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────1章『方舟のゆくえ』
■2「理由と提案」
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****♡Side・咲夜
あの子がこんなに近くにいる。しかも同じクラスになるなんて、どんな奇跡かと思ったものだ。だがそれは咲夜が単に、K学園は成績順でクラスが決まる事を知らなかっただけに過ぎないが。まさか入学からたった二か月で『咲夜』と下の名前で呼ばれることになるとは思っていなかった。
「叔父さん?」
入学式の日、自分は亡き父の弟である”姫川 都筑”が”大崎 久隆”と一緒にいるところを見かけている。思い返せば、あの日からずっと胸騒ぎがしていた。教室でまったくと言っていいほど笑わない彼が、叔父と笑談しているのが不思議でならない。なんとなく、彼には近づいちゃいけない気はしていた。図書館で会った時の疑問をぶつけると、いろんなことが繋がる。
『君のことだよ。忘れちゃったんでしょ?だったら、忘れたままでいいんだよ』
ずっと険しい顔をしていた彼が、そう言って微笑む。
『昔は君の方が小さかったのにな』
気になって仕方なかったのは、久隆があの子だったから。
『片倉くんとはうまくいってるの?』
最後に彼はそう質問をした。
**
「霧島ー。帰ろッ」
教室で帰り支度をしていたら葵が迎えに来た。
「今いく」
咲夜は返事をすると、カバンを持って出入り口に向かう。チラッと、久隆の方を見ると難しい顔をして電話をしていた。目が合うと片手を軽く挙げてくれて、なんでもないことなのに、嬉しい。
「仲良くなったの?大崎くんと」
「え?」
話しかけられ、そちらに目を向けると葵は何故かむぅとしていた。
「この間、中庭で絡まれてるとこ助けてくれたの」
「へー」
「咲夜!」
名前を呼ばれ教室のほうを振り返ると、隣の葵はびっくりしたようで。
「ごめん、待って」
久隆は慌てて近づいてくる。
「話があるんだ、二人に」
そう言われて葵と咲夜は顔を見合わせた。久隆は、送っていくからちょっと待っていて欲しいと言う。仕方なく、二人は空き教室に向かった。
「何か怒ってる?」
さっきから葵はちっとも喋らない。
「ねえ」
咲夜は彼の腕を掴むと強引に抱き締めた。
「簡単に特別あげちゃうんだって思った」
「うん?」
葵の体温が心地よい。
「大崎くんに、咲夜って呼ばれてた」
「あ..呼んでいい?って聞かれて」
「いい?って言われたら簡単にいいよって言うの?」
うっ。
「んじゃ、ヤっていい?って聞かれたらうんって言うの?」
「それは..」
「俺だって呼びたいの我慢してるのに!呼ばれたいの我慢してるのに!」
怖い。
中庭であったことなんか言ったら殺られる。
「まさか、下の名前で呼んでたりしないよね?」
葵の言葉に青ざめていたら久隆がやって来る。
「それなんだけど」
彼は、咲夜たちのそばまで歩いてくると、壁に寄りかかった。
「外部から入学してきた片倉くんたちは知らないと思うけど、俺が名字でしか呼ばないのって結構有名で、それ逆手にとってみた」
ほんとはこの学園には飛んでもないルールのあるゲームが行われていたのだが、久隆はそのことには一切触れず、そんな風に説明する。
咲夜は何やらわからなかったが、葵は意味を理解したようで、
「外部生ってさ、いじめの対象になるんだよ、うちの学園バカばっかだから」
「霧島が、さっき洗礼受けたって聞いたけど」
葵が久隆に返答した。
「二人のことは俺が守るから。で、片倉くんのことも葵ちゃんって呼びたいんだけどいいよね?」
葵は”そういうことか”と、一人で納得している。
「そもそも葵ちゃんが咲夜を名前で呼べないのは特別がバレたら困るからでしょ?」
久隆の言葉に葵は頷く。
「でも、俺が呼んでるなら葵ちゃんだってね?」
「あー。そっかあ」
と、通じあってる上に、嬉しそうだ。
なに、この疎外感。
「咲夜、わかった?」
「全然」
咲夜が首を横にふると、葵が「信じらんない」という顔をした。
「久隆くんが俺たちを名前呼びしてくれるお陰で、中学から一緒の俺たちが名前呼びしてても違和感がなくなる。目立たなくなるって話だよー」
「なるほど?」
「それと、久隆くんが俺たちを特別扱いしてくれることで嫌がらせされなくなるってコト」
「やってることは大したことじゃないけど、噂なんてすぐ広まるものだし、効果はあると思うよ」
それは効果どころではなく“学園の闇ゲームから抜けること”である。しかし二人はゲームそのものを知らないため、全くわかっていなかった。
久隆は微笑むと、葵に紙切れを渡す。
「何かあったらすぐ連絡して」
「ありがとー」
俺にはくれないんだ。
ズルい。
拗ねて葵の肩口に顔を埋めていると、久隆に頭を撫でられ、
「ご馳走するからうち寄っていかない?帰り家まで送るし」
と、提案される。
「いいの?!」
何故か葵は乗り気だ。
「咲夜も来るよね?」
「うん」
「久隆くんち、久しぶりッ」
「葵ちゃんは来たことあったっけ」
「うん、大崎家主宰のパーティーで」
セレブの会話について行けずに咲夜は黙っている。
「南さんたち元気??」
「うん」
二人は愉しそうだ。咲夜はぼんやりと窓の外を見ていたのだった。
