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第48話 白銀の英雄王
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古の王の墓所を背後にして私とアキアカネは睨み合っている。そういえば、聖女ハリエットが言っていた“古き王と海堡は沈み”が気になってきた。もしかしたら、アキアカネを倒せということなの?
おそらく違うわね……。
アキアカネが私のスキルを使い攻めてくる。威力は私のオリジナルよりは弱い。
そうだとしても油断などできず、同じ技を返して牽制する。
相手の武器の効能がわからないから下手に物理戦には移行しない。
流れを引き寄せるには、まず気を逸らすことが先決。
誘いに乗ってくれるよう願った。
「ところで、貴方は背後の墓所から出てきたけど中に何があるの?」
「石棺にミイラが入っているだけだよ。私がさっきまで縛り付けられていたけど……」
回答の歯切れが不自然なほど悪い。どうやって抜け出したのだろう。何がきっかけで?
攻撃を加えながら考える。
「もしかして、クルートって身体は消耗品で、実は精神体なの?」
「いくら何でも……。ドラゲアの魔王に食べられるくらいだから憑依に近い」
使徒の亡骸が残っていたから気になっていたけど、使徒の身体が必要だったのかもしれない。
妙に使徒エイテイアは攻撃に消極的だったし。
「貴方は死したエイテイアの身体が必要だったのね」
「感のいい人は嫌い。お喋りはこのくらいにするから」
間違いない。
使徒エイテイアの身体に何か秘密があるのか、墓所の中に眠るミイラのどちらかが鍵を握っているはず。
とりあえず、墓所に入ればアキアカネのスキルを封殺できるかもしれない。
私はバックステップから後転して墓所に駆け込む。
入り口は解放されている。
「ちっ、待ちなさい」
墓地の中は薄暗く、緑色の照明が不規則にならんでいた。中心を目指して走っていると広い部屋には台座があり、その上に石棺が置いてある。
手前には何に使うかわからない装置が並んでいた。
科学技術、何かの制御装置?
パネルを触っているとアキアカネが近づいてきた。攻撃を躊躇していることから、この施設を壊したくない躊躇いのようなものを感じる。壊す前に確認すべきね。
「それ以上近寄るとこの装置を壊すわよ」
「どうやって?」
「エストフローネで!」
「貴方はそれが何かわかっているの?」
墓所自体を維持管理している装置のようだけど。確信は持てない。
「予想だけど、この施設の管理システムかしら?」
「……」
正解のようね。壊したくない理由を知りたいけど、試しに脅してみるかな?
「壊したらあなたが困りそうだから、試しに壊してもいいのだけど? それが嫌なら話してくれない。これが何か」
「貴方の身体を奪えなかった時点で、私が使えるのは古の王のミイラ体だけだった」
それだけではない。エバートの記憶から同様の遺跡の構造と作動原理を探し当てた。
この施設は正常に作動していている。
要塞として。
「これ壊すと、この海に浮かぶ施設が崩壊するのでは?」
「記憶から推測か……」
「ここは墓地ではなく遺跡、海堡と呼ばれる要塞」
アキアカネは目を逸らせた。正解のようだ。
初めて記憶が役に立ったよ。
「壊されたくなかったら降参しなさい。おそらく魂の定着に使っていたようだから。これを壊せば私を倒しても身体に入れないのでは」
「装置というよりもこの場所が重要なんだ。それを壊すとこの半島が海に沈む。魂は行き場を失ってしまう」
「貴方は海堡から離れられないのね」
私たちに妥協点はないのだろうか。相容れないとは思えない。
彼女の拘りがわからない。
「カーラ、不思議そうな顔をして私を見ないで。すべてを持って生まれた貴方に、すべてを奪われた者の気持ちなどわかる筈もない」
「手を取りあって魔女、いえ女神に仕返ししない?」
「もう遅い……お前の身体を乗っ取らないと私は消滅するのだから! 創造神の理によって」
交渉は無理。アキアカネには申し訳ない。
「エストフローネ! 海堡を滅しなさい!!」
白い光が墓所内に満ちて、墓所は爆散した。
地中深くから地響きが聞こえてくる。
それは崩壊の始まり。
「こんなところで、消え去りたくはない……。古の王よ、私の肉となれ」
「なにを!?」
蓋の開いた石棺からミイラが吸い寄せられてアキアカネに取り込まれていく。
そこに現れたのは白銀の英雄王。
盲目なのか目を瞑った整った顔、透き通る白い肌を浮き立たせる黒髪。その女騎士は白銀の鎧をまとい軽やかに宙に浮く。
女騎士はいきなり私に向かってスキル攻撃を開始した。
