悪役令嬢(予想)に転生(みたいなもの)をした私のその後

ゆん

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71.トニトゥルス国編 sideレェイ

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僕はこんな世界が大嫌いだった。
みんなみんな、滅んで仕舞えばいいのに……
ずっとずっと、子どもの時から思っていた。

勿論、昔は僕も可愛らしい子どもだった。兄上は僕のことをとても可愛がってくれたし、母上も自分に似ている僕のことを兄上以上に可愛がってくれた。
父上は昔から無口でぶっきらぼうで、特別僕を可愛がることも、厭うこともなかった。

でも7歳の時、フラーマの選定の儀式によってそんな僕の世界は粉々に砕け散った。


ーーー僕には、フラーマが無かったから……


儀式でそれが判別した時、1番衝撃を受けたのが母上だった。それまでは母上と同じ銀髪を持ち、母上によく似た顔立ちをした僕をとてもとても可愛がってくれていたのに、フラーマを有していないと分かった時から、母上は僕を見なくなった。

フラーマを有していない僕は、王族として無意味な存在だった。王族のくせに王族としての役目を果たせない僕は、トニトゥルス王家の穀潰しであり王家の恥だった。
母上もそう思っていたのだろう、7歳のあの選別の日から、母上にとって僕はとなり、結局それから母上が死ぬまで、僕は母と話をしないままで終わった。

フラーマを有していない事が分かった時から、僕は王家に残された様々な書物を読み漁った。どうにかしてフラーマを有することができないか。
そればかりを考えて、僕はずっと書庫に篭っていた。
でも、結局そんな方法は無かった。分かった事といえば、フラーマを持つ者は『神の愛し子』であるという事だけ。
つまり、フラーマを有していない僕は、神に愛されていないという事だ。神にも嫌われている事が分かった時、僕の心には絶望しかなかった……


誰にも愛されない、王家の恥となる僕を、家庭教師となったシエオだけが慰めてくれた。

シエオは、実は従叔父に当たるらしい。僕の祖父の弟の息子がシエオという事だった。
シエオは僕にだけ特別だと言ってこっそり教えてくれた。
自分も王族の血筋だから、僕の絶望がとてもよく分かる、と言ってくれた。

シエオは、僕に教えるたびに褒めてくれた。こんなに優秀な子は初めてだと。シエオは兄上にも教えていたのだけれど、兄上より断然僕の方が優秀だと言ってくれた。
その言葉が嬉しくて、僕は国務の勉強にも励むようになった。フラーマの無い穀潰しの王族でも、その優秀さを見せつけてやることはできる……

僕を認めて、褒めてくれるのは、シエオだけだった。
シエオは、事あるごとに僕に言っていた。

『魔法なんかなくても人は生きていけます』『先に産まれたというだけで、その子が後継など馬鹿げた話です』『レェイ様の方が断然優秀なのは分かりきった事です』

そう。兄上より断然優秀な僕が即位した方が、ずっといい国を造れるはずだ……

母上は僕の選別の後から、狂ったように贅沢をするようになっていった。今も山のようにある衣装はその時の名残だ。
そのせいで、徐々に国の経済が傾斜していくのも僕には分かった。
3年前、母上が亡くなった時にシエオにこう囁かれた。

「レェイ様。国民はずっと我慢しております。王妃様の奢侈しゃしのせいで、国の経済状況は逼迫しております。このような王家など民は望んでおりません」
「……シエオ」
「ラアド様より、レェイ様が優れていることは皆が承知の事。何故、無能のラアド様をレェイ様が立てなければいけないのでしょうか? そんな王家など、貴方が変えて仕舞えばいいのです……」

