白百合のカーラは死にたくない 〜正義感だけは英雄並みの転生令嬢は守護勇者に頼った生存戦略から脱却する〜

楠嶺れい

文字の大きさ
6 / 50

第06話 剣樹の茨クルート

しおりを挟む
 人の嵐が過ぎ去り、窓から若草の香りとそよ風が流れ込む。カーテンがかすかに揺れて、床には陽光が入りこみカーテンの影模様が揺れ動く。

 私は掛布団に包まりながら天井を見上げる。

 前世の記憶。その一部を思い出せても肝心の名前や何者だったのかは記憶に一切ない。
 自分のことは当たり前で意識しないから思い出せないのかもしれない。

 疑問なのは誰かに思い出すように呼びかけられたこと。神様かな。
 何者か知らないけど、この展開なら記憶を思い出させることに目的があるはず。

 目的が無いとおかしいのよ。絶対あるはず。


 それにしても私にとって前世の記憶はドキュメンタリーや自叙伝を暗記しているような感じで、実体験を確かに感じるのにどこか他人事。

 不思議な感覚で、この先も馴れるとは思えない。

 記憶は有効活用ができないけれど、人生経験は私の糧になったようで、今まで見えなかった繊細なものを感じ取れるようになった。でも価値観は変わらない。

 悩んでみても、いくら考えても結論は出ないと悟ってしまう。

「ああ、わたくしは何をなすべきなの。情報がもっと欲しい。誰か教えて!!!」

 興奮して独白すると同時に右手に不思議な黒い板が現れる。
 小さな黒っぽい板状の物体には不思議な文様が架橋するように何層にも紡がれている。

 中心部分にある液晶? 窓? はめ込み画像には笑顔のAIが待ち受けている。

「これ、スマホ? 情報端末なの!!!」

『ご用件は何でしょう。主様』
「板がしゃべった!?」
『初回起動です。チュートリアルを開始しますか?』
「えっと、あなたは誰なの」
『古書の精霊、モザイカとお呼びください。呼び名はチュートリアルの後で変更できます』
「お、驚かないわよ。前世のゲーム知識があるから……。でもチュートリアルは受けるわ」

 私はチュートリアルで黒の手帳のセットアップを完了させて初期設定は終わった。
 コミュニケーションツール、辞書辞典、攻略wiki、翻訳、掲示板、日記、念話? 
 アプリは多いけれどコミュニケーションする相手がいない。

 これ、同じ目的の仲間か同陣営の者がいるってことかしら。


 首をかしげながら窓の外に視線を移す。

 外を眺めていても手から端末を外せず、気になって仕方ないので黒の端末に視線を戻す。
 画面の右上に達成度0%、ステージ1と表示されている。

 そうだ、当面の目的を知らないとまずいわ。
 前世のゲームでもノルマがあるものが多かったし、とても重要なことだわ。
 ペナルティがあったら大変だもの。

 これはモザイカに質問かな?

「モザイカ教えて。端末の画面にある達成度とステージって何かしら」
『主様、質問に回答するには任務と背景の知識が必要です。説明いたしましょうか?』
「うん、一番聞きたかったことだわ。お願い説明して」

 説明を聞いた私は考え込む。

 この世界は異世界人に侵略されていて、魔王などとして直接的に被害を加える者、陰から重要人物に成り代わる者など侵略形態は多岐にわたる。
 それに対して防衛する一団が私の所属させられている

 中二病のような名前で恥ずかしい。
 これって秘密結社のようね。

 いろいろと問題山済みだけど、気を取り直してと……盟主は神のような存在、女神ミンジー&ジャー、いったいどこの神様よ!
 どうやら女神たちは直接介入ができないので私のような使徒、まあ使いっ走りが必要らしい。
 知れたことで特に重要なこと、それは私の戦力がゼロ!!!
 どうしろっていうのよ。

 魔王に立ち向かえないよ?

「モザイカ、私は戦力外通知のようだけど何すればいいの?」
『主様を守る者たちはすでに召喚済みです。クエストと呼ばれる課題を解決すると達成ポイントがもらえますので任務に有用です。強くなるには冒険者組合に行くことをお勧めします』
「あ、冒険者ギルドみたいなものね。確かそんなのがあったはず」
『ご準備ができればいつでもご案内します』

 焦るより端末表示を確認しなければ。なんだか手汗がひどいわ。

「まだいいわ。えっと、クエスト等による組合活動で達成度が上がり、達成度が100%になるとステージがアップするのよね?」
『はい、組合のランクとは別ですがステージアップします。難易度もそれに合わせて上昇します』
「大体わかったわ。メリットデメリットが問題ね。何もしないペナルティってあるの?」
『敵は主様を排除することがミッションになっています。最低限防衛しなければ抹殺されるでしょう』
「なにそれ、私は望んで抗争に参加するわけではないのに! とても理不尽よ!」
『主様はお忘れのようですが、強い意志を持って志願されたはずです』
「思い出せないけど、何か感じるところはあるわ。使命感かしら」

 なぜか、モザイカの説明に納得できない。奥歯に物が挟まったように違和感が広がっていく。
 根拠などないけど。

 脅迫や詐欺にあった後の後悔の念に似ているかもしれない。


 そんなことより、このまま悠長に寝ていては殺される。私は青くなりながら布団に潜り込む。
 普通に考えて死んだらおしまいだ。嫌だけど組合には早めに行こう。

 あーっ、行きたくない。
 でも死にたくない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...