私は距離をとって、揺れる足元に注意しながら回避行動をとる。攻撃が早い。
揺れに足を取られないように移動してはスキル攻撃を繰りだす。防戦する比率は高いが気にしていられない。
私の攻撃は女騎士の防御盾が自動追尾して悉く交わされていた。
手に持つ黒剣は大地を割り、私の足場はみるみるうちに少なくなる。
それなのに相手は浮遊しているから影響を受けない。
「アキアカネ。貴方に意識は残っているの?」
返事はない。
地面が下方向に沈み込んでいく。海堡が基盤を失い、海に、地底に、沈みながら崩壊していく。
白銀の英雄王は剣で連撃を加えてくる。
回避するとスキル攻撃、こちらもスキルで防御できても劣勢だ。
エストフローネは呼び出そうとしても無理だった。
再召喚のインターバルを待つしかない。
足場は少なくなる一方だった。
私は攻撃をかわしながら安定している地盤に移動していく。
おそらく、ここは海堡の中心点。
私の周りには爆炎や火球が入り乱れて飛び交い。
雷撃で手足が痺れるが気にしてられない。
スキルや魔法の合間に剣戟が飛び、私は軽業師のように回避しては攻撃を加える。
飛べない時点で劣勢だ。
『私たちの力を解放しなさい!』
心の中の声を聴いて我に返る。
ちょっと力をつけ、万能感から得られた力に溺れかけ、人に頼ることを忘れていた。
初心こそ大切なのに。
「最弱のカーラがお願いする! 精霊たち私に力を貸してちょうだい!!」
私の胸に小さな光点が灯り、淡い光が広がっていく。
あれほど揺れていた地面の崩壊は収まり、辺りは静まり返えった。
英雄王も動けないようだ。
草が、水流が、ダイヤモンドダストが、英雄王の足元から湧き出てくる。
そこに泉が湧き出し、水草が英雄王の身体に絡みつき水面に繋ぎ止めた。
固定された英雄王の身体に ダイヤモンドダストが沈降するように覆っていく。
拘束している水草は身動きできないほど英雄王を縛り上げている。
周辺は湧水のように水の飛沫が飛び、光る塵が浄化するように纏わりついく。
もう動けない。
白い霊体のような物が英雄王の身体から頭をもたげて現れる。
水中からは黒い鎖が霊体に絡まり動きを封じていた。
足元の英雄王はアキアカネに姿を変え、霊体は目を閉じた白いドレスの女姿になる。
黒い鎖は四肢と胴体を大地に繋ぎ止めている。
風が巻き起こる。
背後から白い一角獣にまたがった黒騎士が、笑いながら私の傍らを通り過ぎていった。
エバートの残影……。
エバートが手綱を引くと、一角獣は嘶き前足を上げる。黒騎士は外套を薙ぎ払うように跳ね上げて手を掲げる。上空から白い光が舞い降りて黒騎士の手には聖剣が握られていた。
エバートは静かにエストフローネを女に向ける。
辺りは時が止まったかのように静寂に包まれた。
女を中心に霧が発生、やがて雲となり拡散していく。足元に空がある。
風が吹き、浄化の波動が広がる。
黒い鎖はきれいに分断、昇華され気体となり消えていく。
エバートは白騎士を抱え上げて抱きしめる。
『古の英雄は束縛から解放され、要塞は海に沈み、大海に平穏が訪れる』
精霊の声と共にエバートと女の霊が一瞬であるが光り輝き消え去った。
終わったようだ。結局私は見ているだけだ。私らしいと言えるけど。
「水位の上昇は多少あるけれど、この要塞が沈む影響のようね」
誰かが呼んでいる。
『こんどこそ・・・』
アキアカネが横たわっていた場所には赤いトンボのような紐が落ちていた。
「アキアカネなのね……」
拾い上げた紐は私の手から風に乗って飛んでいく。
「私の代では無理だけど、子孫がきっと女神たちを討伐する。アキアカネ、空で見ていて」
その言葉を聞き届けたように地面がまた揺れだした。
私は揺れる大地から逃れようと海になだれ落ちる岩や海面を飛び跳ねながら尖塔のように切り立った崖を目指す。どうにかたどり着けそうだけど英雄王みたいに浮遊したいわ。
ないもの強請りはしないこと。
私は笑う。
『古の王と海堡は沈み聖剣の鍵は解けた。神の祭壇にて我は待つ』
おそらく違うわね……。
アキアカネが私のスキルを使い攻めてくる。威力は私のオリジナルよりは弱い。
そうだとしても油断などできず、同じ技を返して牽制する。
相手の武器の効能がわからないから下手に物理戦には移行しない。
流れを引き寄せるには、まず気を逸らすことが先決。
誘いに乗ってくれるよう願った。
「ところで、貴方は背後の墓所から出てきたけど中に何があるの?」
「石棺にミイラが入っているだけだよ。私がさっきまで縛り付けられていたけど……」
回答の歯切れが不自然なほど悪い。どうやって抜け出したのだろう。何がきっかけで?
