白百合のカーラは死にたくない 〜正義感だけは英雄並みの転生令嬢は守護勇者に頼った生存戦略から脱却する〜

楠嶺れい

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第46話 使徒エイテイア・ピスミネスト

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 私たちを飲み込もうと海の壁が動き出し、青黒い海面が迫ってきて日の光を遮った。ついにマーメイド達の壁とタイダルウェーブがぶつかり合う。波は強くマーメイドたちは押し流されていく。

 タイダルウェーブは威力が落ちても勢いは衰えず、濁流が迫ったかと思うと瞬く間になだれ込んできた。私はなすすべもなく波に翻弄されている。

 流されていると大きな渦が発生して、抗う私を引きずり込もうとしている。
 溺れないように氷の板を作りサーフィンの要領で波に乗った。
 身体強化しなければ無理だったはず。

、波と格闘していると頭の中に子供の声がこだまする。

『多くの道がある。多くの道。多くの。多くの。多くの道。それは茨の道』

 わたしにはわかる。これはマーメイドたちの声。
 笑ってる。
 歌声に勇気づけられて私は板を海面に打ちつけて空に舞い上がる。

『お家に行きつけない。帰り着かない。道が多いから。無限に分岐する道』

 ちがうわ、どこにでも行けるのよ。
 選ぶのはあなた達。
 胸を張って前に進みなさい。マーメイド!

 上空では太陽が私を照らし、波が眼下に見える。私は空を滑空している。
 鳥のように。


 ありがとうソフィー。こんなところでお分かれなんて……いいえ、また会いたい。
 きっとまた会える!

 私は指に着けていたソフィーの指輪を強く握りしめる。

 すると視野が開けていき、心の中で何かが解けていった。
 イメージが浮かび上がってくる。


 ハープシコードを演奏する男、飛空船に引きずられる少女、闘牛に熱狂する観客、果物を投げ合う祭り、裸で踊る愚か者。白い砂浜、椰子と月。おぼろ月夜。道に落ちた蝉。彼岸に咲く花。

 あぁ、間違いなく私の前世の記憶だ。
 桃源坂呉羽院アキアカネのものではない。

 それは私の記憶。


 もしかして記憶が戻るまで何度も輪廻転生していたの?
 それとも夢なのだろうか。

 幻想でも幻覚でもいい。私は進むしかないのだから。
 もう過去を振り返らない。


 着水した衝撃で氷の板が割れてしまい濁流にもまれてしまう。流されまいと渦に抵抗していると何かが私の身体を持ち上げた。

 私は水龍に咥えられていたのだ。

 水龍は波などものともせず、私たちは名もなき山のふもとに到着した。
 見回すと横には水龍がいて、私は裸同然で水の引いた森の跡地にいた。
 私は濡れた身体を魔法で乾かして安堵のため息を漏らす。

 助けてくれたソフィーとマーメイド達は消え去り、存在した痕跡さえ残らなかった。

 太腿にポトリと落ちた雫は滴り流れる! 私は冷たくない水滴にとても驚いた。
 冷静に考えるとそれは私の涙。

 涙ってこんなにしょっぱいのね。
 口を開けているから。

 涙が流れ込む。


 いけない、すすり泣いてる場合ではない。
 他の皆は?

「水龍、貴方は他の守護勇者とビエレッテを探しに行って」

 おそらく守護勇者は死んでないはず、ビエレッテが気がかりだ。




 一刻ほど待っていても水龍は戻ってこない。私は一人で山頂を目指すことにした。すでに守護勇者では私を守ることは難しい。先に進んで使徒を討伐、聖剣の封印を解除するしかない。

