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第17話 モグラさんと揺るがない意思
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塔の周囲を彩る布屋根市場の一角。
エンビーさんおすすめのご飯屋さん【モグラ亭】に僕らはやってきた。
店先には年季入った木製の看板が垂れ下がり、コック帽を被った二本足で立つモグラの絵が描かれていた。ここの店主の姿似だそうだ。
店主がモグラという説明に特に疑問を浮かばなくなってしまった僕は、良いのか悪いのか既にこの世界に順応しているのかもしれない。
案内された席に着くと、モグラの店員さんが飲み物と料理を運んできてくれた。
人というより背が僕の半分ぐらいのエプロン姿のモグラだ。料理を乗せたトレーを両手で持ち上げながらひょこひょこと持ってくる姿が何ともかわいかった。
ありがとうと伝えると首を傾げられたので、モグラ人は言葉を使わない人種なのかもしれない。もしくはめちゃくちゃ頭がいい大き目のただのモグラかもしれないが細かい事は気にしたらきりが無いので人と定義していいだろう。
「じいさんが好きでね、この島に一緒に来たときはよくここで食べてたんだ。子供の頃は店員目当てで来たがっていたが、今ではこの島に来たら食べるようになっていた。料理にスプーンを1本しか渡してくれない所も今ではもう慣れた」
柔らかく煮込まれたゴロゴロとしたお肉が入ったブラウンシチューと付け合せのパンとサラダ。出店料理というよりレストランで出されるような一皿に、僕は期待に胸を膨らませ口へと運んだ。
「どうだ?気に入ってくれたか?」
「うん、とっても美味しいよ」
「それはなによりだ」
エンビーさんはふっと笑うと、片手で髪を押さえながらスプーンを口へと動かした。
「そうだ、船の行先でオススメの場所とか教えてくれませんか?治安が良くて買い物とかに苦労しない場所が良いんですが」
「私より先に、ラーズの神とは相談しなくていいのか?」
「それは大丈夫です。僕の事も選定の儀の事も興味がないタイプの神様なので」
僕の揺るがない返答に、そうかと苦笑いを浮かべるエンビーさん。
そもそも相談の仕方が不明なんですけどね。いつでもご連絡お待ちしてますよレグルス様!
「私は第7世界でしか生きた事がないから、おすすめの場所ならやっぱり故郷のアルディオを推す。気候も穏やかでそこそこ発展していて、買い物にも苦労はしないだろう。それに私がいるから多少の事は手を貸してやれる」
「ご迷惑では?」
「かまわんよ。つきっきりは難しいけどな」
女神かなこの人?何を食べればそんな人間になれるというのか?
海よりも深い慈愛の精神に触れた時、視界の端に飲み物のお替りを二つ持ったモグラさんが現れた。まだいらないと伝えたら首を傾げ、持ってきた飲み物をテーブルに置いた。
うん、可愛い。でも飲みきれないから普通におかないで欲しい。
「いらない場合はコップを持ち上げるんだ。ちなみにテーブルに置かれたその飲み物は追加料金が発生する」
エンビーさんがコップを上げたので、モグラの店員さんはすごすごと帰っていった。
勝手に置いて行ってお金を取るなんてずる賢いんだ!?でも可愛いから今更押し返せない!
異世界版押し売りを経験した僕は、ふと会話の中の謎ワードを思い出す。
「そういえばさっきの話にも出てきましたが、なになに世界というのは何ですか?」
「光壁に区切られた地域の単位のことだ。ラーズの世界にもあっただろ。1つの世界で発生した火種が世界全体へ波及しないように、神が作った天まで届く光の壁が」
「あったかなぁ…。僕は聞いたことないな」
多分ないな。そんなものがあったら神の存在を疑うものはいないだろうし。
地球の神様も大概働かないのかもしれないな。存在自体してない可能性も十二分にあるけどそれは言わないお約束だ。
「ゆっくり色々考えた後にチケット屋に行けばいいさ。在庫が無くても新たに作ってもらえるから売り切れを心配する必要もない」
「船はベルモントさんの魔法ですもんね。そにしてもチケットの金額は少しぼったくりじゃないですか?片道最低1000万ですよ、1000万」
「この島に来れるような人間はそうは思わない。通過困難な光壁の影響を受けず物も人も集める事が出来き、その上世界の真裏にも金さえあれば行くことも可能だ。高額なチケット代も、資金集めというよりこの島に不必要な人間をはじく、人避けの意味合いの方が強いだろう」
「やっぱりどこの世界も金が物いうのか…」
「まぁ、何かを成し遂げる時には大抵必要にはなるからな」
食が進み、シチューの具材が無くなるにつれ、エンビーさんの瞳の色が徐々に暗く沈んでいくように見えた。きっと重要な話をふるきっかけを探しているのだろう。現状楽観視している僕とは対照的に、失敗が許されない、そんな雰囲気さえ彼女の表情からは漂ってきた。
そんなに深刻にならなくてもいいのに…。
どうやらあの二人は特別な存在で、エンビーさんは僕の心を読めないみたいだ。
僕の料理も残すところ後わずかとなったところで、ようやくエンビーさんが視線を合わせず声をかけてきた。
「ラーズ…」
「やりますよ、どんな内容だとしても」