攻撃を加えながら考える。
「もしかして、クルートって身体は消耗品で、実は精神体なの?」
「いくら何でも……。ドラゲアの魔王に食べられるくらいだから憑依に近い」
使徒の亡骸が残っていたから気になっていたけど、使徒の身体が必要だったのかもしれない。
妙に使徒エイテイアは攻撃に消極的だったし。
「貴方は死したエイテイアの身体が必要だったのね」
「感のいい人は嫌い。お喋りはこのくらいにするから」
間違いない。
使徒エイテイアの身体に何か秘密があるのか、墓所の中に眠るミイラのどちらかが鍵を握っているはず。
とりあえず、墓所に入ればアキアカネのスキルを封殺できるかもしれない。
私はバックステップから後転して墓所に駆け込む。
入り口は解放されている。
「ちっ、待ちなさい」
墓地の中は薄暗く、緑色の照明が不規則にならんでいた。中心を目指して走っていると広い部屋には台座があり、その上に石棺が置いてある。
手前には何に使うかわからない装置が並んでいた。
科学技術、何かの制御装置?
パネルを触っているとアキアカネが近づいてきた。攻撃を躊躇していることから、この施設を壊したくない躊躇いのようなものを感じる。壊す前に確認すべきね。
「それ以上近寄るとこの装置を壊すわよ」
「どうやって?」
「エストフローネで!」
「貴方はそれが何かわかっているの?」
墓所自体を維持管理している装置のようだけど。確信は持てない。
「予想だけど、この施設の管理システムかしら?」
「……」
正解のようね。壊したくない理由を知りたいけど、試しに脅してみるかな?
「壊したらあなたが困りそうだから、試しに壊してもいいのだけど? それが嫌なら話してくれない。これが何か」
「貴方の身体を奪えなかった時点で、私が使えるのは古の王のミイラ体だけだった」
それだけではない。エバートの記憶から同様の遺跡の構造と作動原理を探し当てた。
この施設は正常に作動していている。
要塞として。
「これ壊すと、この海に浮かぶ施設が崩壊するのでは?」
「記憶から推測か……」
「ここは墓地ではなく遺跡、海堡と呼ばれる要塞」
アキアカネは目を逸らせた。正解のようだ。
初めて記憶が役に立ったよ。
「壊されたくなかったら降参しなさい。おそらく魂の定着に使っていたようだから。これを壊せば私を倒しても身体に入れないのでは」
「装置というよりもこの場所が重要なんだ。それを壊すとこの半島が海に沈む。魂は行き場を失ってしまう」
「貴方は海堡から離れられないのね」
私たちに妥協点はないのだろうか。相容れないとは思えない。
彼女の拘りがわからない。
「カーラ、不思議そうな顔をして私を見ないで。すべてを持って生まれた貴方に、すべてを奪われた者の気持ちなどわかる筈もない」
「手を取りあって魔女、いえ女神に仕返ししない?」
「もう遅い……お前の身体を乗っ取らないと私は消滅するのだから! 創造神の理によって」
交渉は無理。アキアカネには申し訳ない。
「エストフローネ! 海堡を滅しなさい!!」
白い光が墓所内に満ちて、墓所は爆散した。
地中深くから地響きが聞こえてくる。
それは崩壊の始まり。
「こんなところで、消え去りたくはない……。古の王よ、私の肉となれ」
「なにを!?」
蓋の開いた石棺からミイラが吸い寄せられてアキアカネに取り込まれていく。
そこに現れたのは白銀の英雄王。
盲目なのか目を瞑った整った顔、透き通る白い肌を浮き立たせる黒髪。その女騎士は白銀の鎧をまとい軽やかに宙に浮く。
女騎士はいきなり私に向かってスキル攻撃を開始した。
私は距離をとって、揺れる足元に注意しながら回避行動をとる。攻撃が早い。
揺れに足を取られないように移動してはスキル攻撃を繰りだす。防戦する比率は高いが気にしていられない。
私の攻撃は女騎士の防御盾が自動追尾して悉く交わされていた。
