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番外編
愛しい時間
しおりを挟む「んっ…」
琥珀は目を閉じながら、腕を広げて愛しい恋人の存在を確かめようとするが、ほんのりと暖かさが残っているだけでそこには何もなかった。
隣り合って眠っていたはずの恋人の姿がなく、琥珀は眉間に皺を寄せる。
気温が低いため中々ベッドから出る気になれなかったが、数分経つと恋人が恋しくなりベッドから起き上がった。寝室から出ると一気に寒気が身を包み鳥肌が立ちそうになる。
自身の体を抱きしめて、水の音が聞こえてくる洗面所に顔を覗かせると、上半身裸でスウェットのズボンのみを履いている昴の姿があった。逞しい肉体をしていることが背中からでもわかる。
昴は寒い冬に好んでそのような格好をしているわけではなく、昴の上のスウェットは琥珀がきていたため、ズボンしか着用していなかった。琥珀のパジャマはというとベッドの下に転がっている。
その変わり琥珀は下のズボンを着用していない。
2人には体格差があるため、昴のスウェットを着ると琥珀の太ももくらいまでは隠れるワンピースのようになっていた。
「すばるっ…寒い」
琥珀は髪を水で濡らしていた昴に背後から腰元に抱きついた。逞しい筋肉に頬を寄せる。
「琥珀くん、おはよう」
昴は微笑みを浮かべると、琥珀の方を向き額にキスをした。
高校を卒業してから4年以上が経ち、昴と琥珀は同棲を始めていた。
昴は有名大学を卒業後、外資系コンサルティング会社に就職し、同世代の平均を大きく上回る年収を得ている。
やがては父が経営している会社を継ぐ予定だ。
琥珀はというと、大学に進学したが、特に目標も見つけることができないまま時間が過ぎ、無難な中小企業に内定をもらった。そこで営業として働いていたが、直属の上司から「女装をして接待をしろ」や頭を撫でられる。手を握られるというセクハラを受け、琥珀は会社を退職してしまった。
昴だけに頼るわけにはいかないと、すぐに仕事を探そうとしたが、退職理由を知った昴は珍しく激しい怒りの感情を向け、「お願いだから目の届かないところに行かないでほしい」と懇願されてしまい、現状は無職の日々を送っている。
「隣いなくて寂しかった…起こせばいいのに…」
琥珀が昴に抱きつき文句を告げる。昴の熱い体温が直接伝わってきてそれが心地よく胸に頭を預けた。
「すいません、寝顔があまりに可愛くて起こせなかったんです。」
昴はふざけた様子もなく、それが冗談でいっているのではないことはもう何年も一緒にいるためわかってしまう。
「昴、もう仕事行くの…?」
琥珀が潤んだ瞳で昴を見上げると、昴が顔を近づけて唇を重ねた。昴の舌が口内を割って入ろうとしてくるため硬く口を結んで防ぐ。
昴は琥珀の唇を舌で舐めて、顔を離す。
「何でキスしてくんだよっ…」
琥珀が昴の胸を叩いて抗議をすると、昴は淫美な笑みを浮かべて琥珀の耳元で囁いた。
「その目を見ていたら、昨晩の可愛い琥珀くんのことを思い出してしまって」
昴は琥珀のスウェットの中に手を滑りこまして、背中に手を這わす。
「やっ」
昴は琥珀の頬にキスを送る。昨晩の熱い夜の証が琥珀の内腿や下腹部に多くつけられている。琥珀はスウェットのズボンを履いていないため、その証が大胆に主張されていた。琥珀の肌は白いため尚更だ。
昴は高校生の時も大人ぽかったが、大人になってからは更に大人の妖艶な色気が加わった。後ろになでつけた髪は更にその色気を増長させる。
おまけに日々、トレーニングもしているため、身体も高校生の頃と比べてさらに筋肉質で一回り大きくなった。
こんな魅力的な男を誰が放っておくのか。琥珀が外で昴と並んで歩いている時も女性が昴の方に視線を送っているのを感じる時がある。
待ち合わせをしているときは女性から話しかけられる、いわゆる逆ナンパというものさえされている時があるのだ。
琥珀は日々、昴が自分より魅力的な女や若い女に奪われてしまうのではないかと不安があるが、昴はその不安を解消するように琥珀が会社を辞めてからは毎晩のように愛を育んでいる。
琥珀が会社に勤めていた時は、疲れで恋人としての営みをする機会が減っていたが、昴はたがが外れたように琥珀を愛した。そして、毎日忘れずに琥珀への愛を口にする。
「何でこんな毎日可愛いんですかね?不思議です。日々美しくもなる。」
昴は琥珀のこめかみに音を立ててキスをする。
「昴だってそうじゃん
いつもかっこいいし…それに身体だって」
そんな会話は学生の時とは変わらないあどけなさを残している。
琥珀は指を伸ばして、昴の割れた腹筋の溝に指をすべらせた。
「琥珀くん、誘ってるんですか?」
「ばかっ、違う
俺は昴みたいな変態じゃないしっ」
「恋人の前で変態になって何が悪いんですか?」
昴は軽々と琥珀の身体を持ち上げると肩に担ぎ上げる。琥珀はおとなしく寝室まで運ばれた。ベッドに優しく降ろされ、昴はベットに片足を乗せて乗り上がると琥珀と額を合わせた。
「琥珀くん、俺が仕事から帰ってくるまでゆっくり家で過ごしていてください」
「…」
琥珀は1人で広い家にいるのが寂しくて、無意識に頬を膨らました。昴は不自由をさせたくないと2人でも十分過ぎるくらいの広さの部屋を借りているが、1人だと逆に寂しくも感じる。
「すぐ帰ってきます。お土産は何がいいですか?」
「…昴のぎゅーがいい」
昴は笑い声を上げると、琥珀を強く抱きしめる。
「承知しました。琥珀くんはゆっくり眠っていてください。起きたら朝ごはんの用意ができていると思うのでそれを食べてください。外出するときは俺に必ず連絡を。それと」
「昴、帰ってきたらチューもたくさんしようね」
昴の言葉を遮るように言った琥珀の言葉に。
琥珀のとろけるような笑みがあまりにも愛らしくて、昴は本気で会社を休んでやろうかと悩むほどだった。2人の間に流れる愛しい時間。
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