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しおりを挟む菫は扉の前でじっとして姿が見えるのを玄関の前で待ち構えていると、恭弥が姿を見せた。
少し疲れているような表情に菫は不安になる。自分のせいでこんなことになっていると思うと、どんな言葉をかけていいかわからずじっと恭弥を見つめていると2人の視線が合わさった。
「菫」
「恭弥くん、どんな話してきたの…??」
「ん?大した話じゃないよ」
恭弥は子供をあやすような優しい声で菫に告げる。
「絶対嘘だ…」
「なんで嘘って決めつけんのさ」
「だって恭弥くんさっきと違って疲れた顔してる」
「うん、じゃあ菫が俺の元気出させて」
「冗談ばっかり言ってる…」
「ごめんね、怒んないで」
恭弥が菫のほおを手のひらで包み込んでむにむにと揉む。
「でさ、菫
蒴から聞いたんだけどお前の荷物が蒴の家に結構残ってるらしいから取りに来ないか?って言ってるんだけど行く??
俺が1人でいくのもありだけど、菫と話したいがために呼んでるような気がすんだよね」
「私の物…」
「うん、家に結構あるらしいよ」
以前、蒴の家に遊びに行っていたため蒴の部屋には菫のぬいぐるみやらタオルやらが置かれている。時々、気になってはいたが恋人がいると発覚し、自分から離れていった以上取りには行けずそのままでいた。
「……取りに行く」
「おっけー、じゃあ車出すわ」
「大丈夫、恭弥くんにこれ以上迷惑かけられないから私1人で行く」
「その荷物持って帰って来れんの?もしかして蒴の車で送られることになるかもよ
もしかしてというかほぼ確実だけど」
「それは…」
「なんか準備してく?それともすぐ行く?」
「ううん、何にも準備しなくて大丈夫…」
恭弥の背中を追って部屋からでると、部屋の前には蒴がいた。
「荷物取りに来ることにしたの?
お気に入りのものばっかり置いていっちゃったもんね」
蒴は眉を曲げながら口元に笑みを浮かべて菫の頭を撫でる。
蒴の車を恭弥の車が追うような形で走り、数十分ほどでマンションについた。
引っ越してからたいして時間は経っていないのに懐かしく感じる。
車から降りて、3人でエレベーターに乗り込む。
この空間がなんだか居心地が悪くて扉の上に映る階数の表示をじっと眺めていると、後ろ髪が持ち上げられるような感触がした。
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