あの子がこんなに近くにいる。しかも同じクラスになるなんて、どんな奇跡かと思ったものだ。だがそれは咲夜が単に、K学園は成績順でクラスが決まる事を知らなかっただけに過ぎないが。まさか入学からたった二か月で『咲夜』と下の名前で呼ばれることになるとは思っていなかった。
「叔父さん?」
入学式の日、自分は亡き父の弟である”姫川 都筑”が”大崎 久隆”と一緒にいるところを見かけている。思い返せば、あの日からずっと胸騒ぎがしていた。教室でまったくと言っていいほど笑わない彼が、叔父と笑談しているのが不思議でならない。なんとなく、彼には近づいちゃいけない気はしていた。図書館で会った時の疑問をぶつけると、いろんなことが繋がる。
『君のことだよ。忘れちゃったんでしょ?だったら、忘れたままでいいんだよ』
ずっと険しい顔をしていた彼が、そう言って微笑む。
『昔は君の方が小さかったのにな』
気になって仕方なかったのは、久隆があの子だったから。
『片倉くんとはうまくいってるの?』
最後に彼はそう質問をした。
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「霧島ー。帰ろッ」
教室で帰り支度をしていたら葵が迎えに来た。
「今いく」
咲夜は返事をすると、カバンを持って出入り口に向かう。チラッと、久隆の方を見ると難しい顔をして電話をしていた。目が合うと片手を軽く挙げてくれて、なんでもないことなのに、嬉しい。
「仲良くなったの?大崎くんと」
「え?」
話しかけられ、そちらに目を向けると葵は何故かむぅとしていた。
「この間、中庭で絡まれてるとこ助けてくれたの」
「へー」
「咲夜!」
名前を呼ばれ教室のほうを振り返ると、隣の葵はびっくりしたようで。
「ごめん、待って」
久隆は慌てて近づいてくる。
「話があるんだ、二人に」
そう言われて葵と咲夜は顔を見合わせた。久隆は、送っていくからちょっと待っていて欲しいと言う。仕方なく、二人は空き教室に向かった。
「何か怒ってる?」
さっきから葵はちっとも喋らない。
「ねえ」
咲夜は彼の腕を掴むと強引に抱き締めた。
「簡単に特別あげちゃうんだって思った」
「うん?」
葵の体温が心地よい。
「大崎くんに、咲夜って呼ばれてた」
「あ..呼んでいい?って聞かれて」
「いい?って言われたら簡単にいいよって言うの?」
うっ。
「んじゃ、ヤっていい?って聞かれたらうんって言うの?」
「それは..」
「俺だって呼びたいの我慢してるのに!呼ばれたいの我慢してるのに!」
怖い。
中庭であったことなんか言ったら殺られる。
「まさか、下の名前で呼んでたりしないよね?」
葵の言葉に青ざめていたら久隆がやって来る。
「それなんだけど」
彼は、咲夜たちのそばまで歩いてくると、壁に寄りかかった。
「外部から入学してきた片倉くんたちは知らないと思うけど、俺が名字でしか呼ばないのって結構有名で、それ逆手にとってみた」
ほんとはこの学園には飛んでもないルールのあるゲームが行われていたのだが、久隆はそのことには一切触れず、そんな風に説明する。
咲夜は何やらわからなかったが、葵は意味を理解したようで、
「外部生ってさ、いじめの対象になるんだよ、うちの学園バカばっかだから」
「霧島が、さっき洗礼受けたって聞いたけど」
葵が久隆に返答した。
「二人のことは俺が守るから。で、片倉くんのことも葵ちゃんって呼びたいんだけどいいよね?」
葵は”そういうことか”と、一人で納得している。
「そもそも葵ちゃんが咲夜を名前で呼べないのは特別がバレたら困るからでしょ?」
久隆の言葉に葵は頷く。
「でも、俺が呼んでるなら葵ちゃんだってね?」
「あー。そっかあ」
と、通じあってる上に、嬉しそうだ。
なに、この疎外感。
「咲夜、わかった?」
「全然」
咲夜が首を横にふると、葵が「信じらんない」という顔をした。
「久隆くんが俺たちを名前呼びしてくれるお陰で、中学から一緒の俺たちが名前呼びしてても違和感がなくなる。目立たなくなるって話だよー」
「なるほど?」
「それと、久隆くんが俺たちを特別扱いしてくれることで嫌がらせされなくなるってコト」
「やってることは大したことじゃないけど、噂なんてすぐ広まるものだし、効果はあると思うよ」
それは効果どころではなく“学園の闇ゲームから抜けること”である。しかし二人はゲームそのものを知らないため、全くわかっていなかった。
久隆は微笑むと、葵に紙切れを渡す。
「何かあったらすぐ連絡して」
「ありがとー」
俺にはくれないんだ。
ズルい。
拗ねて葵の肩口に顔を埋めていると、久隆に頭を撫でられ、
「ご馳走するからうち寄っていかない?帰り家まで送るし」
と、提案される。
「いいの?!」
何故か葵は乗り気だ。
「咲夜も来るよね?」
「うん」
「久隆くんち、久しぶりッ」
「葵ちゃんは来たことあったっけ」
「うん、大崎家主宰のパーティーで」
セレブの会話について行けずに咲夜は黙っている。
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「うん」
二人は愉しそうだ。咲夜はぼんやりと窓の外を見ていたのだった。
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