27 / 34
27
しおりを挟む「てか、萌が離れればいい話なんだよ」
伊藤くんがそういうと、萌ちゃんは不満げな顔を浮かべた。
「嫌だ。だって萌も環とデートしたいもん」
「俺の周り、ろくな奴いない……」
その後も、伊藤くんとゆっくり話せる瞬間はなかなか訪れない。
そんな中、隣を歩く蓮介くんが、私に気を遣ってか話しかけてくれる。
「ユイさん、楽しい?」
「え、あ、うん! 楽しいよ」
つい周りの魚に夢中になってしまい、歩くペースが遅くなる。
水槽の中をゆらゆらと泳ぐ魚たち。
光が揺れて、時間までゆっくり流れているみたいだった。
「ゆっくり見たかったら、また逸れればいい話だから」
「蓮介くん、もうそれはダメだよ」
「蓮介、聞こえてるから」
前から伊藤くんの声が飛んでくる。
「聞こえてたか。残念」
ひと通り水族館の中を見終え、入口の方へ戻ってくる。
すると、萌ちゃんがなぜか不満そうな顔をしていた。
「ねえ、萌。お腹空いてきた」
「はい、じゃあ二人で食べておいで~」
伊藤くんは蓮介くんの腕を引くと、そのまま萌ちゃんの前に差し出す。
「え! 一緒に行こうよ!」
「もうさすがに限界。……ユイさん、行こう」
そう言って、伊藤くんは私の腕を取る。
引かれるまま、私はついていった。
「待ってよ! 環!」
後ろから萌ちゃんの声が聞こえるけれど、伊藤くんは振り返らない。
「伊藤くん、大丈夫なの?」
「うん、全く問題なし。やっとうるさいのがいなくなった」
横目でちらりと彼の顔を見る。
さっきまでの不機嫌そうな表情は、確かに消えていた。
それを見て、私も少し安心する。
「そういえば、萌ちゃんって大学の友達なの?」
「ああ、萌ね……あいつはただのモデル仲間」
「あ! やっぱりモデルなんだ! 可愛いと思った!」
「そうかな?」
「多分、可愛い子に囲まれすぎて感覚鈍っちゃったんだよ」
冗談っぽく言ってみる。
毎日のように美男美女を見ていれば、最初は驚いても、だんだん目が慣れていくのかもしれない。
私には、その感覚はよくわからないけど。
「そういえばさ……」
「ん?」
「何で俺は苗字なのに、蓮介は名前なの?」
言われてみれば、確かにそうだ。
自分ではあまり気にしていなかったけど、どうしてだろう。
蓮介くんの名前のほうが呼びやすかったから……?
「特に理由はないよ! たまたまかな?」
「じゃあ、俺のことも名前で呼んでよ」
「え!!」
思わず声が裏返る。
「そんなに驚く?」
「う、うん……」
「俺だって、できるだけ距離縮めたいからさ」
そう言って、伊藤くんは私の手に自分の手を重ねた。
さっき落ち着いたはずの顔の熱が、またじわっと上がっていく。
恋愛経験なんてほとんどないのに、
こんな一言と仕草で簡単にときめいてしまう自分に、少し驚いた。
3
あなたにおすすめの小説
Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜
yuzu
恋愛
人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて……
「オレを好きになるまで離してやんない。」
なぜ私?スパダリCEOに捕獲され推しの秘書になりました
あいすらん
恋愛
落ち込んでいた私が見つけた最高の趣味。
それは完璧スパダリCEOの「声」を集めること。
動画サイトで最高のイケボを見つけた私、倉田ひかりは、声を録音するためだけに烏丸商事の会社説明会へ。
失業中の元ピアノ講師には、お金のかからない最高のレクリエーションだったのに。
「君、採用」
え、なんで!?
そんなつもりじゃなかったと逃げ出したのに、運命は再び私と彼を引き合わせる。
気づけば私は、推しの秘書に。
時短の鬼CEO×寄り道大好き迷子女。
正反対な2人が繰り広げる、イケボに溺れるドタバタラブコメ!
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
円山ひより
恋愛
湯沢蕗(ユザワ フキ) 28歳
スターブルー・ライト航空株式会社 グランドスタッフ
×
向琉生(ムカイ ルイ) 32歳
スターブルー航空株式会社 副操縦士
「ーーじゃあ、俺と結婚しようか」
さらりと言われた言葉。
躊躇いのないプロポーズが私の心を乱す。
「大切にすると約束する」
指先に落とされた、彼の薄い唇の感触に胸が詰まった。
私は祖母の遺言に則って実家のカフェを守るため、あなたは広報動画出演の影響による数々の迷惑行為対策と縁談よけに。
お互いの利益のための契約結婚。
『――もう十分がんばっているでしょう』
名前も知らない、三年前に偶然出会った男性。
孤独と不安、さみしさ、負の感情に押しつぶされそうになっていた私を救ってくれたーーきっと、訓練生。
あの男性があなたであるはずがないのに。
どうして、同じ言葉を口にするの?
名前を呼ぶ声に。
触れる指先に。
伝わる体温に。
心が壊れそうな音を立てる。
……この想いを、どう表現していいのかわからない。
☆★☆★☆★☆
こちらの作品は他サイト様でも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる