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しおりを挟む蓮介くんは、自分の携帯の電源を私に見せつけるようにして切った。
なんで、こんなことをするんだろう。
「はい、俺の携帯の電源切った」
「え、大丈夫なの?」
「うん、大丈夫。向こうも向こうで楽しんでるよ」
なんだか信用できないけど、とりあえず彼の後ろについていく。
「ねえ、ユイさん見て。これハンマーヘッドシャークって言うんだって。この目さ、突然変異的なあれ?」
サメを見てはしゃいでいる蓮介くんが、どこか可愛く思えてくる。
近くの解説を読んでみると面白いことが書いてあったので、それを伝える。
「サメってね、一回獲物を捕らえるごとに歯が抜けて、何度も生え変わるんだって」
「まじ? 入れ歯いらないね」
水槽を眺めたまま真顔で言う。
その言葉に、思わず笑ってしまった。
「入れ歯って。人間じゃないんだから」
「こんなんで笑うの? 俺の友達に言ったらめちゃくちゃシラけるよ? てか、初めてユイさんがちゃんと笑ったの見た」
「そう? 面白かったけど……」
横から顔を覗き込まれる。
「でもさ、ほんのちょっとだけ笑顔可愛かったよ?」
「え?」
「まあ、嘘だけど」
「ひどい!」
また楽しそうに笑っている。
蓮介くんはいわゆるドSというやつなのだろう。
こんなに素敵な笑顔なのに、言っていることは毒があって、私の心をちくちく刺しながら楽しんでいる。
やがて私から視線を外し、再び水槽を見つめた。
「サメってかっこいいよね」
水槽を見つめる横顔は、どこかサメに似ている気がする。
どこがとは言えないけれど、人に容赦なく噛みつきそうな雰囲気がある。
「ねえ、なんでそんなに俺のこと見つめてるの? やっぱ落ちた?」
「お、落ちたって何に? 落とし物?」
「いや、冗談やめてよ」
「え? 冗談?」
「俺が言う“落ちた”はね、恋に落ちた?って意味なんだけど」
「え?! そうなの!?」
「その反応、怪しい。てか、その年齢でうぶすぎでしょ。知らないふりしたの?」
蓮介くんがじっと私の目を見つめる。
「知らないふり? なんでそんなことする必要が……」
「ユイさんってさ、本当に面白いね。一緒にいて飽きないわ」
褒め言葉なのか、貶されているのか分からない。
「そんなこと言ってくれるの、蓮介くんくらいですよ……」
「そうなの? じゃあ環より俺のこと好き?」
「なんでそうなるの……」
少し睨むと、その反応が面白いのか、また笑った。
初めて会ったときは、クールそうな子だなと思っていた。
あまりにも綺麗な顔をしているから、何事にも冷めている人なのかと勝手に思い込んでいたのだ。
「ねえねえ、次あっち見に行こうよ」
蓮介くんもなんだかんだで水族館を楽しんでいるらしい。
気づけば私は、子どもを見守る母親のような気持ちになっていた。
今日は一体、水族館に何をしに来たのやら。
でも、なんだかんだで私も楽しんでいる。
少し複雑な気分だ。
それに蓮介くんは友達のような距離感で話してくれるから、いつもなら男性との会話で緊張してしまうのに、あまり緊張せずにいられる自分に気づいた。
これも彼の力なのだろうか。
そんなことを考えていると、また脇腹を揉まれる感触がした。
「だからやめて!」
「だって気持ちいいんだもん」
「“だもん”じゃない!」
可愛く言っても、許されないものは許されない。
「ねえ、ユイさん」
「うん?」
「ユイさんってさ、本当に顔以外にも興味あるの?」
さっきまでふざけていた声に、急に真剣さが混じる。
「え? いきなりどうしたの?」
「さっきの話の続きがしたいだけ」
「私はむしろイケメンは苦手だから……」
「えー、嘘つかないでよ。説得力ないよ。環、イケメンじゃん」
急に真面目な顔になっている。
「伊藤くんは確かにイケメンだけど、それ以上に優しくて、一緒にいるとどこか暖かい気持ちになれるの。それに私、今までの人生で“誰かに求められる”ってことが初めてだったから……」
小さく続ける。
「今まで男の人には揶揄われてばかりで……その、女として見てくれる人があまりいなくて。だから、環くんに求めてもらえたのが嬉しかったのかも……」
その言葉に、蓮介くんは少し目を見開いた。
学生時代のことを思い出し、胸が少し痛んだ。
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