なので彼女の振り絞った声に、僕は声をかぶせて答えた。
微塵も偽りのない言葉と彼女がとらえる事が出来るように。
エンビーさんおすすめのご飯屋さん【モグラ亭】に僕らはやってきた。
店先には年季入った木製の看板が垂れ下がり、コック帽を被った二本足で立つモグラの絵が描かれていた。ここの店主の姿似だそうだ。
店主がモグラという説明に特に疑問を浮かばなくなってしまった僕は、良いのか悪いのか既にこの世界に順応しているのかもしれない。
案内された席に着くと、モグラの店員さんが飲み物と料理を運んできてくれた。
人というより背が僕の半分ぐらいのエプロン姿のモグラだ。料理を乗せたトレーを両手で持ち上げながらひょこひょこと持ってくる姿が何ともかわいかった。
ありがとうと伝えると首を傾げられたので、モグラ人は言葉を使わない人種なのかもしれない。もしくはめちゃくちゃ頭がいい大き目のただのモグラかもしれないが細かい事は気にしたらきりが無いので人と定義していいだろう。
「じいさんが好きでね、この島に一緒に来たときはよくここで食べてたんだ。子供の頃は店員目当てで来たがっていたが、今ではこの島に来たら食べるようになっていた。料理にスプーンを1本しか渡してくれない所も今ではもう慣れた」
柔らかく煮込まれたゴロゴロとしたお肉が入ったブラウンシチューと付け合せのパンとサラダ。出店料理というよりレストランで出されるような一皿に、僕は期待に胸を膨らませ口へと運んだ。
「どうだ?気に入ってくれたか?」
「うん、とっても美味しいよ」
「それはなによりだ」
エンビーさんはふっと笑うと、片手で髪を押さえながらスプーンを口へと動かした。
「そうだ、船の行先でオススメの場所とか教えてくれませんか?治安が良くて買い物とかに苦労しない場所が良いんですが」
「私より先に、ラーズの神とは相談しなくていいのか?」
「それは大丈夫です。僕の事も選定の儀の事も興味がないタイプの神様なので」
僕の揺るがない返答に、そうかと苦笑いを浮かべるエンビーさん。
そもそも相談の仕方が不明なんですけどね。いつでもご連絡お待ちしてますよレグルス様!
「私は第7世界でしか生きた事がないから、おすすめの場所ならやっぱり故郷のアルディオを推す。気候も穏やかでそこそこ発展していて、買い物にも苦労はしないだろう。それに私がいるから多少の事は手を貸してやれる」
「ご迷惑では?」
「かまわんよ。つきっきりは難しいけどな」
女神かなこの人?何を食べればそんな人間になれるというのか?
海よりも深い慈愛の精神に触れた時、視界の端に飲み物のお替りを二つ持ったモグラさんが現れた。まだいらないと伝えたら首を傾げ、持ってきた飲み物をテーブルに置いた。
うん、可愛い。でも飲みきれないから普通におかないで欲しい。
「いらない場合はコップを持ち上げるんだ。ちなみにテーブルに置かれたその飲み物は追加料金が発生する」
エンビーさんがコップを上げたので、モグラの店員さんはすごすごと帰っていった。
勝手に置いて行ってお金を取るなんてずる賢いんだ!?でも可愛いから今更押し返せない!
異世界版押し売りを経験した僕は、ふと会話の中の謎ワードを思い出す。
「そういえばさっきの話にも出てきましたが、なになに世界というのは何ですか?」
「光壁に区切られた地域の単位のことだ。ラーズの世界にもあっただろ。1つの世界で発生した火種が世界全体へ波及しないように、神が作った天まで届く光の壁が」
「あったかなぁ…。僕は聞いたことないな」
多分ないな。そんなものがあったら神の存在を疑うものはいないだろうし。
地球の神様も大概働かないのかもしれないな。存在自体してない可能性も十二分にあるけどそれは言わないお約束だ。
「ゆっくり色々考えた後にチケット屋に行けばいいさ。在庫が無くても新たに作ってもらえるから売り切れを心配する必要もない」
「船はベルモントさんの魔法ですもんね。そにしてもチケットの金額は少しぼったくりじゃないですか?片道最低1000万ですよ、1000万」
「この島に来れるような人間はそうは思わない。通過困難な光壁の影響を受けず物も人も集める事が出来き、その上世界の真裏にも金さえあれば行くことも可能だ。高額なチケット代も、資金集めというよりこの島に不必要な人間をはじく、人避けの意味合いの方が強いだろう」
「やっぱりどこの世界も金が物いうのか…」
「まぁ、何かを成し遂げる時には大抵必要にはなるからな」
食が進み、シチューの具材が無くなるにつれ、エンビーさんの瞳の色が徐々に暗く沈んでいくように見えた。きっと重要な話をふるきっかけを探しているのだろう。現状楽観視している僕とは対照的に、失敗が許されない、そんな雰囲気さえ彼女の表情からは漂ってきた。
そんなに深刻にならなくてもいいのに…。
どうやらあの二人は特別な存在で、エンビーさんは僕の心を読めないみたいだ。
僕の料理も残すところ後わずかとなったところで、ようやくエンビーさんが視線を合わせず声をかけてきた。
「ラーズ…」
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なので彼女の振り絞った声に、僕は声をかぶせて答えた。
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