護堂先生と神様のごはん 幽霊屋台は薄暮を彷徨う

第3章 墓場とラーメン

4.屋台の主人

　私は緊張しながら、フードで顔の見えない主人にそっと話し掛ける。

『あ、あの実は私、こちらのラーメンがとても美味しいという噂を聞いて、是非取材したいと思い伺ったのですが、少々お話を聞かせていただいても宜しいでしょうか……？』

　神様の姿が見えて、店も本人もこの見た目である。200%マトモな相手ではない。人間でない事はほぼ間違いないが、なるべく怖い存在でない事を祈りたい。

　身構える私に対して、主人はスープをかき混ぜる手を止め、ゆっくりと頷いてくれた。

『あ、ありがとうございます！　では早速……こちらのお店の名前と、屋台を出されている場所や時間について教えてください』

　私はペンを握りしめて回答を待つ。主人はぼそりと呟いた。

『……ナイ』

『え？』

『名前モ、出ス時間ヤ場所モ決まッテナイ』

　奇妙なイントネーションの低い声が、フードの奥から響いて来た。噂通り出店場所は気紛れらしい。

　『そ、そうですか。この町の周辺で見かけるという話を聞いていたものですから……ご主人はこの町にお住まいなんですか？　それとも、どこかお近くから？』

　私は彼の正体について何か探れないかと思い、さりげなく質問を重ねた。

『……霊界』

　随分遠方からお越しのようである。

　想定外の返答に、私は動揺を隠しきれないまま神様に囁いた。

『……こ、これってご主人の冗談ですよね？』