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第五話 菖蒲の蜜を味わい
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初めての夜から五日が過ぎた。
鶴丸は、まるで熱病に浮かされたように、ぼんやりとした日々を過ごしていた。昼間、主君である忠晴の側に仕えていても、心はそこにあらず。ふとした瞬間、あの夜の出来事が生々しく蘇るのだ。
月光に濡れた菖蒲の白い肌。甘い花の香りと、乱れた寝間着から覗くうなじ。そして、己を受け入れた時の、あの苦しげで、それでいて甘美な喘ぎ声。
自分は、あの気高い奥方の、誰も知らない秘密の扉を開けてしまった。
その背徳的な事実は、鶴丸に罪悪感と同時に、生まれて初めての男としての万能感を与えていた。
だが、あれ以来、菖蒲からの呼び出しはぷっつりと途絶えている。もしかしたら、あれは本当に「今宵一夜」限りの夢だったのではないか。あるいは、何か自分の過ちが、彼女を深く傷つけてしまったのではないか。
不安と焦燥に駆られ、鶴丸の心は千々に乱れていた。
そんな彼の様子を、菖蒲は冷ややかに観察していた。侍女を通じて、鶴丸が食事も喉を通らず、夜も眠れずにいることは、すべて筒抜けだった。
──熟し頃か。
菖蒲は、頃合いを見計らい、再び侍女頭の瀬戸を鶴丸のもとへ遣わした。伝言は、前回と同じ。「今宵、月の見える離れの茶室にて」。
再び茶室に足を踏み入れた鶴丸は、焦がれるような想いに満たされていた。菖蒲の姿を認めるやいなや、彼はその前にひざまずいた。
「奥方様……! 先夜は、わたくし……」
「鶴丸、何も言うてはなりません」
菖蒲は、その言葉を静かに遮ると、鶴丸の前に座り、そして彼の頬にそっと手を添えた。指先は鶴丸の耳や首を慈しむようになぞっていく。
「……鶴丸。この前のようでは、わたくしの身体がもちませぬ。お前の熱は、あまりに激しすぎるゆえ」
菖蒲は、目を伏せた。
その言葉と仕草は、責めているようで、それでいて彼の男としての力を褒めているようにも聞こえた。
「お前は、まだ本当の女を知らぬよう。……ゆえに今宵は、わたくしがお前に、女だけの閨の悦びというものを、教えてあげたい」
菖蒲は腰を上げて、足を前に出して、二つの膝を立てた。そして彼の手を寝間着の合わせ目に、ゆっくり導いた。彼が、自分を押し入れたところへと触れさせる。
菖蒲は少しくすぐったい顔をして、言った。
「ここは、えもいわれぬ気持ちを味わえました……しかし、女を悦ばせるのは、本当はここではありません」
彼女の声は、熱を帯びた囁きに変わっていた。
「わたくしは女。お前が真に愛でるべき場所は……ここです」
鶴丸の指先が、初めて、柔らかく、温かく、そして湿り気を帯びた場所に触れた。
それは、彼が知る殿の身体とは全く違う、生命そのもののような感触。彼は、雷に打たれたような衝撃を受け、自分が犯した間違いを初めて悟った。
「も、申し訳……ございません……!」
「謝って許されることではありません。それに知らぬことは、罪ではない。……さあ、わたくしに触れなさい。お前が、お前を許せるように、その指を使うのです」
菖蒲は、まるで母が子に教えるように、あるいは熟練の遊女が初心な若者に手ほどきするように、鶴丸の指を導き、女体の神秘と、その構造を、そしてどこをどうすれば快感の泉が湧き出るのかを、自らの身体をもって教えていく。
鶴丸は、菖蒲の吐息と、時折漏れる甘い声に導かれるまま、夢中で彼女の身体を探った。
前回とは全く違う、柔らかく、熱く、生命に満ちた場所。
彼は、自分を受け入れ、そして本当の悦びへと導いてくれる菖蒲への感謝と思慕で満たされていく。
やがて、菖蒲は指の使いが慣れてきた鶴丸を独り立ちさせるように教えるのをやめて、自分も女として鶴丸の身を抱きしめた。そして甘い吐息を漏らしながら、その耳元で「指だけでは何も許されません」と冷たく言い放った。
座ったまま、抱擁して、唇を重ねていく。二人はそれぞれ着衣を脱がせあっていく。もはや、どちらも一糸纏わぬ姿となった。
菖蒲が腰を浮かす。そして、鶴丸の上に跨り、彼の昂りを握りながら、自身の奥深い場所へと迎え入れた。
「……っ、あ……!」
鶴丸の口から、驚愕と快感の入り混じった声が漏れた。
前回とは比べ物にならない、吸い付くような熱と、柔らかさ。身体の芯までが、直接繋がったかのような、圧倒的な一体感。彼は、これが本当の交わりなのだと、魂で理解した。
菖蒲は、鶴丸の上で、腰を揺らし始める。彼女の長い黒髪が、彼の胸を官能的にくすぐる。月明かりに照らされたその顔は、恍惚に潤み、もはや氷のような正室の面影はどこにもなかった。
「どうです、鶴丸……。これが、女の身体よ。……わたくしの身体は、お前を悦ばせておるか?」
「はい……! 菖蒲様……! 夢の、ようでございます……!」
鶴丸は、そのあまりの快感と幸福感に、知らず知らずのうちに涙を流していた。
菖蒲もまた、彼を完全に籠絡したという満足感と、予期せぬ本物の快感に、身を震わせる。
この若い男を意のままに操っているはずが、いつしか自分も、彼が与える純粋な悦びに溺れている。復讐という冷たい目的が、熱い官能によって溶かされていくような、危険な感覚。
その夜、菖蒲は声を上げて泣きじゃくった。それは、鶴丸の成長によってもたらされた、危険な甘美の涙だった。
鶴丸は、その涙を、自分が彼女を心から満足させた証だと思い、深い愛と達成感に満たされていた。
鶴丸は、まるで熱病に浮かされたように、ぼんやりとした日々を過ごしていた。昼間、主君である忠晴の側に仕えていても、心はそこにあらず。ふとした瞬間、あの夜の出来事が生々しく蘇るのだ。
月光に濡れた菖蒲の白い肌。甘い花の香りと、乱れた寝間着から覗くうなじ。そして、己を受け入れた時の、あの苦しげで、それでいて甘美な喘ぎ声。
自分は、あの気高い奥方の、誰も知らない秘密の扉を開けてしまった。
その背徳的な事実は、鶴丸に罪悪感と同時に、生まれて初めての男としての万能感を与えていた。
だが、あれ以来、菖蒲からの呼び出しはぷっつりと途絶えている。もしかしたら、あれは本当に「今宵一夜」限りの夢だったのではないか。あるいは、何か自分の過ちが、彼女を深く傷つけてしまったのではないか。
不安と焦燥に駆られ、鶴丸の心は千々に乱れていた。
そんな彼の様子を、菖蒲は冷ややかに観察していた。侍女を通じて、鶴丸が食事も喉を通らず、夜も眠れずにいることは、すべて筒抜けだった。
──熟し頃か。
菖蒲は、頃合いを見計らい、再び侍女頭の瀬戸を鶴丸のもとへ遣わした。伝言は、前回と同じ。「今宵、月の見える離れの茶室にて」。
再び茶室に足を踏み入れた鶴丸は、焦がれるような想いに満たされていた。菖蒲の姿を認めるやいなや、彼はその前にひざまずいた。
「奥方様……! 先夜は、わたくし……」
「鶴丸、何も言うてはなりません」
菖蒲は、その言葉を静かに遮ると、鶴丸の前に座り、そして彼の頬にそっと手を添えた。指先は鶴丸の耳や首を慈しむようになぞっていく。
「……鶴丸。この前のようでは、わたくしの身体がもちませぬ。お前の熱は、あまりに激しすぎるゆえ」
菖蒲は、目を伏せた。
その言葉と仕草は、責めているようで、それでいて彼の男としての力を褒めているようにも聞こえた。
「お前は、まだ本当の女を知らぬよう。……ゆえに今宵は、わたくしがお前に、女だけの閨の悦びというものを、教えてあげたい」
菖蒲は腰を上げて、足を前に出して、二つの膝を立てた。そして彼の手を寝間着の合わせ目に、ゆっくり導いた。彼が、自分を押し入れたところへと触れさせる。
菖蒲は少しくすぐったい顔をして、言った。
「ここは、えもいわれぬ気持ちを味わえました……しかし、女を悦ばせるのは、本当はここではありません」
彼女の声は、熱を帯びた囁きに変わっていた。
「わたくしは女。お前が真に愛でるべき場所は……ここです」
鶴丸の指先が、初めて、柔らかく、温かく、そして湿り気を帯びた場所に触れた。
それは、彼が知る殿の身体とは全く違う、生命そのもののような感触。彼は、雷に打たれたような衝撃を受け、自分が犯した間違いを初めて悟った。
「も、申し訳……ございません……!」
「謝って許されることではありません。それに知らぬことは、罪ではない。……さあ、わたくしに触れなさい。お前が、お前を許せるように、その指を使うのです」
菖蒲は、まるで母が子に教えるように、あるいは熟練の遊女が初心な若者に手ほどきするように、鶴丸の指を導き、女体の神秘と、その構造を、そしてどこをどうすれば快感の泉が湧き出るのかを、自らの身体をもって教えていく。
鶴丸は、菖蒲の吐息と、時折漏れる甘い声に導かれるまま、夢中で彼女の身体を探った。
前回とは全く違う、柔らかく、熱く、生命に満ちた場所。
彼は、自分を受け入れ、そして本当の悦びへと導いてくれる菖蒲への感謝と思慕で満たされていく。
やがて、菖蒲は指の使いが慣れてきた鶴丸を独り立ちさせるように教えるのをやめて、自分も女として鶴丸の身を抱きしめた。そして甘い吐息を漏らしながら、その耳元で「指だけでは何も許されません」と冷たく言い放った。
座ったまま、抱擁して、唇を重ねていく。二人はそれぞれ着衣を脱がせあっていく。もはや、どちらも一糸纏わぬ姿となった。
菖蒲が腰を浮かす。そして、鶴丸の上に跨り、彼の昂りを握りながら、自身の奥深い場所へと迎え入れた。
「……っ、あ……!」
鶴丸の口から、驚愕と快感の入り混じった声が漏れた。
前回とは比べ物にならない、吸い付くような熱と、柔らかさ。身体の芯までが、直接繋がったかのような、圧倒的な一体感。彼は、これが本当の交わりなのだと、魂で理解した。
菖蒲は、鶴丸の上で、腰を揺らし始める。彼女の長い黒髪が、彼の胸を官能的にくすぐる。月明かりに照らされたその顔は、恍惚に潤み、もはや氷のような正室の面影はどこにもなかった。
「どうです、鶴丸……。これが、女の身体よ。……わたくしの身体は、お前を悦ばせておるか?」
「はい……! 菖蒲様……! 夢の、ようでございます……!」
鶴丸は、そのあまりの快感と幸福感に、知らず知らずのうちに涙を流していた。
菖蒲もまた、彼を完全に籠絡したという満足感と、予期せぬ本物の快感に、身を震わせる。
この若い男を意のままに操っているはずが、いつしか自分も、彼が与える純粋な悦びに溺れている。復讐という冷たい目的が、熱い官能によって溶かされていくような、危険な感覚。
その夜、菖蒲は声を上げて泣きじゃくった。それは、鶴丸の成長によってもたらされた、危険な甘美の涙だった。
鶴丸は、その涙を、自分が彼女を心から満足させた証だと思い、深い愛と達成感に満たされていた。
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