手に持つ黒剣は大地を割り、私の足場はみるみるうちに少なくなる。
それなのに相手は浮遊しているから影響を受けない。
「アキアカネ。貴方に意識は残っているの?」
返事はない。
地面が下方向に沈み込んでいく。海堡が基盤を失い、海に、地底に、沈みながら崩壊していく。
白銀の英雄王は剣で連撃を加えてくる。
回避するとスキル攻撃、こちらもスキルで防御できても劣勢だ。
エストフローネは呼び出そうとしても無理だった。
再召喚のインターバルを待つしかない。
足場は少なくなる一方だった。
私は攻撃をかわしながら安定している地盤に移動していく。
おそらく、ここは海堡の中心点。
私の周りには爆炎や火球が入り乱れて飛び交い。
雷撃で手足が痺れるが気にしてられない。
スキルや魔法の合間に剣戟が飛び、私は軽業師のように回避しては攻撃を加える。
飛べない時点で劣勢だ。
『私たちの力を解放しなさい!』
心の中の声を聴いて我に返る。
ちょっと力をつけ、万能感から得られた力に溺れかけ、人に頼ることを忘れていた。
初心こそ大切なのに。
「最弱のカーラがお願いする! 精霊たち私に力を貸してちょうだい!!」
私の胸に小さな光点が灯り、淡い光が広がっていく。
あれほど揺れていた地面の崩壊は収まり、辺りは静まり返えった。
英雄王も動けないようだ。
草が、水流が、ダイヤモンドダストが、英雄王の足元から湧き出てくる。
そこに泉が湧き出し、水草が英雄王の身体に絡みつき水面に繋ぎ止めた。
固定された英雄王の身体に ダイヤモンドダストが沈降するように覆っていく。
拘束している水草は身動きできないほど英雄王を縛り上げている。
周辺は湧水のように水の飛沫が飛び、光る塵が浄化するように纏わりついく。
もう動けない。
白い霊体のような物が英雄王の身体から頭をもたげて現れる。
水中からは黒い鎖が霊体に絡まり動きを封じていた。
足元の英雄王はアキアカネに姿を変え、霊体は目を閉じた白いドレスの女姿になる。
黒い鎖は四肢と胴体を大地に繋ぎ止めている。
風が巻き起こる。
背後から白い一角獣にまたがった黒騎士が、笑いながら私の傍らを通り過ぎていった。
エバートの残影……。
エバートが手綱を引くと、一角獣は嘶き前足を上げる。黒騎士は外套を薙ぎ払うように跳ね上げて手を掲げる。上空から白い光が舞い降りて黒騎士の手には聖剣が握られていた。
エバートは静かにエストフローネを女に向ける。
辺りは時が止まったかのように静寂に包まれた。
女を中心に霧が発生、やがて雲となり拡散していく。足元に空がある。
風が吹き、浄化の波動が広がる。
黒い鎖はきれいに分断、昇華され気体となり消えていく。
エバートは白騎士を抱え上げて抱きしめる。
『古の英雄は束縛から解放され、要塞は海に沈み、大海に平穏が訪れる』
精霊の声と共にエバートと女の霊が一瞬であるが光り輝き消え去った。
終わったようだ。結局私は見ているだけだ。私らしいと言えるけど。
「水位の上昇は多少あるけれど、この要塞が沈む影響のようね」
誰かが呼んでいる。
『こんどこそ・・・』
アキアカネが横たわっていた場所には赤いトンボのような紐が落ちていた。
「アキアカネなのね……」
拾い上げた紐は私の手から風に乗って飛んでいく。
「私の代では無理だけど、子孫がきっと女神たちを討伐する。アキアカネ、空で見ていて」
その言葉を聞き届けたように地面がまた揺れだした。
私は揺れる大地から逃れようと海になだれ落ちる岩や海面を飛び跳ねながら尖塔のように切り立った崖を目指す。どうにかたどり着けそうだけど英雄王みたいに浮遊したいわ。
ないもの強請りはしないこと。
私は笑う。
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