これは少年ラーズの異世界物語

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第19話 大賢者ベルモント

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 大賢者ベルモント。
 人類では未だ認識さえ出来ない魔法の理へと到達し、命すら創造すると謳われるいにしえのドラゴン。
 7つの国がその逆鱗に触れ、彼女が生み出した流星によって世界で3番目の広さを持つ湿原へと変貌を遂げたことはおとぎ話ではない。 
 権力者達は恐れた、彼女に刃を向ける愚か者達の存在に。
 宗教家達もまた恐れた、自身が崇める神と同列に扱われる存在に。
 人類は平和と安寧を守る為、神の座から引きずりおろす為、苦肉の策としてかのドラゴンに【大賢者】の称号を共同で与え、彼女への攻撃は全人類に対しての攻撃と認定し、彼女を神とは別の不可侵の存在へと昇格させた。
 それは幾千の屍を築いた魔王にすら頭を垂れなかった人類が、神以外に初めてひれ伏した瞬間でもある。 

|||||
 
 島の中心にそびえ立つベルモントさんの住処である塔は、奴隷達から畏怖の念を込め【魔導塔】と呼ばれ、主人と共に存在を恐れられていた。
 
 その塔の100段以上はある直線的な階段を僕たちは今上っている。
 ベルモントさんとの交渉に赴く為だ。
 
 階段の手すりの壁面には、2メートル間隔に瓜の形をした色とりどりの発光するランプが埋め込まれ、その淡い光に誘われた妖精達がその周囲を音もたてずに飛び回っていた。
 出てくる時とは違って肉食系妖精かどうかビビっていると「だっこしてやろうか」とエンビーさんにからかわれた。もちろんそんなご提案されたら遠慮するわけにはいかないので「いいんですか」と伺ってみるも、「自分の足で登れ」と普通に置いてかれてしまった。
 
 提案して拒否するなんて世の中にこんな理不尽あるのだろうか?いいやないだろう。かと言って仕方ないとかがまれたらそれはそれで困っていたが…。

 意外にもエンビーさんは体力があり休憩をはさまないどころか息一つ切らさずスイスイ上っていく。僕はもちろんこれ程度は特に問題ない。慣れたくもない山での鬼ごっこの経験が生きているのかもしれない。
 
 そんなこんなしている間に、ベルモントさんの部屋へ通じる扉がある踊り場へたどり着く。この大きく古めかしい扉から出て来てからまだ1日も過ぎてないのに、戻ってきて懐かしいと思えるのは不思議なものだ。色々ありすぎたせいだろう。
 
 扉の前にはエンビーさんの護衛仲間と思われる2人の男女が既に待ち構えていた。
 片割れのショートカットの女の人が、エンビーさんへの挨拶をそうそうに僕の隣に来て話しかけてくる。

「私達は君がこの扉から出ようとした時、誰もいない部屋に向かって話し掛けていたのを見た。君にしか見えないお友達がいるってわけではもちろんないんだろ?」
「ベルモントさんと普通に会話をしてたよ。角度的に見えなかったとかは?」
「残念だがそれはない、ここに張り付いていた2人共確認できなかった。恐らく特定の人間にしか姿を認識させない魔法か権能でもつかっているのだろう」
「家捜しはしたの?」
「もちろんした。ただ忍び込むのは死んでもごめんだったから、正面から堂々と手土産持参で入ったよ。得られたのは短くなった寿命と塔の上からのいい眺めだけだったけどな」
 
 この人達もエンビーさんと同じで、どんなことがあろうともベルモントさんと争う気がなさそうだ。僕にとっては良い情報だな。
 
 未だベルモントさんを見たことがないという全員にその姿形を話した後、他にベルモントさんの情報を聞かれたので、記憶を読むことが出来るからベルモントさんに悪意がある人は今の内外した方がいいとも話した。それには護衛全員が問題ないと示したので懸念事項が一つ解決された。

 エンビーさんが求める僕の役割は大きく分けて2つ。
 エンビーさん達にもベルモントさんが見えた場合と見えなかった場合だ。勿論いない場合無視する。
 前者の場合は紹介だけで後はエンビーさんにお任せ、後者の場合は彼女の正確なスピーカーになること。
 今回は顔合わせでだけで終わるかもしれないが、僕個人へ何か要求をあったらどんな些細な事でも全て拒否していいと言われた。神の代理人に直接手は出さないだろうが、契約や取引が絡むとその限りでないそうだ。もし研究材料としてベルモントさんが興味を持ったら、神々相手でも平然とそれをやるタイプらしい。

 ベルモントさん…、めちゃめちゃ恐れられていますけど、過去に一体何をやらかしたのでしょうか?僕の前ではいつまでも優しいドラゴンさんでいてくださいね。

 打ち合わせが終わったところで、護衛の二人が入口の重厚な鉄扉の前に陣取った。力づくで開けようとするつもりだ。しかし部屋に入った時を思い出した僕は二人の間をすり抜け、扉に手を触れた。すると扉の全面に鍵マークの光の紋章が浮かび上がり、ひとりでに音を立てて開きだした。

 その光景に喉をかすかに鳴す一同。隣のおじさんが「前は叩き壊そうかとおもったが、ビビって2人掛かりで開けたんだ」と苦笑いを浮かべた。

 開ききった鉄の扉。
 僕らは中の様子を同時に視認した。
 最初に言葉を発したのはエンビーさんだった。

「変化無しか………。扉が開いた時にはもしやと思ったが…」 

 ため息と共に漏らした声に僕の眉毛がピクリと反応する。

 彼女の目に広がる光景は恐らく廃墟なのだろう。
 どうやら僕とは違うようだ…。

「いますよ、ベルモントさんなら部屋の中に」

 僕の発言に目を見開き、彼女は再び前方を見る。
 僕もまた部屋の中の明らかに異常な状況に、目を離すことが出来ないでいた。
 
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