【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ

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番外編(馨)ラブなレター6

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凪は笑いながら目元を指でこすった。しかしその笑顔は、どこかぎこちなく、貼りついた仮面のようだった。瞳の奥に潜む揺らぎを、完全に隠しきれるものではない。

ふと視線を落とすと、細い指にはめられた指輪がきらりと光った。数か月前、馨が帰国した際に手渡してくれた大切なもの。小さな宝石が埋め込まれたシンプルなデザインだ。


「一生、そばにいてくれる?」


あのとき笑いながら囁いた馨の声が、鮮明に蘇る。胸が締めつけられ、呼吸すら苦しくなった。だが今は、その約束の重みすら耐えがたい。ニュースの見出しが脳裏に焼きつき、胸の奥をじくじくと刺す。凪はそっと指輪を外すと、震える手で鞄の奥へしまい込んだ。

もうこれ以上、知りたくない。

どうせ近いうちに、自分のスマホにも同じニュースや世間の声が飛び込んでくる。それを見るたびに心が抉られるのは目に見えていた。

凪は携帯の電源を切り、そのまま机に突っ伏した。馨からどんな言葉を聞かされるのかを考えるだけで怖かった。「ただの噂だよ」と笑い飛ばしてくれるのか。それとも…。最悪の想像が頭から離れず、眠れぬまま夜を越えた。

翌朝。結局一度もスマホを開かないまま、重たい足取りで大学へ向かう。通い慣れたはずの道が、なぜか妙に遠く感じた。胸の奥に冷たい石を抱えているようで、呼吸すら浅くなる。講義を終えても、その重さは消えず、心の底に沈殿していくばかりだった。


「小鳥遊先輩」


不意に名前を呼ばれ、凪は振り返った。そこに立っていたのは、目を引く明るい髪色、長い手足、整った顔立ちの青年。校内を歩けば女子の視線をさらっていくであろう存在感を放っていた。まるで待ち構えていたかのように凪に近づいてきた彼は、どう見ても後輩のようだったが、凪には見覚えがない。

戸惑う凪をよそに、彼は白い封筒を差し出した。薄紙越しに便箋の影が透けて見える。


「小鳥遊先輩に、これ受け取ってほしいんです」


凪は思わず封筒を受け取り、指先でじっと撫でるように眺めた。


「いい返事をもらえたら……嬉しいです」

「えっと……それは、どういう意味……?」


問いかける凪に、後輩は照れくさそうに笑う。


「指輪、外してるのを見たんです。その瞬間狙ってたんですよね。それで、慌てて書きました。直接言うより……手紙の方が、ちょっとロマンチックかなって」


照れたように笑ってそう言い残すと、彼は軽く手を振り、足早にその場を去っていった。

凪は呆然としたまま、その後ろ姿を目で追いかけた。
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