R18【同性恋愛】『戻れない僕らの日常』【絆・対・相編】正規ルート編

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────1章『方舟のゆくえ』

■1「理性と葛藤と記憶」

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 ****♡Side・久隆

「外部生が目立ってんなよ」
 中庭から聞こえた言葉に久隆はうんざりした。
「そうそう」

 バカしかいないのか?

 スラリとして綺麗な立ち姿をした男子生徒を、数人が囲み因縁をつけている。
「女にキャーキャー言われてさぁ。いい気になってんなっつの」
 そんな生徒いただろうか、そもそも女にモテてふんぞり返っているやつなんて久隆には、大里くらいしか思い浮かばない。やっとで中庭に辿り着くと、久隆は彼らの前に躍り出た。

 俺は掃除屋じゃないんだけどな。
 こんなの、生徒会か風紀の仕事だろ。
 まあいい、こんなことにしか使えないネームバリューだ。

「なあ、お前ら」
「大崎ッ?!」
「内部生の恥さらしもいいかげんにしろ」
「なっ」
「外部から来たやつらはな、俺らの何倍も真面目に勉強して大変な受験戦争潜り抜けてきた、言わば英雄なんだよ。俺らみたいに楽して高等部に上がった訳じゃないのはわかってるだろ?」
 久隆の言葉に彼等は黙る。

「そういう奴らがモテるの当たり前。悔しかったら努力しろ」
 ”散れ”と言って腕を横に振った。ため息をついて、久隆は振り返る。
「ごめんね、うちの内部生バカばっかだから」
 しかし、久隆は言って相手を見上げると酷く後悔をした。
「君は..。とにかくごめんな」
 お詫びの言葉を告げ、久隆は相手の返事を待たずに歩き出すが、
「待ってよ!」
 相手に呼び止められ、ビクッとして立ち止まる。
「お礼も言わせて貰えないの?」
 問いかけは寂し気で。

 なんで、なんで、なんでだよ!
 なんでよりによって、君なんだよ。

「そんな権利すら与えて貰えないの?」
 綺麗な落ち着く声だった。
「え?」
 久隆は恐る恐る相手を振り返る。
「住む世界が違うから?」
「なに言って..」
「大崎くんの家は規模が桁違いだものね」
 ゆっくりと近づいてくる彼の、その歩みを止めたくて久隆は、
「嫌われてるのかと思ってたよ、君に」
 と彼を見つめ返す。
「何故嫌う必要があるの?」
 しかし彼の返答に、ため息が出た。

 ”霧島 咲夜”

 同じクラスになって三ヶ月目に入るが、クラスの誰とでも気軽に話しをするくせに、久隆にだけは話しかけて来ない。だからこうして言葉を交わすのは、図書館で話して以来となる。
「住む世界が違うって、一応同じ地球上に立っているんだが?」
 そう返し、久隆は腕を組む。
「意味わかってるくせに、意地悪言うんだね」
 最もな意見ではあるが。
「ただのクラスメイトじゃないかよ」
 久隆はあとづさると壁に寄りかかり、更にため息をつく。
「俺にとっては違うよ」
 咲夜は久隆の考えには賛成してくれないらしい。
「ふーん。君にとって俺は何?」
 つまらなそうに返すがその実、久隆はドキドキしていた。

 綺麗な子だ。
 見惚れるほどに。

「どうすれば同じ世界に居られるわけ?」
 会話を終わらせたいと願いながらも、自分の意に反し煽ってしまっている。

 ああ、自分はバカだ。
 これ以上、近づいてはいけないのに。

「対等ってこと?そんなの、俺に無理でしょ?」
 咲夜は久隆の前まで来ると、じっとこちらを見下ろす。距離が近くなり、咲夜からはいい匂いがする。
「ならば君は俺に何を望んでるんだよ?」

 触れたい。
 離れなくてはいけないのに後がない。

「それは」
 久隆の問いに咲夜は困った表情を浮かべた。そして、
「友達に..なりたい」
 と呟くように。

 嫌われているなら、それでも良かった。
 なのに、どうして君は。

「いいよ」
「え?」
 良くなんてないのに、久隆の心と言動は無茶苦茶で。父の秘書、和から上がってくる調査報告書でついに真実にたどりついたのは先日。あの約束を覚えているのは、自分だけ。咲夜は忘れてしまっており、恋人がいる。正直、彼の側にいられる”片倉 葵”が羨ましくて仕方ない。いっそ、奪ってしまいたいが、それでは何のために調べていたのかわからない。本来の目的を失ってしまう。なのに…今、自分を抑えられない。
「ねえ」
 久隆は咲夜の襟元を引き寄せ、彼の耳元で囁く。
「咲夜って呼んでいい?」
 その言葉は彼を驚かし、目を見開かせる。

