女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

文字の大きさ
479 / 754

おいしいは正義!

しおりを挟む





「大丈夫か、アリスさん!?」
「お…っ!? おおっ! いい飲みっぷりだったな! アリスはこの酒の良さがわかるのか! どうだ、もう一杯?」

 心配そうに席を立とうとするルシアンさんを片手で制し、むせ込みながらも視線はマスターの持つお酒の瓶に釘付けの私に、好機と見たマスターがおかわりを勧めてくれるが……。私は断腸の思いでそれを断った。

 インベントリから取り出したメロンのお漬物を一切れ摘まみながらお酒の余韻に浸っていると、興味を持ったらしいマスターの目が光る。

「この酒を味わったすぐ後に取り出して……。なあ、アリス。ソレはこの酒に凄く合うもんじゃないのか? 俺にも味見をさせてくれっ!」

 と言うなり、お漬物のお皿に手を伸ばそうとするが、

「マスターともあろう方がお客さまのお皿に手を出そうとするとは……。サブマスに報告しますよ?」

 いつの間にか側に来ていたシルヴァーノさんによって、伸ばした手を叩き落とされた。

「なんでお前がっ!」

「私はアリスさんの担当職員ですから。このギルド内でアリスさんが不利益を被るのを見過ごしにはできませんので。……大丈夫ですか?」

 つまみ食いを邪魔されて憤慨しているマスターを気に留めることなく、シルヴァーノさんは私の背をさすってくれながら「あのお酒をそんなに気に入ったのですか?」といたずらっぽい瞳で私に尋ねた。

 むせ込んだせいで零した涙をそのままに何度も頷く私を見てシルヴァーノさんは何を思ったのか、

「マスター、この酒は仕入れに失敗したものですよね? 仕入れ値で良かったら私が全て買い取りましょう」

 突然商談を始めてしまった。

 いきなり仕入れ値まで値切られたマスターは不機嫌な顔でシルヴァーノさんを睨みつけていたが、彼はこのお酒を仕入れてからほとんど注文が入っていないことを理由に強気の姿勢で話を進め、あれよあれよと言う間に話がまとまってしまう。

 マスターの抵抗で、なぜかメロンのお漬物を小皿一皿分譲ることが条件に入ったけどね。いつもお世話になっているシルヴァーノさんの為だと思って快諾した。それが、

「今お聞きの通り、このお酒は一瓶7万メレです。もしもアリスさんがお望みならお譲りしますので、いつでもお声がけを」

 私の為だとは思っても見なかったんだ。

 部外者の私が買うなら当然ギルドの儲けが上乗せされる。でも、❝仕入れに失敗❞したお酒をギルド職員のシルヴァーノさんが好意で買い取るのなら原価になる。シルヴァーノさんが買い取ったお酒なのだから、そのままの値段で他人に譲るのはシルヴァーノさんの裁量。ということらしい。

 なんだか屁理屈のような気もするが……。せっかくのご厚意だから、ありがたく受け取っておこうと思う。

 でも、今はちょっとお金の都合がつかないので10日ほど支払いを待って欲しいとお願いすると、シルヴァーノさんは「大事に置いておく」と約束してくれたので、利息代わりに桃オークのステーキを受け取ってもらう。

 本当は桃オークの塊肉を渡そうとしたんだけどね。調理してある方が良いとのことだったので、ステーキ3枚重ねになったんだ。 それを見たシルヴァーノさんが嬉しそうに、

「嬉しいですね。でも、これでは利息になりません」

 との言葉と共に、お酒を1本差し出してくれた。物々交換だと言われてさすがに遠慮しようと思ったんだけど、マスターの「妥当だな」の一言で受け取ることにした。

 桃オークのステーキってそんなに高額だったの!?って驚いたことは言うまでもないよね。

 残りは13本の91万メレ。……高額だ。やっぱり利息が必要だと思い、ドルチェ代わりにサクランボを一盛渡しておいた。【複製】したもので悪いけど、ほんの気持ちと言うことで。

 今度はシルヴァーノさんも気持ちよく受け取ってくれて、それまで黙って見守ってくれていたルシアンさんが一緒にシルヴァーノさんにお礼を言ってくれたのが、なんだか面映ゆかった。

 私にはたくさんの保護者がいるみたいだ。












 にこにこと満面の笑顔で戻っていくシルヴァーノさんを追いかけて、

「エールを奢るから、1枚食わせろ!」
「エールでは割があいません」
「3…5……7杯でどうだ!」

 というやり取りをしているマスターを眺めながらフレーバーウォーターをちびちびと飲んでいると、額に汗を光らせたマッシモが戻ってきた。

 息を弾ませながらも嬉しそうな顔なので、家族の団欒はしっかりと楽しめたらしい。

 満足そうにお腹をさするルシアンさんと一緒に顔を合わせているのを見ながら、やっぱり❝おいしい食べ物❞はみんなを幸せにすると思い、ちょっとだけ、それを作った自分が誇らしかった^^
しおりを挟む
感想 1,118

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...