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第九夜
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私は慌てて警察署に行ったが、ヨウに会わせてはもらえなかった。
事件の事を知っていると強く訴えても、誰も取り合ってくれない。
それでも、必死に訴えていると、誰かが後ろから私の肩を叩いた。
「懐かしいな。笹川じゃないか」
「良かった。俺の話を聞いてください」
それは、昔、私が世話になった警官だった。
私は、再会の挨拶などすっ飛ばして、事件のあらましを説明した。
ヨウが、母親の為と言われて、売春させられていた事。
母親が死んだ事を隠されていた事。
「詳しい話を聞かせてくれないか?」
馴染みの警官はそう言って、私を奥に通してくれた。
そこは小さな部屋で、馴染みの警官と、後もう一人の警官がいた。
私は、ヨウに聞いた事をそのままに説明した。
すると、傍にいた警官が「殺したと言うだけで、それ以上は何も言わずに困っていたんだよ」と苦笑まじりに言った。
「ヨウ君は悪くないんです。これで釈放してもらえますよね?」
「いや、すぐ釈放と言う訳にはいかないだろう。なんせ人を一人殺しているんだ」
参考にするとだけ言われ、ヨウには一度も会わせてはもらえなかった。
ただ、ヨウは人を殺したが、傷害致死と言う事になり、さらに情状酌量の余地があると言う事で、少年院送致に決まったらしいと、馴染みの警官がこっそり教えてくれた。
恐らく、身寄りのないヨウは、少年院を出ても、そのまま施設送りとなるのであろう。
私は、アパートに帰り、描きかけの絵を見ながら感慨にふけった。
「結局、絵を見せる事は出来なかったな」
私は涙を抑える事が出来なくなった。
短い間ではあったが、部屋の至るところにヨウとの思い出が詰まっている。
フローリングなのに、床が濡れると心配していた事、騙してシャワーを浴びた事、食事を作ってくれた事……。
そうして、様々な事を思い出していると、私の気持ちの中で、ヨウの存在が大きくなり、このまま放っておく事が出来なくなった。
私はどうしても、ヨウを施設に送りたくなかったのだ。
それから、私は色々な情報を集めて、あちこち走り回り、里親になる為の手続きを進めた。
そして、再び、ヨウを私の部屋に迎え入れる日が来た。
「おかえり」
私が声をかけると、ヨウは泣きそうな顔で笑った。
「ただいま」
そして、私に抱きついて来る。
「何で、僕を引き取ろうと思ったの?」
「見せたい物があったからな」
私は冗談めかして言うと、ヨウをイーゼルの前に連れて行った。
「絵が出来たんだ」
「見せてもらえるの?」
私がキャンバスの覆いを取ると、ヨウは張り付くようにして、絵をじっと見つめる。
「これ、僕? 凄い! ありがとう」
そう言って、最高の笑顔を向けてくれた。
「ねえ。コンテストとかには出さないの?」
「え?」
私は、ヨウに言われるまで、この絵を賞に応募しようとは考えていなかったので驚いた。
「そう言うの、応募するところってないの?」
「いや、あるけど。考えた事がなかったら驚いたんだ」
「あるんなら、出したらいいのに。きっと選ばれると思うな」
「そうか。出してみるのもいいかも知れないな」
私は、この絵は外に出さず、自分で楽しむだけのつもりでいた。
確かに、自信作ではあるが、とてもプライベートな物のような気がして、応募しようとは考えもしなかった。
だから、外に出す事に抵抗があったのだが、モデルであるヨウがいいと言うなら、出してみるのも悪くない。
その後、私はヨウを連れて外に出る事にした。
実は、ヨウがいない間に、母親の墓を探していたのだ。
しかし、ヨウには墓参りの事は隠して「帰って来た祝いに外食をしよう」とだけ言った。
「お祝いなんていいのに」
「私が祝いたいんだよ」
ヨウは遠慮がちに言ったが、私は強引に外に連れ出した。
目的地まで車で片道一時間。
郊外の道をのんびりと走って行く。
「こんなところに店があるの?」
「食事の前に、連れて行きたいところがあるんだ」
「僕を捨てに行くの?」
「まさか」
「良かった」
ヨウは安心したように息を吐いた。
その後、しばらく走って、墓地の駐車場に車を止めた。
「着いたぞ」
「ここ?」
ヨウは不思議そうに私を見る。
「ヨウ君のお母さんの墓、探したんだ」
私はそう言って、トランクから花を出した。
「どうやって見つけたの?」
「探したんだけどな。見つけられなくて、興信所に頼んだんだ」
私は苦笑しながら言った。
「ありがとう」
その後、しばらく歩き、母親の墓にたどり着いた。
ヨウは墓の前で、困ったように私を見る。
「お母さん?」
「そう。お母さんの墓だよ」
ヨウはそれを聞くと、墓の前にしゃがみ込んだ。
「お母さん。ずっと会いたかった」
そう言って、ヨウは墓の前で泣き続けた。
ヨウは、ひとしきり泣いた後、ゆっくりと立ち上がると、私の方を振り向いた。
「もう、こんな別れは嫌なんだ」
そして、私にすがりついた。
「笹川さんと、ずっと一緒に暮らしたい」
これは、ヨウの告白の言葉なのだろうと思う。