 君を、俺のものにしたい。
 君が欲しい。
 欲しくてたまらないんだよ。

「ダメ?」

 こんなこと、思ったらいけないのに。
 ”満開の桜のように美しい君”を手に入れたい。
 自分のものにしたい。

「いい..よ」
 頬を染め、目を泳がせる咲夜が可愛らしい。

 触れたい。
 君を汚してしまいたい。

 久隆は徐に咲夜の髪に手を伸ばしたが、触れることは出来なかった。
「な..に?」
 咲夜に反射的に手首を掴まれ、久隆は自嘲ぎみにクスッと笑う、手首から伝わってくる少し低い、彼の体温。
「警戒心強いんだ」
 傷つきたくなくて、久隆はそう口にするが、
「そういうわけじゃないけど」
 咲夜は触れられたくなかった理由を否定した。
「咲夜の髪、綺麗だなって思って」
「ありがとう」
「触らせてよ」
 咲夜は困った表情をして久隆の手首から手を離す。
「俺、あまりスキンシップは..」
 困り顔の彼に久隆は嫉妬を感じながら手を伸ばした。

 ズルいズルいズルい..

「片倉くんとベタベタしてるって噂よく聞くけど?」
 咲夜の絹のような手触りの髪に触れながら。
「え」
「ん?なんか変なこと言った?」
「そんな、有名?」

 ああ、まずいな。

 イラつく心に任せ放った内容は調査報告書の情報で。彼らは人の出入りの少ない別館でひっそりと寄り添っているだけなのに、不安を与えてしまう。
「気をつけないと、だね」
 咲夜は呟くようにそう言った。
「そんなに片倉くんが大切?」
「うん」
「ふーん」
 即答する咲夜に久隆はイラッとして彼の襟元を持って引き寄せる。
「大崎くん?何するのッ?!」
「久隆って呼んで」
「んッ」
 久隆は抑えが利かなくなり、怒りに任せ咲夜の唇を奪っていた。
「何するの..なんで、こんなこと」
 咲夜は涙目になっている。
「君が、綺麗過ぎるからいけないんだよ」

 奪いたい。
 君を奪いたい。

「だからって、いきなりキスするとかおかしいよ」
 咲夜は怒っていたが、久隆の態度は変わらない。
「もっともな意見だね」
「こういうことは好きな人とするものでしょ?」
 久隆は彼の唇を親指の腹でゆっくりと撫でる。”そういうこと、言うんだね”と思いながら。

「君が、好きだ。と言ったら?」
 久隆は彼の唇を見つめ。
「信じるわけない」
 返ってきたのは絶望で。
「何故?」
「お互いなにも知らないのに」
 ”お互いね”と久隆は思った。
「そう」

 俺が一方的に知っているだけ。
 俺だけが覚えている、約束。
 君をどろどろに甘やかして、俺がいなければ何も出来なくさせたい。
 君は”片倉 葵”と寝たのだろうか?
 片倉に嫉妬してしまいそうだ、自分の目的は片倉を守ることなのに。
 本末転倒もいいとこだよ。

「咲夜、そんな目で見ないで」
「どんな..」
「屈辱だと、訴えるような目で」
「別にそんなつもりは」
 頬を赤らめ、目には涙をためて、恨みがましく久隆を見つめる彼、それは久隆には可愛いくてたまらない。

「奪いたくなるから」
「奪う?」
「”片倉 葵”から、君を」
 久隆は腕を伸ばすと彼の鎖骨に手のひらを押し当て、ゆっくりと下に向かって下ろしていく。
「えっ?!」
 何をしてるのだろう、と不思議そうにしていた咲夜が慌てた。
「どこ触ってんだよッ」
 行儀の良い育ちのいい子に感じていた彼の態度が崩れる。久隆は咲夜の中心部を執拗に撫で回すと、
「セクハラは止めろッて」
 と、咲夜に抗議される。久隆は彼の腕を引き、自分との位置を反転させた。
「久隆ッ」
「片倉じゃなくても立つんだ?」
 馬鹿にしたような言葉を投げつけるのは、約束を覚えていない彼に対する苛立ちからか。

