480 / 754
❝おみや❞は一緒にいただくものなのです
しおりを挟むルシアンさんとマッシモを連れて孤児院へ戻ると、庭に人影が見えた。近づいてみると、月明かりの下でヴァレンテくんが木材を削っている。
頼りない月明かりでは手元が見えにくいだろう。刃物を使うのは危険だし、目にも良くないと思い声を掛けてみたんだけど、一心に作業に打ち込んでいるヴァレンテくんには聞こえないようだ。
でも、大きな声で驚かせてしまっては余計に危ないだろうし……。どうしたものかと思案していると、
「ヴァレンテ、そろそろ中にお入りなさい。夜は冷えるでしょう?」
ミネルヴァさんがドアを開けてヴァレンテくんを呼び、
「うん。わかったよ、母さん」
ヴァレンテくんはとても自然に返事を返している。
……どんなに集中していても、ミネルヴァさんの声は聞こえるんだね! 目の前の光景に思わず笑いをこらえきれないでいると、やっと私たちに気がついたヴァレンテくんが驚いた顔で立ち上がり、ミネルヴァさんは急いで庭に出て来てくれた。
ミネルヴァさんは私の後ろに立っているルシアンさんとマッシモが話をしていた護衛だと気づき、私が帰ってから子供たちに話を聞いたこと、私が撃退した男たちは孤児院に対する嫌がらせに来ていたのだから、私が孤児院の為に護衛を雇う必要はない事を説明してくれる。
でも、私(の保護者たち)がヤツらを怒らせたことに変わりはない。
だから私は、もう今夜のごはんは支払い済みだから今から断るとキャンセル料がもったいないと訴え、事情を知っているルシアンさんとマッシモも「男手が欲しい所はないか? 俺は屋根や壁の簡単な修理くらいならできるぞ」「アリスさんに依頼をキャンセルさせるよりも俺たちを使い倒した方が双方に得だ」と口添えしてくれる。
そこに、
「チビたちがヤツらに怯えているんだ。2人とも良い人そうだし、守ってもらおうよ」
ヴァレンテ君の援護が入れば、ミネルヴァさんも頷くしかない。
簡単に紹介だけして後は2人に任せ、私は宿へ戻ることにした。
ああ、2人の食事もここで出してくれるという話になったので食材を多めに受け取ってもらった。食費を渡そうと思ったんだけどね? ルシアンさんが買い物に行く手間を考えたら食材の方が良いだろうって教えてくれたんだ。
……明日の朝ごはんの分だけは、私のストックからみんなの分のおかずを出すことになったのは、ルシアンさんの手腕ってヤツかな?
今回はハクとライムも怒らなかったから、まあ、いいんだけどね?
いつもなら食料品がメインの【複製】だけど、今夜のメインは薬品類だ。
今回は複製用の素材を残して後は全てをポーションや増血薬、解毒薬などに製薬する。そうして作った薬をそれぞれ大鍋に入れて、複製回数の全てを使い切った後には結構な量の薬ができた。
大鍋が大釜だったなら、ちょっと❝魔女❞っぽい雰囲気が楽しめたかも?なんて思ったことは、ハクとライムには内緒だよ? さすがに子供っぽい考えだって自覚はあるからね。
「少し寝ておくのにゃ?」
「ぼくがささえておくからだいじょうぶだよ~?」
「ううん、大丈夫。
あ~~、やっぱりお風呂は気持ちがいいねぇ……」
気持ちが良すぎて、気を抜くと瞼が閉じそうになるのが困りものだけど。
瞼が閉じそうな理由はそれだけじゃないけどね。お湯にぷかぷか浮いて、私の枕になってくれているライムのぷにぷにボディが気持ち良すぎるんだ。
それと、……実は、昨夜は一睡もしていなかったりする。
インベントリにある食材を使ってひたすら料理をしていたら、あっと言う間に朝になっていたからだ。
手伝ってくれていたライムとハクが何度か眠るように勧めてくれていたんだけど、どうしてもたくさん作っておきたかったから、少しだけ頑張りすぎてしまった。
そのせいで、私の可愛い保護者さんたちには心配をかけてしまっているんだけど……。
私を心配してくれるハクとライムの様子やしぐさが可愛くて嬉しい♪なんて、2匹の前では言えないよね?
この仔たちのお陰で、今日も1日頑張れそうだ!
コネクティングルームに敷物を敷いて、座っているスレイを背もたれにのんびりと朝ごはん。
ハクとライムは従魔部屋から出てきた妹のお世話を楽しそうに焼いているし、食欲がないと言っていたスレイも、お兄ちゃんたちの「これも食べるのにゃ」「これおいしいよ」攻撃を受けて、嬉しそうに❝あ~ん❞と口を開いている。
相変わらず仲の良い従魔たちの様子に穏やかな幸せを噛みしめながらごはんを食べていると、部屋のドアをノックする音と、
「商業ギルドのラファエルさまがお見えでございます」
待ち人の来訪を告げる声が聞こえた。
❝商業ギルドから使いが来たら通して欲しい❞とはお願いしておいたけど、まさか他支部の幹部さんが来るとは思っていなかったな。
お茶を出しながら用件を確認すると、
「今日の午後にアポイントメントが取れましたよ。場所はギルドの応接室です」
何枚かの資料と共に、私の欲しかった答えが返ってくる。
……これだけのお使いの為に、わざわざラファエルさんに来てもらうなんて申し訳ないなぁ。と思っていると、
「食後のお茶にいかがですか?」
お土産までいただいてしまった。
とても香りの良い紅茶の葉だ。
時間はまだまだたっぷりあるし、せっかくいただいた茶葉を味わってみたい。
聞いてみると、ラファエルさんはまだ朝食を摂っていないとのことだったので、ハクとライム…とラファエルさんの期待の視線に応えて……。朝食第2弾!
私がラファエルさんを誘う前に、ハクとライムがスレイの待つコネクティングルームにラファエルさんを案内してくれたのは……、褒める所なのかなぁ?
応援ありがとうございます!
31
お気に入りに追加
7,480
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる