お嬢様をはじめました

帆々

文字の大きさ
6 / 11

6.イライジャ先生

しおりを挟む

「楽しそうだね」

ふと声がかけられた。声の主はイライジャ先生だった。

何の教師なのかは知らないが、白衣を着ている。化学とか、そっちかしら?

「イライジャ先生は、修学旅行は行かれるのですか?」

パーティーの部長が聞く。

「僕は保険の先生だから、行くよ」

保健の先生とは。それは意外だった。

ヨーコがわたしにささやいた。

「イライジャ先生は、毎年修学旅行もご一緒なの」

イライジャ先生は肉の煙を避けながら、芝に腰を下ろした。思いがけないことを言う。

この勇者パーティーの顧問になったという。

「お」
「ま」
「っ」
「ちょっ」
「と」

口々にメンバーからの驚きの声がもれた。

「わかっているよ。君たちの意見は。肉を食べない僕が、肉を焼く勇者パーティーの顧問になるのはおかしいと」

先生は青味がかった金髪の髪を軽く揺らした。

「食べないが、顧問することは出来る。オリンピック組織委員の最高名誉顧問が、バリバリのアスリートとは聞かないじゃないか」

「...それとこれとは」

「わたしたちは、共に火を起こし、肉を焼き、食す。ここまでを仲間と共有することで、勇者になったみたいな気分を味わうのが活動の目的なのです。先生は、最後の「食す」が、出来ないではないですか」

「じゃあ聞くが、前の顧問の先生はどうだった?」

先生の問いに、雄弁なメンバーが口ごもった。

どういうことだろう。前の顧問の先生って。

わたしの視線に、部長が告白した。

「カントリーマアム先生は、みんなが起こした火で、執拗にアメリカの田舎風ビスケットを焼きたがって、僕たちと衝突したんだ」

そこでイライジャ先生が空せきをした。こほんと、いつか聞いたような乾いた音だった。

「カントリーマム先生だよ。伸ばしてはいけない。その線引きは非常に重要だ」

ともかく、以前の顧問の先生は、メンバーの彼らとそりが合わず、パーティーを追放されたという。

「僕は肉は食べないが、ビスケットも焼かない。君たちの活動に口出しはしない。それに、顧問がいないと困るのは君たちの方だろう」

うつむくメンバーに、わたしはまたも?マークだ。ヨーコはさすがに事情通で、

「パーティー費が下りなくなるのよ。我がパーティーだと、お肉代ね」

ヨーコの声にかぶせて、先生が静かにつなぐ。

「君らの火起こしが原因の芝の焼け焦げは、代々の顧問が尻拭いしてきたんだよ」

あ。

そうだ。

この辺りの芝は、わたしたちが気まぐれにあちこちで起こす火に焼かれ、根をやられてしまっている。上から見たら、滑稽なはげ模様が出来てしまっているに違いない。

ローストビーフが出来上がった。雪割り水で磨かれたわさびにしょうゆを添えて。

「賢者様、あなたに委ねます」

「委ねます」

「委ねます」…。

面倒臭くなったらしく、メンバーが食に走り、わたしに決断を押し付けて来た。

わたしは、みんなの顔を順番に見てから、うなずいた。

「顧問をお願いします」

散会になった。

どうしてイライジャ先生は、こんなわけのわからないパーティーの顧問になりたがるのだろう。教師間のしがらみかしら。放課後、暇な先生へのやっかみとか。

帰り道、車寄せで迎えを待つわたしの腕を、誰かがいきなりつかんだ。

ぎょっとしたが、イライジャ先生だった。

「こっちへ来て」

「え」

建物の影に引っ張り込まれる。あたりをうかがい、ひと気がないのを確かめた後で、言った。

「僕に協力してほしい」

わたしは目をつむり、思わず貞操も手放した。

「はい」

「僕は王家からの密命を拝し、学園内を探っているんだ」

「え」

成り行きが想像を超え、わたしはやっぱり貞操を取り戻した。

彼がひそひそと打ち明けた内容によると、国家機密がここからもれているのだという。

この学園のどこに機密があるのか。セレブのガキが、一部腐って集っているだけだ。わたしには不思議でならない。

「彼らの親がこの国の中枢を担っているのはわかるね?」

「ええ、まあ」

確かにそうだ。ヨーコの父上も大臣を務めた偉いさんだというし、「それってあなたの感想ですよね?」のディベートパーティーの彼は、母上が王の側近と威張っていた。

他にも、そんな話はごろごろ聞かれる。

「そんなトップエリートの親の弱点が、この学園に通う子息女たちであり、更に、彼ら自身が将来のトップエリートたちでもある。まさに、ここは機密の宝庫と言っていい」

「はあ」

「それを狙って、敵国のスパイが入り込んでいるんだ。さかのぼれば、十八年前の男爵家の子息がそうだ。やつらは寄付にものを言わせ、強引に容姿枠を設けさせ、入学してしまった」