シエオにそう言われ、僕は自分の気持ちがハッキリと分かった。

魔法なんかいらない。この世界を作った神々なんて、僕にはいらない。こんな世界、僕が壊してやるーーー


その時から、僕は父上と兄上を王家から引き摺り下ろすべく、シエオと一緒に王家転覆を画策し始めた。



シエオと情報収集に励み、クーデターを起こすために民心操作を行なったりした結果、とうとうクーデターに向けた最終調整を行えそうな時だった。ウェントゥス国で、第二王子であったジルヴェール様が王太子になられたとの情報が入ってきた。
今現在唯一の同じ第二王子の立場であったジルヴェール様の事を、僕は昔から密かに追っていたのだ。彼の方は僕と違ってほとんど表に出てこない方で、なかなか情報を掴むのも難しかった。

ーーーまさかそのジルヴェール様が、王太子になられるなんてっ!

僕はその情報を聞いた時、ショックで暫く動けなかった。

僕は密かに、同じだと思っていた……
でも違った……だって、ジルヴェール様にはフラーマがあるのだもの……

……それは僕とは違うはずだ……

その事実に気がついた時、僕は狂ったように嗤った。

……そう、どうせジルヴェール様は神々に愛されているのだから。


そこから僕は、狂ったようにクーデターに向けて暗躍した。
ジルヴェール様の動向を探らせるのも忘れない。ジルヴェール様は、兄の婚約者であったフィーリアスとすぐに結婚されたようだった。
この事に興味を持った僕は、フィーリアスの事もそこから調べ始めた。

すると、面白いことが次々に分かった。フィーリアスは、失って久しい光の属性を持っているだけでなく、どうも闇属性にも開花したようだった。それはおそらく、ソルム国の第二王女の属性が移行したものと推測された。

……面白い……ジルヴェール様の即位にもフィーリアスが絡んでいるのは間違いない。

フィーリアスが『鍵』だと僕にはすぐに分かった。ジルヴェール様は、フィーリアスを手に入れたからこそ、変わったのだ。

……欲しい。僕にも、欲しい……

そんな時、まさか好都合なことに向こうから出向いてくれるという。
僕は天の采配に初めて感謝した。

ーーーこれで! これで僕のシナリオは完璧だっ! 


初めて会うジルヴェール様とフィーリアスは、とても美しかった。
2人揃って在ることが完璧な感じがして、益々僕はフィーリアスを欲しくなった。

ジルヴェール様は油断ならない。なるべく接しないように僕は心がける。フィーリアスは、会った時からその印象をどんどん変えていった。
まるで幼児の様に嬉々としてジョゥを食べるその姿に、僕は魅入ってしまった。今までそんな人間を見たことがなかった。

フィーリアスの情報から、弟として話しかけると有意だと判断した僕は、可愛い弟を演じて話しかける。あっさりと心を許したフィーリアスは、喜んで僕と会話をする。歳上のくせに、全然歳上らしくない。
なんて単純なんだ……僕はそう思っていた。

神木に案内しすると、まるで神々と対話しているかのようにその場に溶け込んでいたフィーリアスは、僕にはなぜか輝いて見えた。
でも、僕が揺さぶりの為の手紙を書き夜中に呼び出すと、一丁前に僕を警戒する。
警戒している割には、あっさりと僕とお茶をする。もし毒を混入させていて、僕だけ解毒剤を飲んでいた場合はどうするのだろう……
なのに、僕が『フィー』と呼びたい、とお願いすると、キッパリと断る。
そして、僕がフラーマを持っていない事を暴露すると、まるで自分の事のように悲しんだ顔をする。

「……レェイは、本当に諦めているの? それがレェイの本心?」

そのくせ、僕の本質を突く様な、鋭い質問を切り込んでくる。

何なんだ……こんな人間初めてだ……

僕のに、フィーリアスは酷く動揺したけど、僕も僕で動揺してしまった。ジルヴェール様が、王位を望んでいなかったなんて……

何でだ……フラーマもあって、神にも愛されてて、兄より優秀なのに。何で王位を望まなんだ……

おまけに、魔法の才についても抜きん出ている。物にするのでは無く、なんて、古代に失われた技術だ。
僕は酷く動揺する心を何とか押し殺して、明日もフィーリアスと会う約束を取り付けて別れた。


