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第2話 強襲

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「他に人は?」

 彼女の目から見ても子供にしか見えない僕からの質問に驚きながらも、彼女は首を横に振った。もちろん僕はそんな言葉をうのみにせず、そのまま仲間のゴルバに見張りを頼み一階の詮索を開始する。

 リビングには大き目のテーブルとソファがあり、冷蔵庫の中にはそこまで食材は詰められていなかった。家族で住んでいるのか、単なる乳母としているのかわからないが、誰かがこの家に戻ってくるのは間違いないだろう。

 一階にある窓とカーテンを閉め終え二階へと移動を考えた時、その二階から突如女の悲鳴がこだました。頭を占めたのは不安よりも困惑だった。

 なぜあの女はもう一人いることを黙っていた?鉢合わせした瞬間そいつは死ぬことになるのになぜだ??

 急激な状況の変化だ。
 僕は瞬時にゴルバと合流する為、玄関へと向かったが二人共忽然と姿を消していた。

 何が起こっている…。
 いくら何でもただの女一人にどうにかされるほどあいつは弱くない。

 焦る気持ちを抑え射線を警戒しつつ二階へ向かう。
 古い階段は慎重に上っても、体重で一段上るごとにギシッ、ギシッと音を鳴らし僕を不快にさせる。

 廊下の突き当りの部屋から男と女が争う声がする。
 その部屋の半開きとなってる扉を銃身で開けると、ゴルバがさっき脅した家主の女に馬乗りになって口汚く罵っている最中だった。
 僕はその光景を見て、自然と大きなため息を付いた。
 
 人が神経すり減らしながら調べている最中に、こいつは何ここで遊んでるんだ…。

 僕は既に限界だった。
 食事だってまともにとっていなし24時間近く寝てない。その上朝方まで軍隊に追い立てられるし、生き残れる見通しも全く立っていない。

 この馬鹿の危機感の欠片もないこの行動によって忘れていたはずの疲労感がドッと沸き上がり、僕の張りつめた糸はものの見事にぶった切れた。
 戦場では一人と二人では出来る事に大きな差がある。それが体に染みついているはずの僕が、そのまま最後の一人残った仲間の頭に向けて一発の銃弾を撃ち込んだのは仕方がない事だったと思う。

 パンッ!

 頭に風穴を開けて仲間だったそれはゆっくりと床に倒れ込む。安物の家具だらけ部屋の一室に、硝煙のにおいが立ち上がり襲われそうになった女は撃った僕を、信じられない目で見つめている。

「はぁ…、ようやく一眠り出来るかと思ったのになぁ…。」

 女の存在を忘れ、一人左手で頭を抱え出す。
 視線も女から切れてしまっている、間違いなく愚かな行動だった。

 犬より待てが出来ない人間なんて初めて見たな。いや嘘だ、沢山いて沢山死んでいったな。
 女の悲鳴と銃声でせっかく確保した寝床も、誰かに感づかれる前に早急に放棄しなければならなくなった、まぁ銃声は僕のせいなんだけどね。
 あ~もう全てがどうでもいい、鳥になって大空を飛びまわりたい。

 服が破れ怯えきった女が今起きたばかりの3歳ぐらいの娘を抱きしめ、13歳の小さな僕を見上げてくる。その黒い目には不安と混乱が色濃く浮かんでいた。

 わからないでもないよその反応。
 突然銃突きつけられて脅されたと思ったら、15分もしないうちに頭をはじくのを目の前で見せつけられたのだから。
 何がしたかったんですかって感じだよね、奇遇だね僕も同じ気分だよ、ハハッ。

 僕は何度目かわからないため息を付くと、少し冷静さを取り戻し困惑が色濃く残る女に銃口を向け丁寧お願いをした。

「もう出て行くんで、金と洋服と食べ物用意してもらえますか?」

 ドンドンドンドン!!

 階下から、激しく扉をたたく音と男の叫び声に似た呼びかけが響く。

 尋常ではないその音に、カーテンと窓の隙間から外の様子をみると、今やお馴染みとなった軍服がわらわらと家に集まってきていた。

 運なさすぎだろいくらなんでも…。
 たった一発の銃声と悲鳴が敵の耳に入って、尚且つ発生源が即特定されるなんて。
 てか追い付くの早すぎ、独裁国家の軍人のくせになんで真面目に仕事してんだ。この死んでる馬鹿を少しは見習ってほしいだけど。

 バキッっ!!

 現実逃避していたら扉を蹴破った大きな音が階下から聞こえてきた。
 奴らに我慢と遠慮という概念はないらしい。

 続々と一階の部屋を制圧しているような怒声が聞こえ始め、時間があまりない現実を僕に突きつける。無意識に装備の点検を慣れた動作で行っていた。

 弾倉は残り1つに、手榴弾が二つ。
 人を脅すのと自殺ぐらいにしか役に立たない拳銃が一丁。
 敵はムービースターじゃなければ倒せない数。
 最高の状況だね。
 僕は目をつむり、頭を垂れ大きく一度深呼吸をしたが、それでも頭の中の予測はどれも結果は同じだった。

「死ぬな…、どうやってもここで…」

 女を盾に脱出は?うん、無駄だな。どうせ最後には女ごと蜂の巣になって終わりだ。この国の軍人なんてそんなもんだろ。

 僕は仕方なく覚悟を決め、一度閉めた地獄へ直通するドアノブを握ろうとした瞬間、さっきまで怯えきった女が、決死の覚悟をした目で僕の腕をつかんできた。
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