「あ」

容姿枠。

あれは、敵国が侵入するための合格枠だったのか。それが十八年ぶりに復活して、わたしが利用することになった。

「わたしは、スパイなんかじゃ...」

「わかっている。君の素性は調べた。以前の暮らしや家族のことも把握している」

恥ずかしくなり、わたしはうつむいた。肉の町でのその日暮らしの生活を知られていたとは。

そして、きっとカルビのことも。

しかし、つながった。

だから、先生は兄のビーエルと友人になったのだ。弱さと頼りなさとはかなさしか持ち合わせていないあの兄と。

ともかく、先生はこの学園から機密がもれ続けている理由を探っているという。

「どうだろう。危険なことはないと約束はできない。しかし、君のことは全力で守る。どうか、僕と一緒に任務の一端を担ってほしい」

真っ直ぐにわたしを見つめる先生の目は、あの遠い過去の窓辺の君のものだ。今もあなたに恋をし続けるわたしに、どうして彼の願いを拒むことができるのか。

わたしは静かにうなずいた。

「ありがとう」

しかし、高位顕官の子供たちが集うのだ。そんなまさか、敵国におもねるような売国奴がいるとは信じられない。
にわかセレブのわたしですら、毎日のナーロッパ国家斉唱に、愛国心が芽生えそうで困っているくらいなのに。

彼もわたしの思いがわかるのかうなずく。

「この学園の生徒には、そんな心の癒しい者はいない。何か仕掛けがある」

そして、きっぱりと言う。

「目星はついた」

「え」

「きっと修学旅行に秘密がある。敵は本能寺にあり、だよ」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】公爵令嬢は勇者への恩返しを試みる〜サブヒロインとして頑張ります〜

マロン株式
恋愛
 公爵令嬢ユウフェには、ひとつだけ秘密がある。  ――この世界が“小説の中”だと知っていること。  ユウフェはただの“サブヒロイン”で、物語の結末では魔王のもとへ嫁ぐ運命にある……はずだった。 けれどーー  勇者の仲間、聖女、そして魔王が現れ、〝物語どおり〟には進まない恋の三角関係(いや、四角関係?)が動き出す。  サブヒロインの恩返しから始まる、ほのぼの甘くて、少し切ない恋愛ファンタジー。 ◇◇◇ ※注意事項※ ・序盤ほのぼのめ ・勇者 ✖ サブヒロイン ✖ 魔王 ✖ 巫女(?)の恋愛模様 ・基本はザマァなし ・過去作のため、気になる部分あればすみません ・他サイトと並行改稿中のため、内容に差異が出る可能性があります ・設定ゆるめ ・恋愛 × ファンタジー

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【本編完結】美女と魔獣〜筋肉大好き令嬢がマッチョ騎士と婚約? ついでに国も救ってみます〜

松浦どれみ
恋愛
【読んで笑って! 詰め込みまくりのラブコメディ!】 (ああ、なんて素敵なのかしら! まさかリアム様があんなに逞しくなっているだなんて、反則だわ! そりゃ触るわよ。モロ好みなんだから!)『本編より抜粋』 ※カクヨムでも公開中ですが、若干お直しして移植しています! 【あらすじ】 架空の国、ジュエリトス王国。 人々は大なり小なり魔力を持つものが多く、魔法が身近な存在だった。 国内の辺境に領地を持つ伯爵家令嬢のオリビアはカフェの経営などで手腕を発揮していた。 そして、貴族の令息令嬢の大規模お見合い会場となっている「貴族学院」入学を二ヶ月後に控えていたある日、彼女の元に公爵家の次男リアムとの婚約話が舞い込む。 数年ぶりに再会したリアムは、王子様系イケメンとして令嬢たちに大人気だった頃とは別人で、オリビア好みの筋肉ムキムキのゴリマッチョになっていた! 仮の婚約者としてスタートしたオリビアとリアム。 さまざまなトラブルを乗り越えて、ふたりは正式な婚約を目指す! まさかの国にもトラブル発生!? だったらついでに救います! 恋愛偏差値底辺の変態令嬢と初恋拗らせマッチョ騎士のジョブ&ラブストーリー!(コメディありあり) 応援よろしくお願いします😊 2023.8.28 カテゴリー迷子になりファンタジーから恋愛に変更しました。 本作は恋愛をメインとした異世界ファンタジーです✨

二年後、可愛かった彼の変貌に興ざめ(偽者でしょう?)

岬 空弥
恋愛
二歳年下のユーレットに人目惚れした侯爵家の一人娘エリシア。自分の気持ちを素直に伝えてくる彼女に戸惑いながらも、次第に彼女に好意を持つようになって行くユーレット。しかし大人になりきれない不器用な彼の言動は周りに誤解を与えるようなものばかりだった。ある日、そんなユーレットの態度を誤解した幼馴染のリーシャによって二人の関係は壊されてしまう。 エリシアの卒業式の日、意を決したユーレットは言った。「俺が卒業したら絶対迎えに行く。だから待っていてほしい」 二年の時は、彼らを成長させたはずなのだが・・・。

推しの悪役令嬢を幸せにします!

みかん桜
恋愛
ある日前世を思い出したエレナは、自分が大好きだった漫画の世界に転生していることに気付いた。 推しキャラは悪役令嬢! 近くで拝みたい!せっかくなら仲良くなりたい! そう思ったエレナは行動を開始する。 それに悪役令嬢の婚約者はお兄様。 主人公より絶対推しと義姉妹になりたい! 自分の幸せより推しの幸せが大事。 そんなエレナだったはずが、気付けば兄に溺愛され、推しに溺愛され……知らない間にお兄様の親友と婚約していた。

処理中です...