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似たもの親子
しおりを挟む「アリスねえちゃん! どうしてこんな所にいるんだ?」
「アリスちゃん、ただいま~! あれ、なあに?」
「これはっ! 一体どういう……?」
「みんな、おかえりーっ!」
「にゃおん♪(おかえりにゃ♪)」
「ぷきゃあ♪(おかえり♪)」
孤児院の門扉のすぐ内側で、ハクとライムとのんびりとティータイムを楽しんでいると、清掃の仕事から帰ってきた子供たちが笑顔で声を掛けてくれるんだけど、誰も中まで入ってこない。
怪訝そうな顔で立ち止まって、私の説明を待っている。
まあ、当たり前だよね。家に帰って来たら門扉の内側すぐの所に、出入りを塞ぐようにテーブルセットが置かれていて私たちがティータイムを楽しんでいるだけでもおかしいのに、その少し先には帆布に覆われているうごうごと動いている何かがあるんだもん。
逆の立場なら、私も不審に思うよ。
子供たちを送って来てくれた2人の衛兵さんも当然不審に思い、うごめく何かを確認する為に帆布を捲り上げて、……余計に対処に困ったようだ。
後ろ手に縄で縛られて口に猿轡を噛まされて転がっている人相の悪い男たちと、そのすぐそばで暢気にティータイムを楽しむ女と可愛い従魔たちの取り合わせは確かに異様だもん。でも、
「アリスちゃん……。この人たちっていつも大声で私たちに意地悪を言うおじさんたちでしょ? こんなことをしたら仕返しされちゃうよ! 早く逃げないと!!」
私たちを心配してくれる少女の声ですぐさま、
「こいつらが孤児院に何かやらかしたのか!?」
と思い当たってくれたのはありがたい。孤児院ではなくて、私個人になんだけどね。
私が戻って来たら、この男たちが門の前で騒いでいて私が敷地内に入るのを邪魔したこと。
男たちの隙を見て中に入ったけど、ミネルヴァさんの不在中に家の中にお邪魔するのも気が引けたので、ここで待つことにしたこと。
ぼうっと立って待っているのも暇なのでここを借りてお茶をしながらミネルヴァさんとみんなの帰りを待っていたら、急に男たちが怒鳴りながら襲い掛かってきたこと。
私を守る為に従魔が男たちを撃退してくれが、そのまま放っておいてまた襲われたらいけないので縛って動けないようにしたこと。そして怖い顔を隠す為に帆布をかぶせておいたことなどを、私の心理描写の部分をほんの少しだけ脚色しながら説明すると、衛兵さんたちはニヤリと笑い、
「それは怖かったよな! いや……、怖かったですね! あとは我々が引き受けますので、お嬢さんは安心して大丈夫ですよ。もちろん仕返しなんてできないように配慮しますので。
……仕返しなんてものともしないでしょうが」
お仕事モードで男たちを引き取ってくれた。
最後の一言は余計だよね? 私は怖がっている設定だったのに^^
衛兵さんたちが男たちを引きずって詰め所に向かうのをみんなで手を振りながら見送り終わると、子供たちが私を急き立てるようにしながら家の中に招待してくれた。
そして玄関のドアを閉めるなり、どうやってあの男たちを撃退したのか、とか。冒険者には見えないのに実は強かったんだね!とか。魔物を倒したことはあるの?どんな魔物をどうやって?などの質問攻めだ。
すぐに、お留守番をしていた年長さんがみんなを落ち着かせてくれたので私は苦笑するだけですんだけど、そうでなかったら、子供の好奇心パワーに押されてタジタジになるところだったよ。
子供たちと楽しくおしゃべりをしていると、ピカピカの笑顔で背中に大きな袋を背負ったヴァレンテくんが帰宅し、そのすぐ後に、疲れた顔をした院長さんと同行していた少年が返って来た。
少年はドアを開けるなり「水を注いでくれ。パンを買って来たから、少し早いが飯にしよう」とみんなに声を掛けたけど、私に気がつくと少し困ったように後ろの院長さんを振り返る。……夕食時にお邪魔してごめんね?
