女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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スレイプニルの意外(でもない?)な特技

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 出発してしばらくは何事もなく、ただただ前へと進むだけだった。

 同じ時間帯に出発した人たちと少し間隔をあけて、のんびり進むだけだったんだけど……。

(主、こやつらを追い抜いてはいけませぬか……?)

 自分たちの前をのんびり、というよりはノロノロ進む馬車にしびれを切らしたニールの一言で状況が変わってしまった。

 街を出たばかりなので道は十分に整備されているんだけど、あいにくと幅はそこまで広くない。ニールとスレイが追い抜くのは難しくないだろうけど、後ろに続いている依頼人夫妻の馬車には難易度が高そうだ。彼らの馬車を引く馬は一頭だけだからね。

 少し苛立ちが見え隠れするニールにそう説明すると、

(あやつがついて来られぬのなら、こやつらに道を譲らせれば良いのです)
「キュイーンッッッ!!」

 ニールはフンッと荒い鼻息を1つ吐くと、高らかに嘶いた。聞き覚えのない珍しい鳴き方だなぁと少しだけ驚いていると、目の前でもっと驚く光景が広がった。

「どうしたんだ? 動け!?」
「ちょっと、そっちじゃないわ! どうして端っこに行くのよ?」
「なぜ急に立ち止まるんだ!? 進めっ!」

 私たちの前を走っていた馬車が一斉に、道の端に寄って立ち止まったのだ。

 その中を悠々と走るニールとスレイ。

(なんだか緊急車両にでもなった気分)

 なんてのんきに思っていられたのは、ほんのわずかな間。

 事態に気がついた御者さんたちの視線を避ける為に、急いで馬車の中へ逃げ込んだ。






(ニール、やるのにゃ♪)
(すご~い!)
(当然ですわね)

 ハク達の嬉しそうな声を聞きながら小窓から後ろを見てみると、避けてくれていた馬たちが馬車を車道へ戻し始めていて……。

「アルフォンソさん達が置いてきぼりになってるよっ!」

 依頼人夫妻の馬車と私たちの間に他の馬車が入り始めてしまった。

 これはマズイと急いでニール達を止めようとすると、

(世話の焼けること……)
「ヒヒーンッ!」

 今度はスレイが一声嘶いた。

 それに応えるように依頼人夫妻の馬(多分)が嘶くと、

「……馬やロバって、賢いよね」

 またもや他の馬たちが道を譲り始め、その中を依頼人の馬車を引く馬が必死の形相で走ってきた。依頼人夫妻は少し気まずそうな表情を浮かべているけど、馬車の中へ逃げ込むことはない。

 なかなか強い心臓だな、と感心していると、

「普通の馬が御者をなくしたら大変なのにゃ」

 ハクに呆れたようなため息を吐かれてしまう。

 ああ、うん。そうだよね。うちのスレイとニールが特別過ぎるだけだよね。

 逐一指示をしなくても目的地まで行ってくれてる上に、他の馬やロバに❝どけ❞❝早く来い❞と命令できちゃうスレイプニルは、とてもすごいお馬さん(魔物だけど)でした。……少しだけ自重が必要かなぁ?














「置いて行かれるかと思ってびっくりしたわよ!」
「いやぁ、ハハハハハハハ……」

 元気いっぱいのオデッタと、乾いた笑いを浮かべるアルフォンソさん。そして、

「ヒン……」

 疲労困憊している様子の馬車馬くん。

 他の馬車と距離を開ける為に頑張って走り続けた結果なんだけど、

(不甲斐ない)

 うちのニールは辛口だった。

(仕方がありませんわ。劣る種族な上に高齢の様ですもの)

 ……スレイも辛口だった。

 あれ? うちのスレイプニルたちって、こんなに辛口だったっけ?と首をひねっていると、

(主さま、あやつに主さまのポーションを下賜してやってくださいませ。下級で十分ですわ)

 スレイが馬車馬くんを鼻先で示す。

 怪我をしている様子はないんだけどどこか傷めているのかと聞いてみると、私の作ったポーションで馬の疲労が回復すると教えられた。

 ポーションって、怪我を治すだけじゃあなかったんだね。

 魔法の世界は何でもありだな、と感心しながら依頼人夫妻に了解を取り、馬車馬くんの水桶の中に水とポーションを入れてあげると、

(主さま! わたくしたちが先ですわ! ……そこなおまえ! わかっていような!?)

 順番が違うとスレイに叱られてしまう。

 疲れを全っ然!見せないスレイたちよりも、疲労困憊している馬車馬くんを優先してしまったことに他意はない。でも、スレイとニールの誇りを傷つけてはいけないと、急いで2頭に水を用意しようとすると、

(主、兄上たちが先です……)

 今度はニールから注意を受けてしまった。

 序列って、大変だ!と思いながら急いでハクとライムに何が飲みたいか聞いてみると、

(僕はりんご水が飲みたいのにゃ! アリスの次に)
(ぼくはアリスのアイスがいいなぁ。ハクの次だよ!)

 ここでも順番を指定される。今まではこんなに厳密じゃあ、なかった気がするんだけどな?

 と思いながらも、まずは自分がりんご水を一口こっくん。それを見届けると次々に飲み物に口を付ける従魔たち。そして、それを羨ましそうにじっと見ている疲労困憊中の馬車馬くん。

 スレイとニールはもう飲み始めているのに、なぜまだ我慢をしているのか?

 それは、

「凄い……。魔物なのに、秩序がある」
「きちんと序列を守っているね。なんとも素晴らしい」

 依頼人夫妻が何も飲んでいなかったから!

 慌てて2人の分のお茶を用意すると、やっと飲み始める馬車馬くん。

 ガブガブと凄い勢いで飲んでいるのを見ながら、きちんと❝待て❞が出来て偉いね!と内心で褒めていたのに、

(主が口を付けるのを待たぬのか? 駄馬と呼ぶぞ?)

 ニールの厳しい基準では失格行為だったようだ。

 でもね? この場合、依頼人夫妻を一番後回しにしてしまった私が、一番失格だった気がしない?





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読んでくださってありがとうございます!
これからもよろしくお付き合いくださいませ^^
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