ソウルブライター魂を輝かせる者 〜夢現術師は魔導革命後の世界で今日も想い人の目覚めを待つ〜

楠嶺れい

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第3話 魂の発火

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 書類を室長に提出するとあとで個人面談を実施することを告げられた。定期報告でないのに緊急で面談する理由を思い至らない。そういえば離宮から緊急連絡が入って室長が対応していたことを思いだす。まあ、面会すれば話してくれるだろう。

 しばらくすると室長に呼ばれて面談室についていく。主任は私よりも一世代くらい年は離れているが、同年代の先輩よりも若々しく、黒褐色の髪に知的な紺に近い瞳は有能な女性管理職といった感じだ。手入れの行き届いた姿は見習いたいほど隙が無い。まさに大人の女性である。

 室長は優雅にソファーに腰掛け、私に座るように促す。
 美脚の曲線美が眩しいくらいだ。

「あなたに指名依頼よ。近いうちに王妃陛下の最期を看取ることになるでしょう」
「私に指名ということは、夢の美化が必要な案件ですね?」
「そうなります。国王陛下自らが望まれること。王妃様は既に意識がありません」
「そういった理由ですか」

 室長は夢を改変する前提の依頼であることを認めた。夢現術師は拾い上げた記憶を夢として見せるだけのものがほとんどで、既存の記憶から新たな夢を創造できるものは限られる。夢の再創造ができるのは私と主任を含めても4人しか在籍しない。

「そういえば、あなた最近顔色悪いけど体調管理には十分注意してね。王妃様の容態は安定しているけれど、いつ呼ばれるかわからないから万全の準備お願いします」
「最近疲れが取れないので、彼の見舞いついでに受診してみます」
「彼のこともあるし、たまには休むことを勧めるわ。休暇を取るなら連絡頂戴」
「ご厚意に甘えて一日休むことにします。日程が決まれば連絡します」
「わかったわ。悪いけど常時連絡できるように魔導通信は待機にしていてね」

 私は頷き、会釈をして面談室を後にした。

 この世界は魔導革命により価値観が大きく変化した。王家や貴族の力が衰え魔導商人や魔導技師が台頭してきたのだ。魔導革命は古い宗教観や貴族制度にくさびを打った。

 既存の魔術や武器は新たに発明された魔導具に取って代わられ、発明は拡散して魔導兵器、魔導機械 魔導重機 魔導交通網、魔導養殖 魔導工場などが実用化されて、応用領域を挙げればきりがない。

 マナの循環により成り立つ文明世界から、マナを絞り上げる近代魔導を用いた産業革命が起こったのだ。革命は一般市民の力を強め、逆に王侯貴族は力を失っている。

 とはいえ、衰退していると言っても王家はいまだ強大で、戦術・戦略魔導兵器と専属魔導師団を抱えることで力を誇示している。しかしながら、一般市民の発言力の強まりから治世は不安定になっていて、勤王派と急進派の双方でテロが多発するようになってしまった。

 不安定な時代であり、新しい夜明けの後に残るのは、富を築いた貴族と一般市民出の富豪を中心とした治世であり、王は象徴的にならざるを得ないだろう。まだ先のことであるが。




 私が休暇を取るよりも早く王妃様の容態が悪化してしまった。

 私は事前に探査されていた記憶を流し見して素材を探し、それを基に新たなキャンバスに幸せの記憶を創造する。

 はっきり言って記憶を継ぎ接ぎした捏造であり、虚像を作ることに罪悪感を消し去ることはできない。だからこそ、私は最後のひと時を後悔なく過ごしてもらえるよう努力は怠らない。

 私だって、それが詭弁であることは承知している。
 だから、依頼なのだと割り切るしかない。

 依頼された夢現術で創作の夢を見せられるのは死期が迫った一瞬だけだ。その最後の輝ける魂とも、魂の発火ともいわれる現象は人生で一度きり。

 失敗は許されない。


 夢現術による最後の看取りは宗教観の影響が大きい。国教であるブラッドレイン教は魂の輝きこそが、神が天国への門を開ける瞬間なのだと布教してきた。だから、古来から臨終間際になると、聖職者を呼び夢現術を見せることが因習となったのだ。

 一部で迷信ではないかと疑うことがあっても、身内が天に召されるときになると夢現術に頼ってしまう。しきたりは風化せず現代でも脈々と受け継がれている。
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