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しおりを挟む「琥珀くん?」
「ん? どうした?」
学校へと向かう道、二人で並んで歩いていたが、琥珀がいつもと違って口数が少ないため、昴は不思議に思い声をかけた。
「学校で何かありましたか?」
「いや、別に何もないよ。どうしたんだよ、急に」
琥珀は困ったように軽く笑って答えた。しかし、昴の表情からは心配だという感情が滲み出ている。
慶也の記憶を思い出してから数日。琥珀はそのことを昴に伝えるタイミングをずっと伺っていた。考え込むうちに表情がぎこちなくなってしまい、それを敏感に察した昴に勘付かれてしまったのだろう。
このまま黙っているわけにはいかない。そう思いながらも、琥珀の口は重かった。
「……あのさ、昴」
琥珀は突然足を止め、先を歩く昴の背中に向かって呼びかけた。
数歩先を歩いていた昴が驚いたように振り向く。
「俺、慶也のこと思い出したんだ」
琥珀の声は、聞こえるか聞こえないかほどの小さなものだった。
途端、昴の碧眼が大きく見開かれる。昴の体がわずかに強張った。
「……思い出したんですね」
昴の声は静かだった。しかし、その奥には悲しみや不安が滲んでいた。彼はふっと視線を落とし、力の抜けていた手をギュッと握りしめる。
「琥珀くんは、これからどうしたいですか?」
昴の問いはまっすぐだった。
「俺は、慶也に今の想いを伝えるべきだと思ってる。この思いを伝えないことは、俺にとっても、昴にとっても、慶也にとってもいい方向にはつながらないと思ってるから」
琥珀は昴の目をまっすぐに見つめながら、はっきりと言葉を紡ぐ。
その真剣な眼差しを見た瞬間、昴は一瞬呼吸を止めた。
「俺は……今のうちはっきりと言っておきます。」
昴の声が、静かに響く。
「あなたのことを幸せにしたいなと思っています、これから一生。あなたを愛しているから」
「昴……」
琥珀は言葉を詰まらせる。
「でも、もし琥珀くんが自分の望んでいることでないのに、良心で俺と共にいることを選ぶのであれば、あなたの人生にきっと大きな後悔が残る。あなたを縛りつけたという後悔はきっと俺にも残る。」
昴はゆっくりと息を吸い込み、前髪をかきあげた。その仕草の奥には、辛さを堪えようとする沈痛な思いが見え隠れしていた。
「俺はあなたに告白をした時に言いましたよね? 『琥珀さんが新たな幸せを見つけた時、俺は素直に離れます』と」
そう言いながら、昴は琥珀の目の前まで近づく。
そして、そっと触れるか触れないかの距離で、琥珀の頬を指先で撫でた。
「本音を言うと、俺のことを選んで欲しい。でも…」
昴はそこで声を詰まらせた。そして、その数秒後、その声は問いかけに変わった。
「琥珀くん、俺はあなたのことを大事にできましたか?」
「うん……すっげえ大事にしてくれたよ」
琥珀は力強く頷く。
「何度も守ってもくれたし、本物の王子みたいだって……出会った時から思ってた」
その言葉に、昴の顔は苦痛に歪む。
「……そうですか。琥珀くんがそう思ってくれただけで俺は本当に幸せ者です。」
昴は眉を曲げ、口元に無理に微笑みを浮かべる。そして、琥珀の頬からそっと指先を離した。
「これから、慶也のところ行ってくるよ」
「……はい」
昴は静かに目を伏せた。
「これ以上ここにいたら、あなたのことを引き止めてしまう……気をつけて行ってきてください」
「……うん」
琥珀は唇を噛みしめながら、昴の元から走り出す。
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