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佳人イザベラの復讐
しおりを挟むお久しぶりですわね、陛下。…いえ、もう「エドワード2世陛下」ではありませんでしたね、あなた。今の王は私の息子ですもの。それに、こんな汚物にまみれ、痩せ細ったみすぼらしい、王妃に優しくしたこともないゴミ男が王であるわけないですものね。もしそうであったら神に失礼ですもの。主が発狂してしまいますわ。そもそも、このような男が王座に座っていたという事実だけで主は卒倒するでしょうね。あのジョン王並みの愚王を再びイングランドに輩出させてしまったのですから。
え?私が無礼ですって?私が言っていることは全て事実ですし、それに王でもなんでもない「ただのエドワード」であるあなたに対して口を聞いているのですから無礼にも不敬にもなりませんわよ。議会はあなたの王位をとっくに剥奪していますからね。あなたがその書類に震える手でサインした話はちゃんと私の耳に入っていますわよ。本当に素晴らしいことですわ。議会の意志さえあれば愚王を廃することができるなんて。
今度はなんですか?夫に敬意を払え、ですって?何故私があなたを敬わなければならないのですか?嫁いだその日から、いえ、婚約したその瞬間から私はあなたに好意を抱いたことは一度ももないですし、ましてやあなたを尊敬したことは露ほどもないですよ?
思いたくもないですけれど、私たちは夫婦です。ですけれど、王太后の私に対しあなたはただのエドワードなのですから、敬意を払う必要すらありませんよね?私を愛したこともない貴方に。愚かにも私はかつていつかはあなたが私を愛してくれるのではないかと思っていました。いつかそうなるのならば、あなたを尊敬できるのではないかと。でも、無理でしたね。他の誰でもなくあなたのせいで無理になったのです。
それに私、あなたの全てが嫌いですもの。あなただけでありません。コーンウォール伯ピアーズ・ギャヴィストン、ヒュー・ル・ディスペンサー親子。彼らもそうです。あなたも知っていますわよね?彼らとあなたが私やその家族にどのような仕打ちをしてきたか。
あら…?ご存知でないフリですか、あなた?全て知ってるでしょう?奴らは私の宝石や財産だけでなく、領地も奪っていったでしょう。十二で嫁いだその瞬間から私が幸せだった瞬間はわずかです。ウォリックたちの私刑でギャヴィストンが死んだ日、息子が生まれた日、愛しいロジャーと出会った日、老ディスペンサーが死んだ日、若ディスペンサーを卑しい者にするように処刑した日。あとは…、あら、私が幸せな日の殆どが貴方にとっての不幸な日ですわね。息子が生まれた日くらいですわよ、私たちが喜びを共有できたのは。これほど合わない夫婦がこれ以前に一組でもいたでしょうか?…いえ、これからもいないでしょうね。夫婦ならば長く人生を共にするのですから、少なくとも数度は喜びを共有しているでしょうに。
さて、お話はそろそろ終わりにしてもよろしいでしょうか?言い残したいことは他にございますか?
あ、一方的に喋っていたのは私の方ですわね。失礼いたしました。これから先、いくら雌狼と呼ばれようと、夫の最期の言葉を聞くくらいの寛大さは私にとてありますわよ。
…あら?気づいていなかったのですか、私が何をしに来たのかと。ただ悪態をつきにきたわけではないですよ?王太后であり、今国政を担っている私にそのような暇があるとでも?本当に失礼な男ですわね。さて、ではそろそろさよならの時間といたしますか。安心して下さい。傷はつけませんわよ。ただし…、傷をつけるよりも苦しい目に遭うことになりますが。
この火箸ですか?あなたを殺すための道具に決まっているじゃないですか。本当に嫌ですわね。ロジャー・ド・モルトゥレイヴとトマス・ド・グルネイが提案してくれましたの。流石、当代一の残逆な騎士ですわね。傷がつかず、かつ長すぎず短すぎない時間で私が味わってきた苦痛と同程度の苦痛を与えることができるあなたの罰を。
さぁ、苦しみなさい。本当は私が味わったものと同じ苦しみを同じ時間だけ与えたかったのですけれど、それではダメだとわかったので。私が人生で味わった苦しみと同じだけの量の苦しみを、今から死ぬ瞬間までに与えることにします。
ではさようなら、エドワード。
応援ありがとうございます!
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