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ラリマー出発!
しおりを挟む「「「すんませんでしたっ!」」」
「「ごめんなさい……」」
気まずそうに目を逸らしていた、困ったように俯いていた、憤りをぶつけるように私の馬車を睨みつけていた彼らに近づき、手に持った1枚の書類を彼らの顔の高さで固定する。
「コレ、お金では買えないらしいから、安心材料の一つにはなるかな?」
何事かと訝し気に文面を読み、そのまま目を見開いて何も言わない彼らに、
「あそこにいる熊みたいな男性が推薦&保証人の1人でこの街の冒険者ギルドのマスター」
と告げると、先ほど私を威圧しようとした男性がバッとギルマスに目をやり、その隣に立っていたネストレさんに目を留め、
「商業ギルドマスター……」
呆然とした表情で呟いた。ネストレさんの顔を知っていたらしい。
「あそこにいる人たちは、みんなあなたの見送りに?」
依頼人のお友達の1人が気まずそうに聞くので頷きで返事を返すと何かが引っかかったように喉を鳴らし、お友達どうして素早く視線を交わし合ったかと思うと、揃って謝罪の言葉と共に深く頭を下げる。
<信認証>にもだけど、商業ギルドマスターの方により大きな驚きを表していたから、彼らも何らかの商売に携わる人たちなのかもしれない。
「安心してくれた? じゃあね」
別に謝って欲しくて信認証を見せたわけじゃないから、彼らの視線から険が取れたのを確認してその場を離れる。
「役に立っただろう?」
冒険者ギルドマスターの❝ヨッシャ!❞と言いたげな拳の上に生キャラメルを、ハクとライムの❝僕たち偉い!❞と言いたげな視線には角煮の干し肉を差し出してお礼の代わりにしておく。隊長さんの面白そうな視線には苦笑で返すだけ……と思ったけど、隊長さんの体質を思い出して何か食べさせてあげたくなったので、見送りに来てくれた全員にクッキーを受け取ってもらった。
後ろの方で、
「冒険者ギルドのマスターの推薦で信認証って、凄くない!?」
「凄いよね!!」
「商業ギルドのマスターまで見送りに来る冒険者って一体何者なんだよ。凄腕ってのは本当なのかもな!」
「商業ギルドのマスターだけじゃないよ! あそこでクッキー食べてるのってたしか衛兵の偉いさんでしょ? それに、今話題の宿<キャロ・ディ・ルーナ>の支配人までいるし!」
「これから旅立つおまえらの立場も考えずに勝手なことを言って悪かったよ……」
「気にしないでくれ。心配してくれて嬉しかったよ」
といった会話が聞こえてくるから、彼らの間のわだかまりは消えたと思っていいだろう。
改めて、信認証にサインをしてくれた人たちとネストレさんに感謝だね!
「スライムが出たら?」
「狩り尽くす!」
「Gランクの為に少しは残しておけ。ゴブリンが出たら?」
「手当たり次第に退治する! 余裕があれば、根城を確認して殲滅!」
「ああ、よろしくな。オークが出たら?」
「食料確保! 逃がさない!」
「オークも異種族間交配するから、きっちりと仕留めてくれ」
「大丈夫! 大事な食糧、絶対に逃がさない。素材価値もそれなりにあるしね♪」
「……そうか。オーガが出たら?」
「まだ見たことないんだけど、おいしいの?」
「いや、筋張っていて美味くない。オーガはヒト族の女を嬲ることを趣味にしていてな。交配出来ないくせに執拗に嬲りやがる」
「ふぅん?(筋肉も処理次第でおいしくなったりするけど……)女の敵だね、殲滅しとく」
「角が長い個体は魔法が強く、角が太い個体は筋力がある。こいつらがセットでいたら気を付けろ。 タイガー種に遭遇したらどうする?」
「おいしい? 売れる?」
「まあ、不味くはない。毛皮や牙や爪が高額で売れるな。すばしっこいぞ」
「じゃあ、とりあえず狩ってみる」
「……軽いな。ベア種に遭遇したら? ベア種の肉は美味くて毛皮も売れる。が、力が強くて、一発でもまともに攻撃を食らうとヤバい」
「おいしいんだったら、とりあえず狩る」
「……進行方向にドラゴンを見つけたら?」
「とりあえず全力で狩りに行く!」
「ドラゴンだぞっ!? とりあえずは逃げろよ!!」
「え? だって、ドラゴンのお肉はすっごく!おいしいんでしょ!? うちのハクが前から食べたがってるから、頑張らないと! ちゃんと首を狙って、血抜き対策もバッチリするからね!」
(そうにゃ! おいしい肉は僕らのものにゃ!)
(おいしいおにくのために、ボクもがんばる~!)