フィーリアスは、約束通り僕の所へきた。
フィーリアスは、シエオの名前を覚えている様だった。
呑気そうにしているけど王太子妃なだけはあって、こうした事にはきちんとしている。僕はフィーリアスを益々欲しくなった。
僕をずっと認めてくれていたシエオ……
フィーリアスは、ジルヴェール様を認めさせたいと言っていた。

……僕だって……僕だって認めて貰いたい……

フィーリアスはジルヴェール様の件で来ているはずなのに、僕の事を随分気にしている様だった。
その問いかけは、僕の心を抉った。

僕は、スペアにもなれない、フラーマも持たない、役立たずの王族だ……
だから、こんな世界いらないんだ……僕が壊すんだ……

そう思っていたのに、フィーリアスは僕が考えもしない事を述べる。
魔法がなくてもいい、と同じことを言っていたはずなのに、魔法があってもいい、と言う。

じゃあ僕は、僕はどうすればいいの……

縋るような思いでフィーリアスに問いかける。

すると、思いもしない事を言われた。ーーー僕がすでに王族である、と……

僕が。役立たずの僕は、すでに役に立っているって……
僕は。僕は、魔法に拘っていたのだろうか……

僕は、その日はもうフィーリアスと話をすることが出来なかった。


翌朝、シエオが僕の所へやってきて囁いた。

「レェイ様、全ての準備が整いました。ーーー本日、決行しましょう。正午に例の場所で落ち合いましょう」
「シエオ……でも……」

僕は昨日からずっと、フィーリアスに言われた言葉が頭を駆け巡っていた。
シエオは僕の様子がいつもと違う事にも気が付かないようで、そのまま部屋を出ていった。

僕は……僕はどうしたら……

気が付いたら、僕はフィーリアスに助けを求めていた。

フィーリアスなら、僕を助けてくれる……助けて、助けてフィーリアス……

フィーリアスは、縋り付く僕を拒絶せずに強い顔をして僕を受け止めてくれた。
神々にも愛されない僕は、誰にも愛されない、誰にも必要とされていないと思っていた。
でも、フィーリアスに言われて気が付いた。

そう、父上も兄上も、いつもいつも僕に優しかった。僕が優秀であることをいつも誇りに思ってくれていた。僕にはそれが見えていないだけだった。魔法に拘っていた僕は、2人の愛を見ようともしなかった。

ーーーいつも、僕を愛していてくれてたのに……

フィーリアスは、人はいつでも変われるといった。なら、僕だって変われる事が出来る。そう思って、クーデターを止めさせようとシエオとの約束の場所へ急いで向かった。

でも、僕は浅はかだった。
まさかずっと、シエオに利用されていたなんて……
シエオに斬られ、僕はようやく心から理解したのだ。

ーーー自分がいかに愚かで、視野の狭い捉え方をしていたのか……フラーマの有無にどれだけ拘っていたのか……

もっともっと視野の広い目線で見てたら、シエオがおかしかった事にすぐ気が付けていただろう。
もっともっと自分の心を見つめていたら、父上と兄上の愛に気が付く事ができていただろう。

それなのに、こんな僕のせいで、フィーリアスまで巻き込んでしまった……
意識を失いそうになるフィーリアスに、何度も呼びかける。

ごめん……


ごめんなさい……


僕が、こんなんだから……
こんな状況にならないと、気が付けない愚かな僕を許してなんて言わない。
僕が全て悪いんだ……

僕はどうなっても良いんだ……

だから、どうか……



人はいつでも変われるとフィーリアスは言った。


僕も、変わりたい。


生まれ変わりたいんだ……



生まれ変わるんだ……





……




カチリ

どこかで音がした。


ーーーすると、眩しいくらいの光に包まれた……
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