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しおりを挟む運命の土曜日
「運命」なんて言葉は、決勝戦当日とか、何かの試験の合格発表の日に使われるものだと思っていた。
けれど、今の私にとっては、それほど重要な一日なのかもしれない。
デートの前には、何度か優香と相談して、服装のことやデート中のテクニックなんかも聞いていた。
けれど、いざ当日になってしまえば、そんなことを思い出す余裕もないほど緊張している。
今回は「ダサい服装は絶対ダメ」と言われた。
でも、あまりに気合が入っていると思われるのも、それはそれで恥ずかしい。
結局、ほとんどいつも通りのような格好で来てしまった。
服装は、今持っている服の中で一番マシなものを優香が選んでくれた。
とはいえ、それは「地味な服の中で一番マシ」という意味であって、結局は地味な服装に変わりはない。
会う前から動きがぎこちなく、緊張のせいか、待ち合わせ時間より三十分も早く着いてしまった。
まだ伊藤くんは来ていないようだ。少しでも緊張を和らげようと、駅の中にある本屋に立ち寄る。
普段はあまり近づかない雑誌コーナーを覗くと、
「人気のデートスポットはココ!」
「流行り服を着てデートに出かけよう」
「デートでさりげなく彼にアピールできるテクニックは?」
そんな見出しばかりが目に入ってきて、余計に緊張が高まってしまう。
私に、デート中のテクニックなんて考える余裕はない。
早々に雑誌コーナーを抜け、目的もなく店内を歩いていると、天井の隅に防犯用と思われる鏡が設置されているのが目に入った。
何度もその鏡を確認するたび、そこに映るのは、可愛くない自分。思わず肩を落とす。
髪型で少しはどうにかならないかと前髪を分けてみるけれど、何も変わらない。
気分が上がったり下がったりを繰り返していると、カバンの中のスマホが震えた。
"ユイさん、もう着きました?"
伊藤くんからのメッセージだった。
今では、メッセージを見るだけで彼の顔が浮かび、胸がきゅっと緊張する。
"はい、着きました"
すぐに続けて、彼からメッセージが届く。
"待たせてすみません。あと10分ほどで着くので、少し待っていてもらえませんか?
ずっと立っていると疲れると思うので、よかったら近くのカフェで好きなものを頼んで待っていてください!"
待ち合わせ時間より早く来たのは私なのに、なんて気の利く人なんだろう。
若いのにすごい、なんて感心してしまう。もしかすると、こういう気遣いは芸能界で学んできたのかもしれない。
"ゆっくりで大丈夫ですよ。気をつけて来てください"
腕時計に目を落とす。
あと10分。
何をして待とう。
このまま本屋に居続けるのも、なんだか落ち着かない。そう思い、待ち合わせ場所へ向かうことにした。
待ち合わせ場所の近くで立ち止まったとき、ふと、見覚えのある姿が目に入る。
明るい髪色。整った顔立ち。どこか少し、かわいらしい雰囲気。
……あれって。
この前の、あの子だ。
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