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秋は変化……

フライホイールと不穏な空気

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 まだお昼には早いから、まだまだ作業を続行しよう。
 柚月、このエンジン側についてるフライホイールさ、形がおかしくね?

 え? これはフライホイールじゃなくて、ドライブプレート? ATの場合は、このドライブプレートに、トルクコンバーターが接続して、変速してるんだって?

 あぁ、なるほど、構造や意味は分からないけど、要は違うものって事だね。
 これを外して、フライホイールに置き換えれば良いって事ね。
 外し方の要領はフライホイールと同じだね。
 円形になってるから、回り止め工具を入れて、中心にある8本のボルトを緩めていって、外す……と、随分ドライブプレートって薄いんだね。フライホイールの代わりだと思ってイメージしてたからさ、拍子抜けしちゃったよ。
 しかも、止めてるボルトも短いしさ、全然フライホイールとは違うものなんだね。まぁ、パワーやトルクは、トルクコンバーターの方で吸収しちゃうから、こっちにはさほどショックがかからないって事なんだろうね。

 柚月、ここからはさ、MTが抜けてこないと作業にならないね。
 あとはリフトを下げて、室内側の作業をやっちゃおう。
 室内に入って、セレクトレバーの取り外しなんだけど、ATのシフトレバーって、もっとごっつい構造になってるのかと思ったら、思いの外、ショボいんだね。
 カプラーを幾つか外したら、殊の外《ことのほか》あっさりと外れちゃって、拍子抜けだったよ。

 よし、こうなったら、2ドアの解体作業に合流だね。
 柚月曰く

 「この作業の一番の肝はATの除去と、ペダル類の交換と追加の2つだよ~」

 って事だから、肝になる作業のうちの1つは完了してるって事だね。
 ちょうど、2ドア解体班がキリ良く終わったみたいだね。
 どうしようかな~、柚月。

 「じゃぁ~、3人は、4ドアに外した部品移植してて~」

 どうする柚月、私の考えは、2ドアからミッションとクラッチ、フライホイールを抜いちゃって、ミッションの移植作業までやっちゃうって感じかな?

 「マイと同じ考えだよ~。どうせ、あっちの班は、こっちからまだバラす部品があるだろうから~、ちょうど私たちと入れ替えになると思うんだよね~」

 よし、そしたら、手早くやっちゃおう。
 まず、私はシフトノブとか、室内系を外しちゃうね……って、言ってる間に、室内系のバラしは終了だよ。

 そしたら、2ドアをリフトで揚げて、ミッションオイルを抜いてる間に、プロペラシャフトを切り離しちゃおう。
 そうだ、この車のデフって、どうなってるんだろうね? ちょっと結衣に訊いてくるから、柚月、悪いけど作業進めててもらって良い?

◇◆◇◆◇

 柚月ー、結衣に訊いたら、何もしてないけど、ビスカスLSDじゃないかって、言ってたよ。

 「だったら~、移植の必要なしだね~。あの4ドアは、ECR32だから、ビスカス標準装備だしね~」

 ECR32ってことは、ハイキャス付きの、GTS25タイプX・Gってことね。
 なんだ、ER32つまりは、GTS25タイプXだったら、オートマオンリーなのに、わざわざMTが選べるG買ってATにするとかマジ理解できんわ。

 え? ハイキャスやビスカスLSDは欲しかったけど、ATの方が良かったってだけじゃないかって?
 まぁ、そういう人もいるだろうね。

 あ、それから柚月、結衣がオートスポイラーも移植したいんだって、一応、頭の中に入れておいてね。

 じゃぁ、作業再開だね。
 もうプロペラシャフトは外れたから、後はミッションをエンジンから切り離して降ろすだけか。

 “せぇ~のぉ~!”

 よし、こっちもミッションが分離されたぞ。
 やっぱりMTって、軽いよね。さっき、AT外したばっかりだと、尚のこと際立つよね。
 それでクラッチ一式と、フライホイールも外して……って、おじさんが、軽量フライホイールをくれたんだって? そうなの? よくそんなの持ってたね。GTS25用なんてさ、マイナーじゃん。
 恐らくだけど、RB20DE用と同じで、いけたんじゃないかって? そうなの? あの2つのエンジンって、そこまで著しくトルクが違う訳じゃないから、同じでイケると思うって? そういうものかなぁ?

 じゃぁ、ミッションとクラッチと、プロペラシャフトだけ持っていけば良いよね。早速、取り付けにかかっちゃおう。
 まずは、フライホイールだね……って、その前に、エンジン側の受けの部分の一部がATとMTで違うから替えるんだって? そんな大袈裟なものじゃなくて、金属カラーを抜いて、ブッシュに替えるだけなんだって? 

 ちょっと特殊工具使うから身構えちゃったけど、あっさりと終わっちゃったね。
 これでフライホイールを取り付けてから……と、このフライホイール留めてるボルトって特殊だね。
 ここは通常の8角レンチじゃなくて、12角レンチだから、専用のボックスレンチを使うのがお勧めだって? 更に言えば、フライホイールだけは、トルクレンチでしっかりトルク管理した方が良いって?
 フライホイールを締め付けすぎて壊すと、クランクシャフト交換になって、エンジンをバラさなきゃならなくなるし、逆に緩いと、走行中に高速回転してるフライホイールが外れて、床を突き破って足を切断した……なんてこともあったケースだからね。だって?
 うぅ、怖いね。でもって、確かにフライホイールって、外周がギザギザで、電ノコみたいだしね。
 よし、しっかりと規定トルクで締め付けたよ。
 どうもホイールナットの癖で、こういう円形に並んでるボルトを見ると、対角線上に締めたくなっちゃうんだよね。

 よし、今度はクラッチを……

 「ちょ~っと、待ったぁ~!」

 なに柚月? そのジェスチャー。
 あぁ、そういう事ね。すっかり忘れちゃってた。

 私は、結衣のところへと走った。
 結衣、クラッチって、新しくしないの?

 「え!?」

 ダメだよ、すっかり頭の中から抜けてる……ってか、抜けてる以前に、考えてもない顔だよ。

 あのさ、折角ミッションの載せ替えで、降りてる間に、ここも交換しておいた方が、効率良いと思うんだけど。
 なに? 今のクラッチに、特段不満は無いから、そのままで良いんじゃないかって?

 「結衣のバカ~!」

 おおっ! 柚月が結衣にツッコんでるところを初めて見たぞ。

 「結衣が、車買った後で交換したクラッチなら、それでも良いけど、10万キロオーバーの中古車に元々ついてたクラッチなんて、いつ寿命を迎えてもおかしくないでしょ~!」
 
 あのさ、結衣、まさかとは思うけど、勿体ないとか言わないよね。
 それケチって、すぐにクラッチがお釈迦になって、またみんなで、この車のミッション降ろしたら、その手間の方が勿体無いからね。
 悪いけど、そんなことになったら、今度の作業はバイト代貰うよ。

 結衣、この間、おじさんに怒られたばっかりでしょ? 
 『必要なものはケチるな』ってさ、どうして、そこが分からないかな?


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 ■あとがき■
 お読み頂きありがとうございます。

 多数の評価、ブックマーク頂き、大変感謝です。
 この暑さの中でも、創作の励みになります。

 次回は
 クラッチの話から、ちょっと不穏な空気になってしまった現場。
 その後も話は続きます。

 お楽しみに。

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