白百合のカーラは死にたくない　〜正義感だけは英雄並みの転生令嬢は守護勇者に頼った生存戦略から脱却する〜

楠嶺れい

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第23話　名の知れぬ者の眠る石棺

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　巨大ナメクジはこちらを向いたままじっとしている。どうやって我々の位置を察知しているのか見当もつかない。突入するしかない状況なのだが、私の本能が広間に入ってはいけないと訴えている。このまま立ち去るわけにもいかない。

　なるようになれと、私は双子に指示した。

「嫌だけど攻撃しましょう。中に入って巨大ナメクジを攻撃！」
「はい！　いきます」

　エリシャとスキリアが走り出し、私とフレイアも遅れないように追従する。

　中に入ると長方形の空間になっていて前後に長く、中央には円形の石盤の真ん中に石碑が設置されている。ナメクジはといえば石碑を後ろにしてピクリとも動かず待機している。

　まだ動きはないがこちらを認識しているのは確かだ。
　双子は全速で駆け出した。

　スキリアが直進して氷の壁を作り、エリシャが天井から落石で初撃を与える。二人は交差して位置を変えては障壁を作って攻撃する。大技は使わず相手の出方を見ているようで、ナメクジは何事もなかったかのように障壁を壊している。

　魔法では大したダメージを与えられない。

　私は用心しながら壁際で同じ場所に立たないように移動している。
　完全に臆病者の行動だ……。

「土ダメ、風ダメ、火は少し弱い、水もダメ。火で焼くね」

　エリシャがスキリアに魔法耐性を伝えながらダメージの通りのよい火の壁を出す。スキリアは炎の剣を持ち肉弾戦に切り替えた。

　スキリアは剣げきを加えては退避を繰り返して一定の位置を維持している。

　残念なことにスキリアの剣は表皮を貫通せず、柔らかいゴムみたいな皮膚と粘液で防がれている。エリシャは炎の壁を設置しては反対側まで天井を走りながら攻撃を放ち、回避してはナメクジに向けて炎床を置いていく。

　エリシャは私のガードと設置魔法で防衛ラインを築いている。

　攻撃のために懐に飛び込んだスキリアめがけてナメクジは粘液を伸ばして襲いかかる。嫌らしい攻撃にスキリアは回避できない。

「スキリア！」

　叫ぶエリシャの方向にも粘液は網状に広がり伸びていく。

　スキリアは粘液が付着しているが直撃は避けたようだ。エリシャはバックステップで回避して石盾で攻撃を封じる。ナメクジは狂ったように身をくねらせる。スキリアは上手く動けないようで炎の壁を作りはじめた。

　突然動きを止めたナメクジは仰け反り、頭部の冠状突起から雷撃を飛ばし始める。きっとスキル攻撃だろう。雷撃は粘液の網に当たり誘電することで広範囲に稲光を飛ばしている。

　もはや近接戦闘自体が無理だった。

　私は雷が周囲を掠め飛ぶので、なすすべもなく逃げ惑っている。
　役立たずぶりが甚だしいとは私のことだ。

　エリシャはスキリアを庇いながら魔法弾を飛ばしては回避する。スキリアは雷撃範囲を見切ったのか器用に炎の設置魔法で壁際にナメクジを誘導しはじめた。

　私に雷攻撃が来ないようしているのだ。

　エリシャは遠距離魔法で攻撃しては粘液網を交わし、スキリアは歩き回って火の壁を設置していく。
　ナメクジの雷攻撃のインターバルは長く、発動時に頭の王冠が発光することがわかった。

　ナメクジの雷攻撃！

　エリシャは距離をとり、スキリアは圏外に歩いて移動している。
　攻撃パターンと範囲を読まれたナメクジは、ジリジリと後退させられていた。

「壁に追い詰めたよ。ひたすら避けながら攻撃ね！」

　ナメクジはコーナーに嵌め込まれてしまう。
　双子は位置を変えては火の壁と炎の範囲魔法で波状攻撃を繰り返す。

　ナメクジは頭部を曲げ伸ばしして防戦するが効果はない。
　ナメクジの皮膚が黒く染まりだし、粘液が目に見えて少なくなっていく。

　私の目からみても勝負の決着はついたように思う。
　そういえばフレイアはどこ？

「姫様、危ない」

　エリシャが捨て身で前に出る。
　私が伏せると何かが石に当たったような音が響く。

　ナメクジが頭の突起を放出したのだ。コースのずれた突起の一つが私の横を通り過ぎる。
　当たると死んでいたはずだ。
　声を掛けられなければ直撃していただろう。

　恐怖に足を震わせている私と違い、スキリアたちは問題なく回避している。
　さっきの突起の放出は、最後の特殊攻撃だろう。

　スキリアは容赦なく火の壁を設置する。
　エリシャは嵌められたナメクジを炎で覆いつくす。
　しばらく焚火で焼かれていたナメクジは黒い塊になり動かなくなった。

「最後にこんがり焼くよ！」

　掛け声とともに焚火の色が青くなって温度が上がり、黒化したナメクジは火を吹いて姿を消した。
　エリシャは肩で息をして、スキリアの治療を開始した。

「二人ともありがとう。もう少しで死ぬところだったよ」
「あまり余裕がなくてごめんなさい」
「敵が強かったから仕方ない」

　確かにナメクジは強かった。今まで戦った魔物の中では最強と言っていい。
　今後これよりも強い魔物が出るかと思うと気持ちが萎えていく。

　広間は少し明るくなったように感じる。たぶん、大ナメクジを殺したからだろう。
　どうやらこの部屋は入り口が一つで先がなく行き止まりだった。
　それにしても、ソフィーはまだ寝ている。あまりに目覚めないので不安になってくる。

　死んでないよね？

　私はフレイアを探すと先ほどの壁のコーナーにいて屈みこんでいる。怪我でもしたのだろうか？
　よく見るとナメクジの死んだ位置に大きな宝箱がありフレイアがその前にいる。
　いつ宝箱は出てきたのかわからない。

　フレイアがいつの間にか罠を解除していた。

「残念ながらゴミだね」
「そうなんだ」
「さて、お遊びはこのくらいにしようかな。アハハハ」

　するとフレイアは悪戯っぽく笑い煙のように消えた。
　騒音と共に背後で入り口が閉まる。

「君たちはここ、名の知れぬ者の眠る石棺の間で死ぬことになる！」

　フレイアの声だけが広間に響きわたる。

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