「ドラゴンだぞっ!? とりあえずは逃げて、近くの冒険者ギルドや領主に報告しろっ!」
みんなの所へ戻ったら、なぜか冒険者ギルドマスターから旅立ちに向けての心構えを説かれてしまった。
と言っても私たちのスタンスは、魔物を見つけたらとりあえず狩って持ち帰る! 素材は見つけたらきっちり採取! だけなんだけどね?
ドラゴンを見かけたらとりあえず逃げろ!と私
の肩をがくがくと揺さぶりながら言われたので、心話でハクとライムに相談して、
「わかった。遠くから魔法攻撃してみて、敵わないと思ったら全力で逃げる」
全力で狩りに行く前に❝様子見❞することを約束した。
オズヴァルドに、「いきなり面識もない女(わたし)の部屋の扉を壊して寝込みを襲ってきた初対面からは想像できないくらいに心配症だね?」と笑って言ってみると、苦虫を嚙みつぶしたような表情で「忘れろ」と言われた。忘れられるわけがないよね~? もう怒ってはいないけど!
「ディアーナ。シルヴァーノさんと幸せになってね! 私の冒険者活動の最初の専属担当がディアーナで本当によかった! 今までありがとう!」
「私こそ。アリスの最初の専属担当を勤められたことは、これからの私の自慢にするわ! 短い間だったけど、本当に楽しかった。アリスの活躍を耳にするのを楽しみにしているわ。元気でね?」
「総支配人さんの心配りのお陰で、<キャロ・ディ・ルーナ>は心から寛げる良い宿だったわ。ありがとう! ……お世話になりました。お元気で!」
「アリスさまとお話する時間はとても楽しいものでした。アリスさまのお陰で我が宿は今、名実ともにこの街の1番の宿です。お礼を言うのはこちらの方ですな。妻の商会を通して今後もお付き合いが続きますし。 ……いつでも、お帰りをお待ちしていますよ。」
「うん! カッサンドラさんにもよろしくね!」
「隊長さんを始め、衛兵のみなさんにはミネルヴァ家の子供たちがお世話になりました。あの子たちの生活はちゃんと守りますのでご安心を!」
「ああ。アリスさんまでいなくなるとヤツらが寂しがっていた。気が向いたら、いつでもまた遊びに来てくれ」
「オズヴァルド……」
「アリスの活躍を楽しみにしているぞ! 俺がギルマスでいる間はいつでも耳に入るだろうからな!」
「うん! サブマス(おねえさん)にもよろしくね! あと3熊にも!」
「熊って、おい……。まあいい。わかった、伝えておく」
「ライモンドさん! 水晶通信でライモンドさんの話をしたら、マルゴさんが『オーク肉のスライスが完璧にできるようになったら、一度遊びに来るといい』って言ってたよ」
「本当かっ! その時はアリスも村にいるか?」
「それはわからないけど……。もしも村にいる時だったら、ライモンドさんがスライスしてくれたお肉を使って、マルゴさんの好物を作ってあげたいな!」
「楽しみにしているぞ!」
「ネストレさん……。なんだかんだと本当に、色々とお世話になりました」
「それはこちらの方こそですな! 商業ギルドだけでなく街もお世話になりましたから。アリスさまのレシピを世に出せる日を楽しみにしておりますよ」
「<ミネルヴァ基金>のこと、よろしくお願いします」
「ええ、ええ。お任せください! きっと、この街をもっともっと発展させて見せますぞ!」
見送りに来てくれた人たちと最後の挨拶を交わし終えると、スレイとニールが並ぶ列は随分と短くなっていた。そろそろ、馬車に戻らないとな……。
名残は尽きないけど、みんなに手を振って馬車へと向かっていると、
「アリスさん!」
背中にヴァレンテ君の元気な声が掛かった。
「見てくれ! 今の俺の最高の出来なんだ!」
笑顔と共に差し出されたのは5体の彫り物。
「アリスさんとハクとライムとスレイとニールなんだ!」
手のひらに握り込めるくらいの大きさの、私たちの像だった。
「へへっ! 今度はもっと上の最高を彫ってみせるから、また来てくれよな! じゃあな!」
どう見ても私たち。色は付いていないのに、スレイとニールもちゃんとどっちがどっちかちゃんとわかる。素敵な贈り物をもらったとお礼を言おうとする前に、ヴァレンテ君は慌ただしく背中を向けて走って行ってしまった。
「ありがとうねーっ!!」
実は潤んだ目に気が付いていたんだけど、それは見なったことにして、お礼を言うと、大きく手を振ってくれたヴァレンテ君。
うん! みんな、みんな素敵な人たちだったな!
別れは少しだけ寂しいけど……。いつかまた会えるかもしれないし。
とりあえず、今は!
「じゃあ、ね!!」
みんなに笑顔で別れを告げて、門を出た。
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