私は気を遣わせないように、夕食が終わった頃に出直そうと思ったんだけど、ハクが、
(食べ物の匂いがしないのにゃ。……パンと水だけがごはんなのにゃ。どうしてフランカの金を使わないのにゃ?)
と呟いたので、考えを変える。
ハクとライムが❝いらない❞と判断した野菜をたっぷりとハーピーのお肉を少量だけ入れたシチューを取り出して、
「大鍋2つ分で1000メレ。鍋ごとなら大鍋2つを合わせて3000メレ。ミネルヴァさん、買ってくれませんか?」
<商人・アリス>に早変わりだ。
話を聞いていた子供たちの一部が❝有料❞だということにがっかりとした顔になったけど……。うん、ごめんね。とある事情で今日は有料なの。
それでもミネルヴァさんは、
「この大鍋が1つ1000メレ? こんなに具沢山のスープのようなものが2つで1000メレ? ……本当にこんな値段で買わせてもらっていいのかしら? ありえない価格よね?」
と言ってくれたので、私は内心ほっとする。
うん。お鍋は【複製】したもので元手はかかっていないし、シチューに使った野菜はハクとライムがしっかり吟味して、あまりおいしくないと判断したものばかりを使ってるからお値段は控えめで大丈夫なんだ。だから、しっかりと、
「お味がそれなりの訳アリ商品です。健康には何の害もありませんのでご安心ください」
事情を説明して、売買成立。
その後、ごはんにお呼ばれするという話になってしまって、一緒に食卓を囲むことになってしまった。
自分が売りつけた食事にお呼ばれするのって、なんだか気まずいと思うのは私だけかなぁ?
子供たちがおいしそうに食べてくれている今日の料理は、孤児院での販売を考えて作って来たものだ。
以前ミネルヴァさんに言われたことを参考にして贅沢な食材は使わず、使っている野菜も、ライムがイマイチだと判断した方の野菜を中心に使用している。
本当は代金も受け取る必要はなかったんだけど、以前に❝金銭面で一方的に親切にし続けるのは、相手の為に良くない❞と教わったので、今回は子供たちの目の前だったこともあり商人として販売することにした。
無料で差し入れられるごはんより、自分たちで稼いだお金で食べるごはんのほうがおいしく感じると思ったしね。……子供たちが本当はどう感じているかは、私にはわからないんだけど。
だから、今私たちがいただいているごはんは、孤児院のみんなからご馳走になっているごはんなんだ。それがわかっているからか、普段なら使っている野菜の品質に文句を言うハクも、何も言わずにお行儀よくご馳走になっていた。
食事をご馳走になっているんだから、おやつを差し入れするのはOKだよね?
食後のクッキーを楽しみながら、ミネルヴァさんとゆっくりとお話をさせてもらうことにした。
ヴァレンテくんにお仕事をお願いしたこと。その素材の置き場所と予定している報酬について。
昼間子供たちが清掃の仕事をしている所を見たこと。衛兵さんたちとの関わりに安心したこと。
そして、私に危害を加えようとした男たちを衛兵に引き渡したこと。私を探してここに仕返しにくるといけないので、冒険者ギルドに用心棒を依頼するから受け入れて欲しい事をお願いすると、ミネルヴァさんは、
「フランカの手紙の通り、優しい方ね……。でも、あなたがこの孤児院に肩入れする必要はないのよ? フランカだって、ここの事情をあなたに背負わせようとは思っていないはず。
それにもう、この孤児院は存続できないかもしれないの。だから、あまりここには……」
私が孤児院に肩入れすることを歓迎しなかった。孤児院が解散した時に、私が傷つかないよう配慮してくれているらしい。……やっぱりこの人はフランカの❝お母さん❞だ。フランカによく似ている。
だから私は、ますますこの孤児院を放っておけなくなるんだけどね?
でも、私は自分のできる事しかしないから安心してね? 私も<商人>の端くれだから、損になるようなことはしません! できるだけ、ね!
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