女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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出発前の下準備 3

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 昨日冒険者ギルドに預けた魔物素材の売却金は1,075,000メレ。少し少ない気もするけど解体手数料を引いたうえ、オークやグレート&ワイルドボアの肉を返してもらったことを考えると、こんなものかな?と納得もできる。

 受領証にサインをしてお金を受け取ったら、後は街の中をゆっくりと散歩がてらのお買い物。

 と思っていたんだけど。

「いいかい? 冒険者と冒険者ギルドは本来対等な関係だ。だが残念なことにそれをわかっていないギルド職員……、特に新人や低ランクの冒険者に対して居丈高に振舞うバカはどこにでもいる。だから、アリスがそんなヤツを見かけたら、きっちりと❝説教❞してやってくれ」

 ギルドを出る前になぜかサブマスに腕を引かれ、気が付くとギルドマスタールームでコーヒー&紅茶(1杯800メレで販売。私たちの分もギルマスが購入してくれた)とクッキー(各種を大皿2枚分。一皿3,500メレで販売)でティータームを楽しんでいる。

 話題は❝これから訪れる冒険者ギルドについて❞。

 話しているのはサブマスだけど、この部屋の主もクッキーを1枚1枚大切そうに齧りながら無言で頷いているので、これはギルマスからの話だと判断した方が良さそうだ。

 それにしても、

「どうしてそんな話を私にするの?」

 私はギルドの監査員もどきになるつもりはないし、<冒険者>としてまじめに活動しているとも言い難い。

 そういう話ならもっと適任者がいるだろうと遠回しに伝えると、

「気を悪くしないで聞いてくれ。アリスの実力はわたしも弟も十分にわかっているんだが……、いつものようにマントを羽織ってひょっこり現れるアリスを見て、Cランク以上の実力があると見抜ける奴はいないだろう。いや、マントを脱いでいても、見る目のないバカは別の意味で誤解する。
 あ~……、早い話、アリスは絶対に見くびられる。つまり、バカな職員から不愉快な対応をされる可能性が極めて高いとわたし達は判断している」

 ……なんだかとっても納得しがたい評価を与えられた。

「それに、な。バカな職員は下っ端ばかりじゃないだろう? うちのギルマスは腐ってはいないバカだが、他所のギルドには腐っちまった幹部やマスターもいるだろう。そんなヤツらを是正できる職員や冒険者は多くない。だが、アリスになら可能だ」

 サブマスは自信ありげに言葉を続けるが、私にそんな真似ができるとは思えない。

 懐疑的な目を向けるとギルマスは苦笑を浮かべ、サブマスは、

「アリス自身の実力はもちろんだが、後見人の豪華さでアリスを越える冒険者は今のところいないだろうさ」

 ほんの少しだけ呆れたような視線を私に向けた。

 後見人の豪華さを言えば確かにそうだ。❝英雄❞とまで呼ばれていたらしいオスカーさんに国王から溺愛されている王弟のモレーノお父さま。この2人の後見を受けている身としては、サブマスの言葉に納得しかけたけど、

「後見人が豪華なのと私に何かを是正できるかは別の問題だし。第一、冒険者ギルドの幹部やマスターは簡単に腐ったりできないでしょ? そのギルドを拠点にする冒険者たちに逃げられたらギルドが立ち行かなくなるだけじゃなく、その周囲の集落が魔物の脅威にさらされることになるんだから」

 サブマスにのせられかけた自分を何とか立て直す。サブマス(とギルマス)にどんな思惑があるにしてもわざわざ私が厄介事に首を突っ込む必要はないし、首を突っ込みたくもない。そう思ってさっさと席を立とうとすると、

「どんなに上流が美しい水でも、流れが止まったら川はよどむ。よどみの中に居続けるとヒトは簡単に腐る。腐っちまったヤツらほど悪事を巧妙に隠すし、冒険者たちが逃げ出さないギリギリのラインで利益を貪ろうとするものなのさ……。
 そんなヤツらに絡まれたら鬱陶しいだろう? 不意に火の粉が降りかかってきたら、払うだけでなくきっちりと消したくならないか?」

 サブマスは私を唆すように笑いながら言った。

 う~ん? そりゃあ、ねぇ? わざわざ火の傍に近づく気はないけど、飛んできた火の粉は消しておかないと火傷をしちゃうからね。

 でも、だからといって、大切な後見人たちの名前を安売りするつもりはない。

 この話はこれで終わりにしてもらおうと席を立とうとすると、

「わかった。無理にギルドの為にひと肌脱いでくれとはもう言わないよ。
 ただ、トラブル体質なアリスにぴったりのプレゼントを用意したんだ。きっとアリスの役に立つ」

 サブマスがため息と一緒に丸めてリボンを結んだ紙を差し出した。

「これは何?」

「ギルマスだけが発行できる信認証だよ」

「……信認証って何?」

「そのまま。これを持つ冒険者を信頼して実力を認め、その行いを信じて疑わないことを書面にしたものさ。これを持っていると、他所の冒険者ギルドで不利益を受けて反撃した時に多少やり過ぎたとしても、大抵のことなら目こぼししてもらえる」

 ニヤリと笑うサブマスに、サムズアップをしながら得意気に胸を張るギルマス……。

 いや、私がどこかでトラブルに巻き込まれるのを前提にするのはやめて欲しいし、そんな御大層な代物、簡単には受け取れないよね?

 とりあえず両手を後ろで組んで、受け取り拒否の姿勢を示しておく。

 あ~、やっぱりさっさとこの部屋を出て行くべきだったよねぇ……。
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