ソウルブライター魂を輝かせる者 〜夢現術師は魔導革命後の世界で今日も想い人の目覚めを待つ〜

楠嶺れい

文字の大きさ
9 / 22

第8話 迷宮ファーム

しおりを挟む
 私は王立魔導カレッジを卒業して王宮魔導士として魔導省に採用された。魔導カレッジのマスタークラスに進むことも考えたけれど、貴族の次女である私は早めに手に職をつけることを選んだ。

 配属先はまだ決まっておらず内勤になる可能性が高かった。

 魔導省に入ってすぐに歓迎レセプションが開かれた。新入魔導省員に向けて国王陛下の訓示や教官たちが何か説明していたが、私は暑苦しい話を適当に聞き流していた。仕事自体に興味がなく惰性で就職したようなものだ。当然やる気などない。

 一月ほど集団教育を受けた後で、実地訓練に切り替わることになる。教育係は各公爵家の持ち回りで、公爵家ごとに掌握する産業領域が異なっているようだ。

 新入魔導省員は合計9名で、仮配属として公爵領の魔導産業を体験することになった。とりあえず、我々は3人ずつのグループに分けられ、私は彼ともう一人の女性でグループを組むことになる。

 私はこの時初めて彼と顔合わせしたのだが、一目惚れどころか、冴えない印象の男くらいにしか思っていなかった。私たちは筆頭公爵家の領地で魔導農場、別名のほうが有名な迷宮ファームに送られることになる。

 公爵領に移動する前に私のグループの女性が前触れもなく退団してしまう。仲良くしてなかったので事情は分からない。突然我々のグループは二名になり補充などなかった。

 実質のペアである。

 迷宮ファームで訓練することになってすぐ人数が減ったため、限定的な役割しか対応できず、パトロールを任されることになる。最初から躓いた格好であるが、私は仕事が楽になり、安堵したことを口外できない。

 私の想像した迷宮は何世紀も前の古い情報のようで、現物を見て驚愕のあまり脱力したものだ。ファームという名前で考えたほうがショックは少なかったかもしれない。

 その迷宮という場所は風化が進む寂れた地下壕、迷宮コアの力を弱めたために起きる地上からの漏水はいたるところからあり、人手の入った迷宮は緩やかに滅びゆく。コアが壊れると新たな迷宮コアを移植するらしい。

 神への冒涜ではないかと不安になるが現時点で祟りなどはない。

 迷宮ファーム、それは魔術・魔法の近代化、もはや生産工場である。
 迷宮のライフサイクルは狂たままである。

「ねえ、この迷宮ファームって何を養殖してるのかな?」
「聞いて無かったのか? 去勢魔獣とか無害化魔物を養殖して食肉加工してる」
「加工肉なのね。でも魔獣肉美味しくないわ。魔物は高級食材過ぎて食べたことないけど。寮食で出されるといいな」
「お前ずいぶんと呑気だな。魔物の肉などでないぞ」
「勝手に殺して食べたら?」
「やめとけ、碌なことにならない。お前が加工肉として誰かの食卓に上るぞ」
「まあ、怖いことっ!」
「怖がってないだろ、お前」

 私は笑って彼の先に出て、前もろくに見ず駆けていく。今にすれば愚かで向こう見ずな行動、それ以外の何物でもない。

 しかし、この事件が起きなかったなら、私たちの絆は深まらなかったはずだ。


 私は風化して地盤が緩んでいた側道を誤って踏み抜き、口を開けた奈落に向かって吸い込まれてしまう。一瞬の油断は迷宮探検では命とり。私の読んだ本に書いてあった。私はそんなことを考えながら闇を落ちていく。

 恐怖から落下中に気を失ったようだ。暗黒の中、慌てて五体の隅々を手で触って確認、怪我こそしていないが体中に打撲症状があり痛くてしかたない。私は恐怖感を振りはらうため魔法で照明をつける。

 眩しさに目がくらむ。失敗、焦って一度に明るくしすぎた。

 目が慣れると広い洞窟にいるようで私の魔法では壁が見えないほど広い場所だ。足元は何かの草を刈ったのだろう、山のように枯れ草が積んである。これがなければ死んでいたと思う。

 私は不快感の原因である服にまとわりついて離れない草切れを丁寧に払っていく。

 冷静さを取り戻した私は強運に感謝するよりも生き残ってしまったことに恐怖しはじめる。怯えていても良いことはない。行動して後悔なく死んだほうがいい。

 私は枯れ草の山を下りて硬い大地に降り立った。

 周りは何かの草が植えられている。適当に植わっているが少し人為的に感じていた。いささか危機感の足りない私でも草に直接触る勇気はなかった。毒や食人植物は人類にとって危険なのだから。



 私は用心しながら草には近づかないようにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鳥籠の花嫁~夫の留守を待つ私は、愛される日を信じていました

吉乃
恋愛
美しさと華やかさを持ちながらも、「賢くない」と見下されてきたカタリーナ。 格式ある名門貴族の嫡男との結婚は、政略ではないはずだった。 しかし夫はいつも留守、冷たい義家族、心の通わない屋敷。 愛されたいと願うたび、孤独だけが深まっていく。 カタリーナはその寂しさを、二人の幼い息子たちへの愛情で埋めるように生きていた。 それでも、信じていた。 いつか愛される日が来ると──。 ひとりの女性が静かに揺れる心を抱えながら、 家族と愛を見つめ直しながら結婚生活を送る・・・ ****** 章をまたいで、物語の流れや心情を大切にするために、少し内容が重なる箇所があるかもしれません。 読みにくさを感じられる部分があれば、ごめんなさい。 物語を楽しんでいただけるよう心を込めて描いていますので、最後までお付き合いいただけたら光栄です。

籠の鳥〜見えない鎖に囚われて✿❦二人の愛から…逃れられない。

クラゲ散歩
恋愛
私。ユリアナ=オリーブ(17)は、自然豊かなオータム国にあるグローパー学院に在籍している。 3年生になって一ヶ月が経ったある日。学院長に呼ばれた。技術と魔術の発展しているフォール国にある。姉妹校のカイト学院に。同じクラスで3年生の男子3名と女子3名(私を含め)。計6名で、半年の交換留学をする事になった。 ユリアナは、気楽な気持ちで留学をしたのだが…まさか学院で…あの二人に会うなんて。これは…仕組まれていたの?幼い頃の記憶。 「早く。早く。逃げなきゃ。誰か〜私を…ここから…。」

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

妻が通う邸の中に

月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

処理中です...