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第八話 練習、大成功だね
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重なっていた唇が離れると、そこには耐え難い沈黙が落ちてきた。
剛志は体を起こし、彼女の中から自身を引き抜いた。
ゴムの端を結び、ティッシュに包んでゴミ箱に捨てる。
その音が熱に浮かされていた部屋の空気を、現実へと引き戻す合図となった。
「……大丈夫か? 血、まだ少し出てるかもしれない」
剛志が背中を向けたまま声をかけると、背後で衣擦れの音がした。
「うん……思ったより、痛くなかった」
小春の声は、少し上擦っていた。
剛志が振り返ると、彼女は慌ててティッシュで下半身を拭き取り、散乱していた下着を拾い上げているところだった。
その頬はまだ赤く、目はどこか虚ろで、剛志と視線を合わせようとしない。
さっきのキス。そして、互いに告げた愛の言葉。
それがこの部屋の隅に、重く残っている。
剛志は、あの瞬間の「私も好き」という言葉に縋りつきたかった。
だが、直後の「洋介くん」という名前が、それを許さなかった。
「……あのさ、剛志」
ブラジャーのホックを留めながら、小春がポツリと言った。
「私、変なこと言わなかった?」
「……変なこと?」
「最後……気持ち高まりすぎて、わけわかんなくなっちゃってて。マニュアルのこと考えながら腰使ったりしてて、そしたら好きな人と一緒にいるみたいに思えて……なんか、口走っちゃった気がするんだけど」
彼女は、剛志の方を見ずに、早口でまくし立てた。
「色々考えててさ……没頭しすぎちゃったみたい。ごめんね、気持ち悪いことしたみたいで」
剛志には、彼女の言葉の真意が飲み込めなかった。
ただ、喉の奥に込み上げる苦い塊を飲み込み、彼女の背中を軽く叩いた。
「……いや。変なところ何もなかったよ」
「え?」
小春がようやく顔を上げ、剛志を見た。
「お前、凄かったよ。俺が知ってるどの女よりも最高だって思って、俺こそ変なこと言ったかもしれない。ごめんな。でも……これで、あいつもイチコロだろ」
剛志が笑って見せると、小春は背中を向け、そっと目元に手を触れて、何かを拭う仕草をした。
しかし彼女はすぐに振り返り、すぐにいつもの人懐っこい笑顔を浮かべる。
「……そっか。よかったぁ」
彼女はパーカーを頭から被り、乱れた髪を指で梳いた。
「じゃあ、練習、大成功だね」
「ああ。大成功だ」
剛志も頷く。
小春は立ち上がり、スカートの皺を伸ばすと、玄関へと向かった。
その足取りは、来た時よりも軽く、けれどどこか急いでいるようにも見えた。
ドアノブに手をかけたところで、彼女は一度だけ立ち止まった。
「剛志……」
「ん?」
彼女は振り返らなかった。
ただ、ドアノブを握る手が、白くなるほど強く力を込めているのが見えた。
「……ありがとう。私、行くね」
「おう。気をつけてな」
「うん。……おやすみ」
カチャリと扉の開く音がして、彼女は夜の闇へと消えていった。
閉ざされたドアを見つめながら、剛志はその場に崩れ落ちた。
部屋には、事後の生々しい匂いと、彼女が置いていった「練習」という残酷な言葉だけが残されていた。
彼女が最後に何を言おうとしたのか、剛志にはわからない。
ただ、自分の唇に残る感触だけは、実験台にされたとは思えないほど熱く、甘かった。
彼は、さっきの自分の応答が、本当にあれでよかったのかと、自問する。
剛志は体を起こし、彼女の中から自身を引き抜いた。
ゴムの端を結び、ティッシュに包んでゴミ箱に捨てる。
その音が熱に浮かされていた部屋の空気を、現実へと引き戻す合図となった。
「……大丈夫か? 血、まだ少し出てるかもしれない」
剛志が背中を向けたまま声をかけると、背後で衣擦れの音がした。
「うん……思ったより、痛くなかった」
小春の声は、少し上擦っていた。
剛志が振り返ると、彼女は慌ててティッシュで下半身を拭き取り、散乱していた下着を拾い上げているところだった。
その頬はまだ赤く、目はどこか虚ろで、剛志と視線を合わせようとしない。
さっきのキス。そして、互いに告げた愛の言葉。
それがこの部屋の隅に、重く残っている。
剛志は、あの瞬間の「私も好き」という言葉に縋りつきたかった。
だが、直後の「洋介くん」という名前が、それを許さなかった。
「……あのさ、剛志」
ブラジャーのホックを留めながら、小春がポツリと言った。
「私、変なこと言わなかった?」
「……変なこと?」
「最後……気持ち高まりすぎて、わけわかんなくなっちゃってて。マニュアルのこと考えながら腰使ったりしてて、そしたら好きな人と一緒にいるみたいに思えて……なんか、口走っちゃった気がするんだけど」
彼女は、剛志の方を見ずに、早口でまくし立てた。
「色々考えててさ……没頭しすぎちゃったみたい。ごめんね、気持ち悪いことしたみたいで」
剛志には、彼女の言葉の真意が飲み込めなかった。
ただ、喉の奥に込み上げる苦い塊を飲み込み、彼女の背中を軽く叩いた。
「……いや。変なところ何もなかったよ」
「え?」
小春がようやく顔を上げ、剛志を見た。
「お前、凄かったよ。俺が知ってるどの女よりも最高だって思って、俺こそ変なこと言ったかもしれない。ごめんな。でも……これで、あいつもイチコロだろ」
剛志が笑って見せると、小春は背中を向け、そっと目元に手を触れて、何かを拭う仕草をした。
しかし彼女はすぐに振り返り、すぐにいつもの人懐っこい笑顔を浮かべる。
「……そっか。よかったぁ」
彼女はパーカーを頭から被り、乱れた髪を指で梳いた。
「じゃあ、練習、大成功だね」
「ああ。大成功だ」
剛志も頷く。
小春は立ち上がり、スカートの皺を伸ばすと、玄関へと向かった。
その足取りは、来た時よりも軽く、けれどどこか急いでいるようにも見えた。
ドアノブに手をかけたところで、彼女は一度だけ立ち止まった。
「剛志……」
「ん?」
彼女は振り返らなかった。
ただ、ドアノブを握る手が、白くなるほど強く力を込めているのが見えた。
「……ありがとう。私、行くね」
「おう。気をつけてな」
「うん。……おやすみ」
カチャリと扉の開く音がして、彼女は夜の闇へと消えていった。
閉ざされたドアを見つめながら、剛志はその場に崩れ落ちた。
部屋には、事後の生々しい匂いと、彼女が置いていった「練習」という残酷な言葉だけが残されていた。
彼女が最後に何を言おうとしたのか、剛志にはわからない。
ただ、自分の唇に残る感触だけは、実験台にされたとは思えないほど熱く、甘かった。
彼は、さっきの自分の応答が、本当にあれでよかったのかと、自問する。
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