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第26話 変節する状況
しおりを挟む突如、空にもとどかんばかりの一柱の魔力柱が島に出現する。
膨大な魔力を放出することによって発現できるそれは、まさに英雄と持て囃される程の、強靭で強大で、その者の本質を表したかのように邪悪さ多分に含んでいた。
魔力の多寡が強さに直結するこの世界では、それは絶対なる指標の一つだ。
出現した魔力柱に呼応するように、一本、また一本と星空へと魔力柱が立ち上り、力を取り戻した奴隷達が己の力を世界へと誇示した。
ベルモンドの戦闘の推移を安全圏で見守っていたラーズ達の意識が、それらに向けられるのも不思議でない程に脅威を感じさせるには十分なものだった。
「う~ん………、エンビー、やっぱり脱出の方向で」
「リーダー!?」
「いや無理だろこれ!そこら中に化け物達がうじゃうじゃいるだぞ!どうやっても守りきれんだろこれ!!」
さっきまでナイスミドルだったリーダーのイメージが音もなく崩れた。
あれ…、リーダーのグレドさんが、前世のリーダーと同じになっている。これはやばいかもしれない。
ドゴォォォン!!
突如、ベルモントさんと女の子の戦闘が行われている島の真反対から爆発音が轟き、他方では落雷がはためきだした。何の為になどわからない。だが明らかに悪い方に天秤が傾いた事は僕にもわかった。
そんな中、突如声がかけられた。
「お前達ここでなにやってるんだ」
「!?」
振り向くとそこには身の丈と同じ大きさの大剣を肩に担いだドクさんが立っていた。
「ドクさん!」
突如現れたドクに対しラーズとエンビーは安堵の色が強いが、護衛達は戦慄していた。
彼等は護衛として億を越える案件をこなす自他共認める程の一流だ。それが立ち上がる魔力柱に気を取られはしたが、声をかけられるまで接近に気付かないなんて、彼らにとってそれは対魔物も含め初めての出来事だった。
「まだ島にいるから、心配になって見に来た。無事そうで安心したよ」
「すまない、心配をかけたようだな」
ドクさんがこの広い島でどうやって僕ら見つけたのかも気になるが、今はこの島の状況を確認することが優先だ。
「ねぇドクさん、明らかに島の状況が変わった。一体何が起こっているの?」
「ベルモントにちょっかいかけてるやつを足止めする為に、ベルモントが奴隷の力を開放したんだ。命令の制限が緩すぎて、力が戻った途端アホ共が好き勝手に暴れ始めたけどな」
「よくあることなの?」
「この島に来て300年以上経つが初めてのことだな」
300年以上か…、余程の珍事だな。
ベルモントさんは果たして大丈夫だろうか…。
ドクさんの一言に、僕と同じで悪い方に想像したエンビーさんは顔をゆがめた。
「…そんなに大賢者の戦況は芳しくないのか?」
「魔法を一発練る為に足止めしろって命令だから、何か考えがあるんだろう。ベルモントの心配なんてするなんて時間の無駄さ。この島の連中かき集めた程度で足止め出来そうな相手に傷一つ付ける事なんて出来ない。それよりも…」
ドクさんが一歩エンビーさんに距離を詰めると、エンビーさんは堪らず左足を後ろに少しずらした。
長年の付き合いで何を言われるか雰囲気でわかるのだろう。
「何でこの島にまだいるんだ?魔導塔が吹き飛んだのを見れば危険だってわかるだろう」
「…、その…大賢者と交渉を…」
「あの化け物と交渉だと!?エンビー、ベルモントは何をしでかすか分からないのは、子供の時からさんざん説明したからわかっているだろ。あいつが今までやってきたことはおとぎ話の類じゃないんだぞ」
「いや…まぁそうだが…」
明らかに子供が大人に怒られる時の様だった。
なるほど、ベルモントさんと奴隷とはいえ伝手があるドクさんに頼まずに、代理人を頼ったのは絶対に止められると分かっていたからか。
「それに周りをよく見ろ、普段と状況が違う。今暴れてる連中は、ベルモントに叩きのめされるまで、国ですら手を焼いた連中の集まりだ。それがバカ騒ぎをおっぱじめた。お前の護衛が一流なのは見ればわかる。だが一流程度じゃ歯が立たないんだここにいる連中は」
「言いたいことはわかってる…、だが…」
食い下がろうとするも言葉を詰まらせるエンビーさん。
その様子は言いたいことがあるが言葉に出来ない小さい女の子のようにも見えた。
普段と違うその様子にドクさんが大きくため息をつく。
お説教が再び始まるかと思いきや、エンビーさんの聞き分けの無い様子に、どうしてもなのかとドクさんは聞いた。するとエンビーさんはコクリと頷く。
それを見て再び大きくため息を付くと、ドクさんは空いている大きな手をエンビーさんの頭にポンッと乗せた。
大きな手の平の下から、丸くなった赤い目がドクさんを見つめる。
「友人の孫娘を見殺しにすることなんて出来ねぇ、今なら大抵の事は何とか出来る力もあるしな。とりあえずベルモントに課せられたノルマを達成したら戻って手伝ってやるから、それまで安全な所に隠れてろ。いいな」
「ドク………」
大きな手がゆっくりと頭から離れると、屋根に突き刺した大剣を再び握り肩に担いだ。
翻ってみせたドクさんの背中は、元々大きいがそれ以上に今は大きく見えた。
行ってくる、そう言葉を残しドクさんは一際光を放つ戦場へと旅立っていった。
「何者だ、あの人は?」
「国切りだよ、やる気のない武器屋の店員の姿しか見た事はないけどね」
「あの世界遺産になってる城砦跡を生み出した?」
「雑談は後だ。頭がおかしい伝説共に目をつけられる前にさっさと移動を始めるぞ」
護衛の女が会話の流れを見て、ラーズを抱っこしようと周囲を見渡す。
「あれ、坊やは?」
「ラーズ………?」
エンビーを含めた全員が周囲を見渡しても、そこにラーズの姿はどこにもなかった。
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