 私は飛ぶように岩山を登っていく。

 岩や低木を蹴散らすように天頂をめざす。
 誰かが私を待っているから。

 移動スピードは上がり続け、気がつけば名もなき山の頂上に到着していた。

 頂上には壊れかけた霊廟、おそらくあれが古の王の墓所に間違いないだろう。手前の砂利道には使徒エイテイア・ピスミネストが翼を失い杖を抱えるように立っていた。

 エイテイアが飛行できないことを私は魔王に感謝する。
 初撃で切り落とす手間が省けたから。


 眼下にはユーゲシー半島が一望でき、津波の傷跡と海神の落下点が黒く染まっていた。
 さて、使徒との対戦になるだろう。私は堂々と向かってゆく。

「思ったより早かったですわね。英雄様」
「あなたは女神たちと交信できるの?」
「啓示が下りるだけですよ。貴方の邪魔をして覚醒を遅らせること、それが私の使命」
「私の魂に楔を打っただけでなく、聖剣を封じた。その鍵が貴方なの」
「さあどうでしょうね」

 使徒は興味なさそうに会話する意思がないことを伝えてくる。
 どちらにしても、倒した後でわかることもあるだろう。

「貴方は日本人なの?」
「そうよ、貴方の記憶にある国よ。残念だけど会話はここまで。死んでもらうわ!」

 エイテイアは私に杖で殴りかかる。そうだった、杖は立派な打撃武器だった。
 私はスキルで薙ぎ払う。

 そして技返しでスキル連撃を加えた。エイテイアは防御が高いようで木の葉みたいに吹き飛んでいてもダメージを負っていない。

 手ごたえがないということが、これほどやりにくいとは思わなかった。
 手応えのあるなしに関わらず、私はスキルを入れ続ける。

 私の攻撃にエイテイアは防御しかできない。
 無理して雷撃魔法を唱えようとすると、私は詠唱をキャンセルしてやる。
 
 剣で切り込んでは弾き飛ばす。キャストのモーションに入る前に足払いを入れて剣で打つ。
 エイテイアは焦りの表情を浮かべて杖を振り回す。

 私は難なく交わしては位置を変える。死角に飛んでは切りかかった。
 エイテイアが手を前に出したところを突きに行く。
 魔法も完全に封じた。

「なぜ、貴方は私と戦うの。決して勝てないし魔力が尽きればあなたは死ぬ」
「あなたの攻撃はスキル、それに魔法は強化さえ使ってない。余裕よね」
「お望みならデバフでも使ってみましょうか? 弱体化よ。たぶんシモーネより強力!」
「勝てるとは思っていないわ。私の使命は時間稼ぎをすること」

 悠長に話している場合ではなかった。どうする。エストフローネで倒せるが、何のための時間稼ぎか皆目見当がつかない。先行きが見通せず、デバフを入れてスキル攻撃を続けることにした。

 それにしても何を待っているの。

「弱体化! リバース、スロウ、スリップ!!」

 多重詠唱で魔法防御と攻撃力を入れ替えてスピードを抑え、おまけに出血攻撃のサービス付きだ。

 勝負はついた。
 のろのろとこちらに迫ってくるエイテイアを静かに見つめる。

 私はエイテイアの首にただのロングソードを突き付けた。

「お終いよ!」

 苦し紛れにエイテイアは私に攻撃を仕掛けてきた。諦めが悪い。
 私は杖を谷底に跳ね飛ばして、また剣を突き付ける。
 相手は私の剣先を追えていない。

 さて尋問してみよう。

「時間稼ぎは終わり、正直に目的を話してもらえないかしら」
「いいえ、後ろを見なさい」

 背後から破裂音がして私は回避行動をとる。エイテイアは無防備な姿勢で立っている。
 注意を背後に移すと音の付近には白煙が立ち昇っている。

 そこは古の王の墓所の入口。

 エイテイアが私の隙をつき雷撃攻撃を仕掛けてきた。私は無意識にスキルシールドを発動、そのまま放り投げた。雷はシールドに引き寄せられエイテイアの腰に直撃。

 エイテイアをすっぱり切断したシールドは戻ってくる。
 やりすぎてしまった。

 苦しそうにエイテイアは私に話しかける。もう長くないだろう。

「殺してくれてありがとう。お前をお待ちかねの、あの方がくる……」
「なんの話?」

 既にエイテイアは事切れていた。



 振り返ると人影が見えてくる。
 異様な魔力を纏って。
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