  君は俺のものになるはずだったのに。

「こんなのッ、生理現象だ」
 咲夜の中心部は明らかに形を持っていて、欲情していた。死角とはいえ、中庭で何をしているんだと久隆は自分にツッコミを入れたくなったが、やめられない。
「本気で抵抗しないと、襲うよ?」
 彼が欲しかった、本気で。しかし、それはできないのだ。
「なんでこんな意地悪するの?友達になりたいなんておこがましいこといったから?」
 可哀想なくらい傷ついた顔をする、咲夜。

 少しぐらい意地悪したっていいだろ?

「君が、可愛いから」
 ホントはキスして抱きしめて、甘やかしたいのに意地悪なことばかり言ってしまう。
「久隆のほうがよっぽと可愛いよッ」
 快感に抗うようにぎゅっと目を閉じて顔を背けていた彼は、自分の言葉にハッとする。
「俺、違っ。何いってんだろ」
 咲夜は混乱しているようだった。
「?」
 しかし、久隆はベビーフェイスである自分の可愛さには無自覚で、首を傾げる”何言ってるんだ?咲夜は”と。
「久隆、教えて欲しいことがあるんだ」
「なに?」

 君にセクハラするようなヤツに近づくな。
 もう、俺に近づいちゃダメだ。

「姫って誰なの?」

 ああ、君って人は何故傷口を抉るんだろう?
 忘れちゃったクセに。
 君のことじゃないか。
 旧姓、姫川 咲夜。

「知ってどうするの?」
「どうって」
「教える義務はない」
 言い淀む咲夜に、久隆は冷たく言い放つ。
「なんでそんなに冷たくするの?」
 すると今にも泣き出しそうな声で咲夜は問う。
「君には優しくできない」
 思わず本音を溢してしまい、久隆は後悔した。”君には”それは咲夜限定という意味合いで。
「...」
 すぐに返事が返って来ないのは意味を考えていたせいなのか?理解した咲夜の顔が歪み、たまらなくなった彼が唇を噛み締めて涙を溢し、
「俺、何かした?久隆に」
 と言葉を発する。

 泣かせたいわけじゃないんだけどな。
 はぁ。

「泣くなよ」
 久隆は腰に当てていた手を伸ばし、咲夜を抱き寄せるが、今度は拒否されなかった。
「何か嫌われることした?」
「なんでそんな、必死になるかな」
「友達になりたくないなら最初から拒否すればいいのにッ」
 しゃくりあげる咲夜の背中をそっと撫でる。
「泣かないで。俺は誰に対してもこうだよ」
「嘘だッ」
「なんでそう思うの」

 可愛いなあ。
 連れ去ってしまいたい。

「久隆ッ」
「なんだよ、まだ何か?」
「大里くんと付き合ってるの?」
「は?」

 なんで?
 どんな思考回路してんの?
 どうみても、そうは見えないよな?

「あれと付き合うとかないから」
 久隆はため息交じりに呆れ声で。しかし、
「でも、仲良い」
「どうしたんだよ、一体」
 咲夜のそれはまるでヤキモチのようで、久隆は混乱する。
「わかんない。なんでこんな気持ちになるのかわからない」
「ダメだよ」
 期待してしまいそうになり、邪念を振り払う。
「なに、が?」
「君は俺に近づいたらダメだよ」
「なんで?」
「君を傷つけるから」
 彼を自分の傍に置くのは危険だと感じた。なのに……咲夜ときたら。
「いやだッ」

 駄々っ子か?報告書にあった彼の人物像からは想像出来ないほど子供っぽくて可愛い。好みど真ん中なんだが、どうなってんの?

「なんで、久隆はそんなに意地悪ばかり言うの?」

 もう、前に進ませてよ。
 君が欲しくてたまらない俺を解放してよ。

「誰なの?姫って誰なの?」
 まるで恋人を責めるように必死な咲夜を慰めるように、その背中を撫で、
「知らなくていい」
 といって抱きしめる腕に力を入れる、久隆。咲夜は食い下がった。
「教えてよ..」
「忘れちゃったクセに」
「え?」
「姫川 咲夜、君のことじゃないか」
 呟くように名前を呼ぶと、彼は息を呑んだ。
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