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しおりを挟む「伊藤くん…?」
「名前覚えててくれたんですね」
彼はあの眩しい笑顔を私に向けた。
その笑顔を真正面から受け止めてしまい、一瞬だけ視界が白くなる。街灯の光のせいなのか、それとも単純に眩しすぎるのか、自分でも分からなかった。
肩は上下していて、少し息が上がっていた。もしかして追いかけて来てくれたのだろうか、なんて考えが頭をよぎる。そんなわけない、とすぐに打ち消したくせに、心臓の音だけは誤魔化せなかった。
「あ、もちろんですよ
あの、えーと…
私何か忘れ物でも…」
もしかして忘れ物でもしたのかもしれないとカバンの中を確認するも、何かを忘れているわけでもなさそうだった。
ハンカチ、財布、スマートフォン。全部ある。むしろ、こんなにきちんと確認したのは久しぶりかもしれない。伊藤くんの前だと思うと、些細な仕草まで意識してしまう自分が情けなかった。
「あの、急なんですけどよかったら連絡先交換しませんか!」
「……ん?え?なんで?」
まさかの言葉に対して敬語も忘れ、間の抜けた声が出てしまった。
頭の中が一瞬で真っ白になる。今、何て言った?聞き間違い?それとも、これは合コン特有のノリというやつ?理解が追いつかず、時間だけが妙にゆっくり流れている気がした。
「いや、その正直ユイさんのことが気になっちゃって。」
伊藤くんは視線を少し下に向けた。
さっきまで迷いなくこちらを見ていた目が逸れたことで、逆に本音っぽさが増してしまうのがずるい。
「このまま連絡取れなくなるのも嫌だから直接聞こうと思ってたんですけど。
ダメですか…??嫌になったらすぐにブロックしていいんで…でも、どうしてもこの機会逃したくないんです」
真剣な目で見つめてくる彼。思考が全く追いつかない。
どうして、そこまで言えるの。私の何を知っているの。名前だって、今日知ったばかりなのに。
何で、私と連絡が取れなくなることが嫌なの。私が金づるのように見えたとか…??
急に現実的な思考が割り込んできて、胸の奥が冷える。期待するな、と自分に言い聞かせる癖は、こういう時だけは役に立つ。
でも、お金なんて実際そんな持ってないし、こんな身なりだから言ってしまえばお洒落な服を着こなす伊藤くんより、お金を持っていなさそうな見た目をしている。インターネットとかで聞く特殊詐欺の勧誘とかだろうか。
全く彼の思考が理解できないまま、私は固まってしまっていた。
「ユイさん??」
見つめられ続けるとこちらの心臓にも悪いし、こんなイケメンの連絡先交換を断る勇気を私は持ち合わせていない。
断ったあとの空気を想像するだけで、胃のあたりがきゅっと縮こまる。
実際、今も女の子達が伊藤くんの横を通った後、私の顔を見て衝撃的な顔を浮かべていた。
「ユイさん??」
もう一度呼びかけられた。
見つめられ続けるとこちらの心臓にも悪いし、こんなイケメンの連絡先交換を断る勇気を私は持ち合わせていない。
実際、今も女の子達が伊藤くんの横を通った後、私の顔を見て衝撃的な顔を浮かべていた。
"え??あれって彼女?!美男と野獣じゃん!!"
"うわ!本当だ!カップルなのかな??"
"いや、ないない!あんなイケメンがあれと付き合わないでしょ??"
最近の子は、声が大きくて困る。話し声が丸聞こえだ。
それにしても美男と野獣なんて、中々いいネーミングセンスをしているなんて、馬鹿にされたにも関わらず、感心してしまう。頭の中で冗談で済まそうとしているのに心はしっかり傷ついていて唇を噛み締めた。
「あの…やっぱりダメですか??」
眉を下げて悲しそうな目をする伊藤くんに罪悪感が芽生える。
「あ!いや、あのなんで私と連絡先交換したいんですかね…?なにかの勧誘とかでは…私お金持ってないんです…」
そういうと、伊藤くんは真剣な表情から目元を緩めて笑った。
「勧誘じゃないです。ただユイさんのことが気になるんです。」
「そんな気を使って頂かなくても…」
「本気なんです。」
いったい何を言っているんだ。この人は。いくらなんでも信じられない。
「連絡先…だめですか…」
伊藤くんはまたもやしょんぼりした顔を浮かべる。見えるはずもない耳と尻尾が垂れ下がっているような幻覚まで見える。
「わかりました…交換しましょう。」
「本当ですか!ありがとうございます」
こんなつもりじゃなかったのに…。
携帯を操作してあっという間に追加された彼の連絡先。
「追加されました!」
伊藤くんは眩しい笑みを浮かべていて直視ができない。溶けてしまいそうだ。
「駅まで送ります!」
「え??」
「ダメですか?
この辺結構、危ない人とかナンパも多いし、女性は危ないと思います」
またもや彼は何を言っているのだろうか。
私が男の人から声かけられるなんてこともないだろうし、声をかけられたとしても何かの勧誘だろう。逆に彼の方が声をかけられるんじゃないかと心配になる。
「いえ、大丈夫ですよ
伊藤くんこそお気をつけて」
固まった表情のまま、笑顔を浮かべようとするからまた口角がプルプルと震えて、伊藤くんから見たら凶器のような笑顔になっているのだろう。
きっと、彼は優しさだから合コンにあまり馴染めてなかった私を少しでも喜ばせるためにしてくれたのだろう。
伊藤くんの連絡先を見つめるけど、きっと彼から連絡が来ることもないだろうし、私から送ることもない。
こうして、人生初の合コン
いや、人生で最初で最後になるかもしれない合コンは不思議な形で終わりを告げた。
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