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お引越し準備 17
しおりを挟む通常、回復魔法の【ヒール】や<ポーション>は怪我や体力回復にしか効き目はなく、病気などには【リカバー】やそれ以上の魔法か、各種の病に対応した薬が必要になる。
リカバーは高額だし、各種の病に対応した薬はポーション程の需要がないので、依頼を受けてからの調合になるのが<薬師>たちの通常らしい。薬は作り置きしてたら劣化するし、素材も置いていたら傷んじゃうからね。
だから、必要な時に必要な薬がすぐに手に入るケースは多くない。素材の確保から調合の時間をいれると、やはりそれなりの時間がかかるようだ。
でも、薬が必要になるような病の大半は何らかの痛みを患者に与えてしまうケースが多く、患者当人だけでなく、痛みを耐える患者を見守る家族や友人たちも辛い思いをすることになる。
そんな時にすぐに手に入り効果が7日間も続く痛み止めがあったら、どれだけ患者や周囲の人たちの負担を減らせることか、と商業ギルドマスターから切々と訴えられた結果、<痛み止め>を納品することが決まった。希望数は、商業ギルドでストックしておく100個(もっと多くても買い取り可能らしい)+薬師ギルドでストックしておく分100個+街の薬屋(ほとんどの店は薬師が経営)がストックしておく分(1軒あたり2~3個くらい)とのこと。
レシピは登録(申請)するのだから、薬屋の分はそれぞれ店の薬師が作れば良いんじゃないのか?と言ったところ、薬の素材である<極桃>がネックになった。
ほとんどの薬師は自分では森(スフェーン)まで採取に行けない。でも、冒険者ギルドに依頼するにしてもスフェーンの奥まで行ける上位ランクの冒険者への依頼は高額になるので、経費が掛かり過ぎる。
ということで、私にお鉢が回ってきたんだ。
一応ね?
❝<薬師>が経営する薬屋に、他の薬師が作った薬を置くのはおかしくないか?❞
と言ってみたんだけど、
❝薬師によって調合の得意な薬と不得意な薬があるのは普通のこと。だから<薬師ギルド>から買い取った薬を置くのは珍しい事ではない。その為に相互扶助を行う組合があるのだから❞
と説明されて納得してしまった。
だったら、薬師ギルドに卸す分だけで良いんじゃないか?と思ったんだけど、そこは儲け話には手を抜かない商業ギルドマスター。自分のギルドのストック分は譲れないとのことだった。
「材料が足りなくて必要数の調合が出来なかった時は、薬屋の分から削ります(薬屋の分は薬ギルドに卸す分から都合させるみたい)、それでも足りなければ薬師ギルドに卸す分を削りますので、無理はなさらないでください」
と言い切る商業ギルドマスターに、満面の笑みを隠すことなく拍手を送るハクとライムがいたことは……、そっと見ないフリをしておいた。
<痛み止め>の材料は<ダチュラ>と<薬草>と<浄化水(クリーン済の水)>と<極桃>。
ダチュラと薬草と水は【複製】できるけど、極桃だけは今のところ複製できない。
と言っても、極桃1つで50個の痛み止めが作れるのだから、依頼分(ざっと300個位)を作るのには支障はないと思っていたんだけど、
「僕たちが食べる分がなくなるのにゃ!」
「ぼくたちのおやつがへっちゃうの……?」
可愛い従魔たちがとても悲しそうに私を見つめるので、思わず、
「よし、仕入れに行こう! 明日はみんなで森に行くよ!」
拳を振り上げて宣言してしまった。
……私もおいしい桃が減るのは嫌だから、仕方がないよね?
……冒険者たちの時間を拘束しているのだから早くお引越の旅支度をしないといけないんだけど、これも金策だから仕方がないよね? 極桃をいくつか売れば<沈黙の誓い>の費用が稼げるし。
……とってもおいしい<極桃>はハクとライムの大好物だからギルドに売ることは禁止されているんだけど、いっぱい採って来たら、少しくらいは金策分に回せるハズ!
と心の中で見えない誰かに言い訳を並べながら、とりあえず痛み止めの調合を終わらせた。
………極桃は複製できないんだけど、なぜか痛み止めは複製できるんだ。そのことに気が付かずに極桃を6個も使ってしまったなんてこと、ハクとライムには内緒だよ?
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