これは少年ラーズの異世界物語

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第18話 手を組んだ二人

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 エンビーさんの細い眉毛がぴくっと反応し、料理に向けていた視線が僕へと移る。
 ランプの揺らめく光の影響なのか、その瞳からは彼女らしい強さを感じることは出来ない。

「僕というより、何か代理人にやって欲しい事があるんでしょ?」
「………、内容も聞かず受けるのは賢い選択ではないな。例え信頼する者からであってもだ」
「確かにそうですね。ですがエンビーさんのお願いは、僕にそれ程リスクがある話ではないとわかってるので」

 彼女の赤い瞳が一瞬大きくなり、そしてそらされる。
 まばらな人通りが一瞬止まってしまった会話により一層の静けさを纏わせた。
 どうやら食事を進める気はないようだ。視線は料理に向いているのに、彼女のスプーンは未だ動かないままだ。
 
「なぜそう思ったんだ?私だからか?」 
「最初の接触の仕方ですね」
「接触の仕方?」

 エンビーさんは眉間にしわを寄せ、懐疑そうに視線を僕へと戻した。

「護衛をわざわざ外したでしょ、海岸で初めて会った時。それは護衛がいたらもしかしたら僕が圧を感じて話すら聞いてもらえないと危惧したからじゃないですか?つまりそれって、チケット代をエサにするけど、丁寧に話をすれば僕が必ず受けてくれると確信があったからじゃないんですか? そんな話、僕にリスクがあるとは思えないですよ」

 僕の投げ掛けに彼女は短く含み笑いを返すと、肩の力が抜け緊張がほぐれたように見えた。

「…、ラーズを少し見くびっていたようだな。子供に見透かされるなんて、手練手管の商人にはなれそうにないな」

 そうですね、貴方に向いているのは人から愛される質実剛健な商人だと思います。 
 
「でも疑問が一つ。なぜ当初の計画を変えてでも、僕をドクさんと引き合わせたのですか?チケット代に見通しが立ったら、僕がエンビーさんのお願いを断るリスクを背負うことになるのに。交渉に手を抜いてるようにも、上手くいかないと思ってたようにも見えませんでしたし」

 自分で言った質問の答えは、聞かなくても大方この人の性格を思えばわかる。けれど本人の口から直接確認したいという気持ちはある、自分の決心をより強固に固める為に。

「………、今ここで何とかしないと後悔する。ラーズを見てそう思ったからだ。余計なおせっかいだったかもしれないが」
「とんでもない、今僕がこうして食事を楽しめるのもエンビーさんのおかげです。というかそんなに危なっかしかったですか?僕の言動は」
「泳げもしないのに夜の海に飛び込みそうなぐらいにはな」
「それはそれは、ご心配おかけしました。」

 僕が一度お辞儀をして頭を上げると、エンビーさんの瞳は僕の頭を撫でる時の赤い瞳に戻っていた。僕にも自然とした笑顔が戻る。
 それと同時に僕とはやっぱり住む世界が違う人だと身に染みて感じるのが少し痛い。
 
「神様へ何か伝言でもしてほしいんですか?あまり勤労意欲のない神様しか知りませんし、連絡方法もわかりませんが」
「神への伝言か…、少し前なら飛びついていたかもしれないが今は違う」
「それでは何を?」

 エンビーさんがスプーンを置き、姿勢を正した。
 追加の飲み物を持ってこようとしたモグラの店員さんも、エンビーさんから醸し出される商会会頭の雰囲気に立ち止まる。

「…大賢者ベルモントと取引がしたい。ラーズにはその仲介役を担って欲しい」

 その言葉は自然と従いたくなるような力と重みが帯びていた。
 彼女の中でベルモントさんとの取引は何か大きな意味を持っているのだろう。
 
 あれ、でも待てよ…。僕必要か??

「ベルモントさんなら、多分普通に塔にいると思いますけど?」
「招からざる客には、姿を拝むことすら出来ないんだ。魔法なのか権能の力なのかわからないがな」

 なるほど、そういえば一番初め部屋に入るのに許可とか言ってたっけ。
 
 僕は彼女の期待に応えるべく姿勢を正し、その赤い瞳を見つめて言った。

「これ食べ終わってからでいいですか?」
「ふっ、もちろん。私も残すのが惜しいと思うぐらい好きなんだこの料理」

 微笑み合う僕らをしり目に、店員のモグラさんはすかさず追加の飲み物を二つ置いていった。


|||||


 会計の時にエンビーさんがモグラの店員さんに頭を撫でられている光景に衝撃を受けつつ、店を後にした。小さい時別れ際頭を撫でていたのが、いつの間にか別れの挨拶となって今でも続いているらしい。
 
 軒先から出ると、2人組のガタイがいい短髪のおじさん達が僕達が出るのを待ち構えていた。洋服に統一感は無いが二人の雰囲気は似ている。恐らく同業者だろう。
 
 僕はエンビーさんの前に自然と出るも、彼らの片方が柔和な雰囲気を醸し出し、エンビーさんへと話しかけてきた。

「話がまとまったようで何よりで」

 タイミングがいいな、盗聴でもしてたようだ。
 
 チラリとエンビーさんを見ると、彼らはエンビーさん御用達の護衛だと紹介された。普段は商会内でも特に重要な人や荷物の護送を担当してもらっているらしい。
エンビーパパの生え抜きだそうだ。

「ちなみにいつから僕の監視が始まっていたの?」
「ラーズがベルモントの塔から出てきた時からずっとだ。というか20日以上前からベルモントの様子を探るのに塔には張り付いてもらってる」

 さらっと言われたけど、24時間の定点監視に、エンビーさん単体の護衛を考えれば後6、7人は最低いるだろう。
 どうやら想像以上に本気だ。ベルモントさんとの交渉の場にありつく為だけに、滞在費やチケット費用諸々考えれば、少なく見積もっても既に5千万以上はかかってる様な気がする。見通しの立たない計画だ、予算は最低その数倍はあるだろう。

 彼女にとってそれが大金なのか端金なのかは分からない。しかし「乗り遅れたかと思ったよ」と呟いた声には、彼女の安堵の表情が見て取れた。

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