」

 驚きに固まってしまった私の目の前でトリスターノさんが男女に対し次の攻撃を仕掛けようとしていたが、巨体に似合わない素早い動きのギルマスがトリスターノさんを羽交い絞めにする。男女のしたことに感情のおさまりが付かないトリスターノさんがギルマスを振りほどこうとするが、サブマスが、

「こいつらにはきちんと裁きを受けさせる! その為におまえに色々と調べさせたんだ! 今こいつらを殺すのは、フランカの意思に反するだろう!?」

 男女、とついでにビーチェを鞭の一振りでひとまとめに縛り上げると、悔しそうにだけど、なんとか落ち着いてくれた。

 トリスターノさんの勢いに驚きを隠さないギャラリーだったけど、その中でも勘のいい何人かは、今までの話の流れと彼の行動を見て真実を悟ったようだ。軽蔑も露わに3人を睨みながら、出入り口を塞ぐように移動する。

 それを確認したサブマスが、トリスターノさんに手紙の内容を読み上げるように告げると、騒然としていた訓練場内に再び静寂が落ち……、

「やめろっ! 俺は関係ないっ!」
「あれは仕方がなかったのよ! どうしようもなかったのっ!!」
「ちょっと、なんなのよ! 放しなさいよっ!! あたしにこんなことをして、タダですむと思っているの!?」

 近くにいた冒険者たちに拘束された3人の、醜い怒鳴り声だけが辺りに響いた。
しおりを挟む
感想 1,118

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...