672 / 754
出発前の下準備 2
しおりを挟む「おはよう! 今日も早いね」
「おはよっす! アリスさん達も早いっすね! さて、ライムせんせーっ、今日はどれっすか?」
「ぷきゅ! ぷっきゅ~、ぷきゅぷきゅ」
「ビーツ! 赤いのが2つと黄色いのが3つ欲しいって」
「了解っすよ~っ! じゃあ、イイところを選んでくれっす!」
「ぷきゃ~♪」
旧ミネルヴァ邸を間借りする条件として私たちは畑の管理を任されている。と言っても、実はたいしたことは何もしていない。
というより、することがほとんどないんだ。ライムが分けてくれる肥料は❝成長促進・品質向上❞の効果があるだけでなく❝防虫・防疫❞効果まである優れものだから。
私たちがすることは、間引きと収穫くらいかな?
あ、訂正。間引きも収穫も私はほとんどしていない。
間引き作業はライム&ハクとカッサンドラさんに雇われた農業従事者さんたちがしてくれているし、収穫はカッサンドラさんに雇われた冒険者たちと農業従事者さんたちがしてくれているからね。
間引き作業はライムが選んだ作物をハクが爪で切り落とし、私はそれを拾って籠にいれるだけ。籠がいっぱいになったら、別の場所で間引きしている農業従事者さん達に声を掛けて所定の場所に置く。
収穫は基本農業従事者さん達がしてくれる。冒険者たちも手伝うけど、彼らの仕事は畑の警備と収穫した作物を宿や商業ギルドに運ぶのが本来の仕事だからね。
で、ここでも活躍するのがライムで、ライムが選んだ作物が<キャロ・ディ・ルーナ>の本日のお勧め野菜になるんだ。これは以前屋台で野菜を買う時に、ライムが質の良いものばかりを選んでくれたことを噂で知っていた農業従事者さんの1人が言い出したこと。
❝お試し❞に、ライムが選んだものと彼が選んだものを食べ比べた結果、ライムに勝ち星が付いた。それを聞いたキャロ・ディ・ルーナの料理長が<数量限定・本日のお勧め(サラダのことが多い)>として採用することを決断。
それ以来、その日ライムが選んだ作物5つを報酬として、収穫物を選ぶお手伝いをしてくれている。
うん、やっぱり私、ほとんど何もしてないね……。と少しだけ反省モードでいると、
(ありす~! きょうのごはんはビーツだよ! おいしくしてね!)
ライムが収穫したばかりのビーツを持って嬉しそうに戻ってきた。
うん! おいしいごはんをいっぱい作るのが私の仕事だよね!!
と、今まではこれで良かったんだけど、私たちはこの街を出ることが決まっているので、
「よし、これっす!! 人参はこれが1番美味いっすよ!」
「ぷきゃ~……(それ1ばんじゃないよ……)」
「これじゃっ! トマトはこれが1番じゃわい」
「ぷきゅっ!(ぼくもそうおもう!)」
「じゃあ、キュウリはこれだ!」
「………ぷ?(………なんで?)」
ライムと農業従事者さん達の❝本日1番おいしい野菜選び❞訓練に熱が入っている。
「う~……、せんせーっ! 行かないでくれっす……!」
……たま~に泣き言が聞こえてくる気がするけど、気のせいってことにしておこうかな。
……頑張れーっ!
冒険者ギルドに到着したら、ディアーナと一緒にそのまま解体部屋に直行する。解体とお肉以外の部位の買い取りをお願いすると、解体担当職員さんたちから、
「肉も買い取らせてくれよ~! アリスさんの狩って来る魔物は倒し方と血抜き処理が良い上に、鮮度も抜群だからファンが多いんだよ! 俺も個人的に買いたいし……」
ほんの少しだけ不満が出るけど、血抜き処理担当のライムが「おにくはうっちゃダメ! アリスとハクにおいしくたべてほしいの!」って言ってくれるんだから、売るわけにはいかないよね。
事情が分かっているせいか、ディアーナも少し苦笑するだけで彼らの訴えを黙殺してるから、気にしないことにする。
視線をディアーナに戻すと、
「このハウンドドッグは街の南に行った所にある大岩付近で狩った個体? だったら5体分は討伐依頼が出てるから手続きするわね。あとはオークとワイルドボアがいっぱい…って、これはグレートボアじゃない! それも2体も! どこで狩って来たの?」
「ここから森へ行く途中にある草原にいたの。グレートボアはその雌雄一対だけだけど、ワイルドボアと一緒に群れを作っているみたいだったから、群れごと狩って来た」
「あの草原のワイルドボアは新人を卒業したばかりの冒険者たちが狙いに行くことが多いんだけど、グレートに率いられたワイルドの群れは一気に討伐の難易度が上がるからベテランじゃないと荷が重いのよね~。壊滅してくれて助かるわ。後はゴブリンとスライムの魔石ね? スライムは魔石だけなの?」
「うん。スライムは素材として重宝するからね。先に分けておいたの」
「わかったわ。じゃあ預り票を書くからちょっと待ってね? 受け取りは明日のお昼ごろでいい?」
サクサクと手続きを進めてしてくれるから、解体担当者さん達も諦めて仕事に戻って行った。
しょんぼりした背中が少しだけ可哀そうだけど、私たちもこれからの旅路の為に食料が必要なのだから仕方がない。【複製】スキルはあるけど、食料ばかりを複製するわけにもいかないからね。手に入る食材は大切にしないと!
何度か足を運ぶうちにすっかり馴染んだこの解体部屋(と職員さんたち)とももう少しでお別れだと思うと、ほんの少し寂しい気もする。けど、いつかまた戻ってくることもあるだろうからと気分を改めた。
よぉし! これで、明日にはそれなりの額のお小遣いが手に入る。 道中に依頼人夫妻に支払う予定のアルバイト代金が十分に用意できそうで、ほっと一安心しながら帰途に着いた。
149
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる