落ちこぼれ貴族は召喚した賢者に愛されています

もやしいため

文字の大きさ
15 / 38
第三章:賢者の試行錯誤

ガーディエル学園図書館

しおりを挟む
 王都屈指の蔵書量を誇るガーディエル学園図書館。
 ここは常時何人もの憲兵が不審者に目を光らせています。
 そんな様子に驚いたのか、ヴェルターは「なかなか物々しい警備だね?」とわたしに問いかけてきました。

「本は貴重ですから、火をつけられないためだと思います」

「過去にあったかのようだね」

「学園史には無かったと思いますが……」

「そんなものまで教えているのか」

 ヴェルターは「へぇ」「ほぉ」と感心しながら学園図書館を観察していきます。
 幾多の戦争を乗り越えた歴史を持つ建物は、それ自体が美術品としての価値を持つばかりか、知識を保存している宝物庫の役目も担っています。
 こんなにも格式高い図書館は他国にも滅多に存在しないらしいので、物珍しいのは仕方ありませんよね。

 そういえば目的地は何処でしょうか?

 ……うん、やはり魔法関連ですよね。
 魔力があると教えられたわたしは、今まさにやる気に満ちています。
 ヴェルターの手を引いて魔法書が置いてある書架へと向かいます。
 何でもドンと来いですよ!

「随分と奥へ向かうね。私のために一周してくれているのかい?」

「今向かっているのは魔法関連の書架ですね。案内が必要なら他のも説明しますよ」

「魔法書かね」

「はい。あくまでも解説書で魔導書グリモアは置いていませんが」

魔導書グリモアというと頭に術式を焼き付けるモノかな? 本当にティアナはせっかちさんだね」

「さん付けされても嬉しくありませんよ! 魔法を使えるようになるのにどれだけ待ったか……」

「なら少し巻き・・で行こうか。貸し出しはされるのだろうか?」

「わたしは二十冊まで許可いただいています」

「随分と多いね……わたし?」

「あー……実技まほう以外は成績が良くて特別待遇で……」

 軽くへこみつつ気恥ずかしさに俯きました。
 改めて実感しますが、わたしはこの学園で必要な力だけが足りないのですね。
 視線を下げた頭にぽんと手が乗せられ、穏やかな声が「魔法の成績もすぐ上がりますしね」と降りてきました。
 もう何度も言われているにも関わらず、心が湧き立ち目をきらきらと輝かせてしまいます。

「ではジャンルごとに一冊、二冊借りて行こうか」

 頬が緩んだ顔を上げた頃にはヴェルターはもう次のことに意識が向いているようでした。
 わたしに負けず劣らずのうきうきした表情で棚に刺さる背表紙を眺めています。
 そうですね、わたしばかり楽しみにしてもいけませんよね。
 ヴェルターにもこの世界を知ってもらいたいですし。

 ……あれ?
 そういえば、と疑問が浮かびました。

「ヴェルター、魔法士けんじゃの貴方が、どうやってアミルカーレ様の速度に追いつけていたのですか?」

「いまさらな質問だね。単に私の方が戦い慣れているだけではないかな」

「えぇ……それにしたって背後の攻撃も止めていませんでした?」

「興味が出てきましたか。もう少し訓練した後でも良かったけれど、時間も惜しいですし歩きながら簡単に講義をしようか」

 嬉しくて思わず「はいっ!」と元気よく答えると、口元に人差し指を立てたヴェルターに「読書中の人も居るから静かにね」と当たり前の指摘を受けてしまいました。
 にこやかな笑みが苦笑いに変わる瞬間を見て申し訳なくなると同時に、興味を持てばすぐに教えてくれるヴェルターは、わたしにとって最適な先生だと確信します。

「さっきも言ったように、暴力沙汰では実戦経験の有無が歴然な差となって現れます。
 当然、実戦の数が多いほど差は出ますし、強者と戦うほど瞬間的な判断力が必要になり、鍛えられていくわけですね」

「ではヴェルターは賢者と呼ばれるまでに沢山戦ったのですか?」

「平たく言えばそうですね。召喚時にティアナに『どんな問題が?』と訊いたと思うのですが……」

「あっ! 確かに言われました。え、でもそれが何か?」

「もしも『初めての召喚』ならそんなことを訊かないと思いませんか?」

「……もしかして過去に他の世界から呼ばれたことがあるんですか」

「えぇ、私は幾度となく召喚の要望オファーを受けていますよ」

 気楽な調子で話していますが、そんなことがあるのでしょうか?
 わたしの賢者様はもしかして途方もないすごい人なのでは……と、いまさらになって頬が引きつるような事実を知らされました。

「世界を救って歩いているのですか?」

「まさか。いくら私でも世界が抱える問題に介入できることなどほとんどありませんよ」

「……ほとんど・・・・?」

「たとえば『理由は分からないが天変地異に見舞われているのを何とかして欲しい』と言われても無理ですよね。
 しかし『巨大な火山が噴火していてこのまま放置することはできない』のであれば、その原因かざんをどうにかすれば良いだけですからね」

「スケールが大きすぎるのですが……?」

 たとえ話にしては明確ですし、きっと過去にあったことなんでしょうね。
 けれど異界から召喚してまで止めなくてはいけない火山ってどんな規模ですか。
 しかも言い方からするときっと何とかしたと思いますが……何すれば良いのか、訊くのも少し怖い気がします。

「ちなみに単に戦力を欲した個人や国の召喚もありましたよ」

「わたしみたいですね」

「ふふ……君とは違いますよ」

「そうですか?」

「証明のために呼んだティアナは、成長のためにと『契約が不完全な私』を引き止めている状態でしょう?」

「それは……えっと、すみません」

「非難しているわけではないよ。自己研鑽に勤しむ子は好きだからね。
 そんな君と、言い訳が上手いだけで他力本願な召喚者たちとを比較するのもおこがましいというものだ」

 もしかして褒められてる?
 それとも他の召喚者が貶されている?
 どちらにしても『召喚』にあまり良い思いは無いのかもしれませんね。

「召喚されて嫌でしたか……?」

「さっき話したような他力本願の馬鹿は、何故か見下して来ることが多かったりもするからね。
 本来の召喚であれば、私も思うところがあっただろうが……召喚者がティアナでむしろ良かったと思っているくらいだよ」

 良かった……嫌われているわけではなかったようです。
 あ、でも本当に嫌なら異界へ帰ってしまいそうですよね。
 この賢者様はそれくらい平気でできそうですし。

「話を戻そうか。実戦経験以外にも理由を挙げるなら、単にアミルカーレ様の動きが手に取るようにわかるからですね」

「その理由が知りたいのですが……」

「ティアナはやはり視野が狭い。仮想戦場ヴァーチャルウォーの説明は既にしていたはずですよ」

 ということはあの魔法か、舞台上で特別な何かがあるってことですか?
 ルール的には『舞台から降りたら負け』でしたよね……範囲が区切られてるから相手の行動を読みやすいとかでしょうか?

「そう唸って考えるほどではないのだけれど……あの仮想戦場ヴァーチャルウォーを形成した際に『魔力の膜』が作られる話はしたね?」

「はい。強制的に魔力を奪われて作るんでしたよね」

「そうだね。だから魔力感知が行える魔法士の独壇場なのですよ」

「……アミルカーレ様も魔法士ですよ?」

 『だから』と言われても、いったい何の話をしているのか分からない。
 いくらアミルカーレ様が剣で戦ったからと言っても、魔法士でなくてはあそこに立てません。
 むしろ第三位階ロックバレットまでなら無詠唱で使うアミルカーレ様が魔法士ではない、なんて言えるわけが……。

「確かに彼は魔法も扱っていました。さながら魔法剣士と言ったろころでしょうか」

「アミルカーレ様も普段は魔法で戦うのですが、今回は最初からほんき出してましたよ」

「それはまた光栄なことですね。ですがそれでも魔法士と呼ぶにはいささか隙がありすぎますね」

「隙ですか?」

「えぇ、だって相手は輪郭のはっきりした魔力を垂れ流しにしているわけですよ。
 私が威圧のために分かりやすく魔力を外に出した時のように、目を瞑っていたって場所が分からなければおかしいでしょう?」

 魔力圧とか言うんでしたっけ?
 って、え…もしかして仮想戦場ヴァーチャルウォーが作った魔力の膜でも同じように感じ取れる?
 自分ですら実感のないごく薄い魔力を? 本当に?
 わたしが絶句していると

「おや、この世界では習わない技術ですか?」

「習いますが……小さすぎて誰も気付けませんよ」

「そうですか? 選別が必要だったり、対象が多かったり、範囲が広かったりといった困難な条件をことごとく排除した、あんな理想的な場面でも?」

「むーりーでーすぅ! そんなことができるのはヴェルターだけですよっ!」

「ほらほら、大声を出しては周りに迷惑ですよ」

 口を閉じて「むぅ……」とうつむく。
 でもそれができたから背後からの攻撃も止めたわけですし。

 あれ……そういえば最初は防御もせずに攻撃を受けてましたよね?
 防ぐ必要もないほど魔力量が多いとかで……え、じゃぁわざわざ魔法使って受け止めた? 何のために?
 ……あ、さっき『もう少し後で話すつもり』って言ってませんでした?
 まさかっ! わたしに信じさせるためにわざわざ魔法で止めた?
 え、何それ…本当に……?

 頭で渦巻くいろいろな思いと格闘しているわたしに、ヴェルターが「それでは行きましょうか」と声を掛けて来ました。

「何処へですか?」

「魔法の訓練ですよ」

 わたしは当然元気よく「はいっ!」と答えました。
 もちろん、ヴェルターに「静かにしようね」と叱られちゃいましたが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。 何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。 第一部(領地でスローライフ) 5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。 お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。 しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。 貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。 第二部(学園無双) 貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。 貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。 だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。 そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。 ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・ 学園無双の痛快コメディ カクヨムで240万PV頂いています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男
ファンタジー
【通称:パイプ椅子令嬢/本編完結】 前世で病弱のまま人生を終えた少女は、異世界で辺境伯令嬢レヴィーネとして転生した。 二度目の人生で彼女が選んだ生き方は、「誰よりも強く、自由であること」。 魔法が支配する世界で、彼女が最も信頼する武器は――鍛え上げた肉体と、ドワーフ謹製の黒鋼製パイプ椅子だった。 学園での陰謀、洗脳国家、地下闘技場、鎖国する和風国家、そして大陸規模の経済と交通網。 あらゆる理不尽を前にして、レヴィーネは一切の迷いなく“物理”で道を切り拓いていく。 相棒となる元聖女アリス、実務を一手に引き受ける秘書ミリア、そして個性豊かな仲間たち。 筋肉と再生と経済――三つの力が噛み合ったとき、彼女たちの行く先は国家の枠を超えていく。 これは、悪役令嬢という役割を“ヒール”として引き受けた一人の少女が、 世界を相手にリングへ上がり続けた物語。 爽快さとスケールを両立した、長編ファンタジー。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

処理中です...