「それも、いいかもな」
私が笑いかけると、ヨウも嬉しそうに笑った。
事件の事を知っていると強く訴えても、誰も取り合ってくれない。
それでも、必死に訴えていると、誰かが後ろから私の肩を叩いた。
「懐かしいな。笹川じゃないか」
「良かった。俺の話を聞いてください」
それは、昔、私が世話になった警官だった。
私は、再会の挨拶などすっ飛ばして、事件のあらましを説明した。
ヨウが、母親の為と言われて、売春させられていた事。
母親が死んだ事を隠されていた事。
「詳しい話を聞かせてくれないか?」
馴染みの警官はそう言って、私を奥に通してくれた。
そこは小さな部屋で、馴染みの警官と、後もう一人の警官がいた。
私は、ヨウに聞いた事をそのままに説明した。
すると、傍にいた警官が「殺したと言うだけで、それ以上は何も言わずに困っていたんだよ」と苦笑まじりに言った。
「ヨウ君は悪くないんです。これで釈放してもらえますよね?」
「いや、すぐ釈放と言う訳にはいかないだろう。なんせ人を一人殺しているんだ」
参考にするとだけ言われ、ヨウには一度も会わせてはもらえなかった。
ただ、ヨウは人を殺したが、傷害致死と言う事になり、さらに情状酌量の余地があると言う事で、少年院送致に決まったらしいと、馴染みの警官がこっそり教えてくれた。
恐らく、身寄りのないヨウは、少年院を出ても、そのまま施設送りとなるのであろう。
私は、アパートに帰り、描きかけの絵を見ながら感慨にふけった。
「結局、絵を見せる事は出来なかったな」
私は涙を抑える事が出来なくなった。
短い間ではあったが、部屋の至るところにヨウとの思い出が詰まっている。
フローリングなのに、床が濡れると心配していた事、騙してシャワーを浴びた事、食事を作ってくれた事……。
そうして、様々な事を思い出していると、私の気持ちの中で、ヨウの存在が大きくなり、このまま放っておく事が出来なくなった。
私はどうしても、ヨウを施設に送りたくなかったのだ。
それから、私は色々な情報を集めて、あちこち走り回り、里親になる為の手続きを進めた。
そして、再び、ヨウを私の部屋に迎え入れる日が来た。
「おかえり」
私が声をかけると、ヨウは泣きそうな顔で笑った。
「ただいま」
そして、私に抱きついて来る。
「何で、僕を引き取ろうと思ったの?」
「見せたい物があったからな」
私は冗談めかして言うと、ヨウをイーゼルの前に連れて行った。
「絵が出来たんだ」
「見せてもらえるの?」
私がキャンバスの覆いを取ると、ヨウは張り付くようにして、絵をじっと見つめる。
「これ、僕? 凄い! ありがとう」
そう言って、最高の笑顔を向けてくれた。
「ねえ。コンテストとかには出さないの?」
「え?」
私は、ヨウに言われるまで、この絵を賞に応募しようとは考えていなかったので驚いた。
「そう言うの、応募するところってないの?」
「いや、あるけど。考えた事がなかったら驚いたんだ」
「あるんなら、出したらいいのに。きっと選ばれると思うな」
「そうか。出してみるのもいいかも知れないな」
私は、この絵は外に出さず、自分で楽しむだけのつもりでいた。
確かに、自信作ではあるが、とてもプライベートな物のような気がして、応募しようとは考えもしなかった。
だから、外に出す事に抵抗があったのだが、モデルであるヨウがいいと言うなら、出してみるのも悪くない。
その後、私はヨウを連れて外に出る事にした。
実は、ヨウがいない間に、母親の墓を探していたのだ。
しかし、ヨウには墓参りの事は隠して「帰って来た祝いに外食をしよう」とだけ言った。
「お祝いなんていいのに」
「私が祝いたいんだよ」
ヨウは遠慮がちに言ったが、私は強引に外に連れ出した。
目的地まで車で片道一時間。
郊外の道をのんびりと走って行く。
「こんなところに店があるの?」
「食事の前に、連れて行きたいところがあるんだ」
「僕を捨てに行くの?」
「まさか」
「良かった」
ヨウは安心したように息を吐いた。
その後、しばらく走って、墓地の駐車場に車を止めた。
「着いたぞ」
「ここ?」
ヨウは不思議そうに私を見る。
「ヨウ君のお母さんの墓、探したんだ」
私はそう言って、トランクから花を出した。
「どうやって見つけたの?」
「探したんだけどな。見つけられなくて、興信所に頼んだんだ」
私は苦笑しながら言った。
「ありがとう」
その後、しばらく歩き、母親の墓にたどり着いた。
ヨウは墓の前で、困ったように私を見る。
「お母さん?」
「そう。お母さんの墓だよ」
ヨウはそれを聞くと、墓の前にしゃがみ込んだ。
「お母さん。ずっと会いたかった」
そう言って、ヨウは墓の前で泣き続けた。
ヨウは、ひとしきり泣いた後、ゆっくりと立ち上がると、私の方を振り向いた。
「もう、こんな別れは嫌なんだ」
そして、私にすがりついた。
「笹川さんと、ずっと一緒に暮らしたい」
これは、ヨウの告白の言葉なのだろうと思う。
「それも、いいかもな」
私が笑いかけると、ヨウも嬉しそうに笑った。
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