R18【同性恋愛】『戻れない僕らの日常』【絆・対・相編】正規ルート編

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────1章『方舟のゆくえ』

■3「受け継がれるもの」

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 ****♡Side・久隆

「和」
 久隆は自室に和を呼び寄せると鍵をかける。
「計画は順調ですか?」
 和は手元の調査報告書を渡すか迷っているようだ。

「やることが多すぎて何から手をつけていいのかわからない」
「リスト化したらいかがでしょう?」
「なるほど」
 久隆はやるべきことをレポート用紙に書き起こし始める。
「久隆様、学校のほうはいかがです?」
「咲夜が内部のバカに絡まれてた」
 和が久隆の言葉に一瞬、固まった。そんな和を安心させようと、
「一応手は打ったけど」
 と続けて。
「何をしたのですか?」
「大したことじゃない。名前で呼んだだけ」
 だが、その言葉に和が目を見開く。和は学園の闇ゲームやルールについては知らなかった。

「久隆様、よく聖さんが黙っておられましたね」
「あいつ居なかったし」
 久隆はペンでトントンと机を叩く。和を見上げると、彼は顔をひきつらせていた。
「どうかした?」
「久隆様、聖さんには気を付けるべきです」
「うん。わかってるよ。咲夜を喰いたいとか言ってたし」
 そう返せば、和は更に青ざめるが、久隆は何故彼がそんな顔をするのか、わからない。

「この計画の一番の障害となる可能性があるのは聖さんです。彼の采配一つで彼らの未来が変わってしまう」
 久隆はそう言われても、いまいちピンと来ないので、
「あいつが何するっての」
 と、ペンを置くと頬杖をつきじっと和を見つめる。
「良いですか?あなたはもっと、周りが自分に対し、どう思っているのか理解すべきです。その人の在り方一つで、なんでもないことを特別に出来る。それをすでにあなたはしている」
 和はそう言って久隆を見つめ返した。

 “名前を呼ぶことが自分にとって特別である証”

 今まで、他人に興味を持ったことがない。だから友人も居なかったし、こんななんでもないことが“闇ゲームのルール”として成り立つ。なんでそうなってしまったのかは解っている。

 どんなに好きになったって。
 どんなに会いたいと願ったって。
 子供には叶わないと知ったから。

 決めるのはいつも大人なのだ。大人はいつだって『大したことじゃない』と、無力な子供を傷つけていることに気づかない。もう、人に左右されるのはたくさんだ。大切なものなんて作らなければ、傷つかずに済む。そう思って生きてきたから、気づけば久隆は可愛げのない子供になっていた。

 親父の目的は、
『霧島 咲夜を手元に置くこと』
 愛した人の忘れ形見を。その為なら息子を利用する、傷つこうがお構いなし。久隆は父の真意を知らされておらず、そう感じていた。初めは、なんて人だと思ったが、逆に利用させて貰おうと考えた。あの人の上をいかなければただの道具にしかならない。

 咲夜がホントに好きだから。守ってあげたいから。あの子の..咲夜の笑顔を見たいから、幸せにしてあげたいから。使えるものはなんでも使ってやる。

「聖さんを刺激しないことです」
「刺激ねぇ」
 久隆はため息をつく、何故大里が自分に執着するのか、未だにわからない。そういえば、と父の書斎で面白いものを見たことを思い出す。和の素性だ。
 それを見た時、何故俺には教えてくれなかったのかを納得した。親父にとっては愛した人の身内さえ手駒なのかと思うと可笑しくなる。

 ううん。
 違う、そこまで愛していたのだ。
 血は争えないか..。
 そういうことだったんだ。
 そりゃ驚きもするわな。
 自分の息子が、愛した人の子供に恋するなんて。

 将来、親父みたいになるのかと思うと正直ゾッとした。いや、もう手遅れなのだ。手段を選ばないやり方は親父と一緒。

 やれやれだな。

「和、大里のことはとりあえず置いておくとして」
「知りませんよ?手遅れになっても」
「なんとかなるだろ。それより、咲夜にうちのブランドの衣料系雑誌のモデルやらせようと思うんだ」
「手配します」
「とにかく売り込む。知名度上げるにはこれが手っ取り早い」
「咲夜さんは承諾してくれますかね?」
 久隆は肩をすくめ、手を広げた。

「首に縄つけてでもひきづってくさ。知名度が上がれば、いやでもお祖父ちゃんの目に止まる」
「うまくいきますかね?」
「血は争えないって言ってたんだぞ?」
 親子二代ならそんなこと、口にしなかっただろう。
「調べたんだろ?」
 和の持っている報告書を久隆は顎で指して。
「はい」
「どうだった?」
「会長は、昔。咲夜さんの祖母に求愛して断られていますね」
「もちろん、咲夜の父は祖母似なんだろ?」
 和は、咲夜の祖母の若き日の写真を久隆に渡した。
「美形一族ってわけだな。そして、うちの一族はこの顔に惹かれてしまうと」
 と、久隆は吹き出した。
「大丈夫、うまくいくよ。爺さんはこの顔が好きなはずだから」 

 しかし、その理由が顔や容姿ではないことに久隆は気づいていなかった。兄と和の間に何かを感じ、和の素性を知ってなお、そこに考えが至らない。大崎一族と姫川一族の代々惹かれ合いながらも、結ばれなかった不運な運命までは。久隆の計画のゴールは、咲夜を次期大崎グループの会長に据えること。いや、発表まででいい。すでに、同性同士の婚姻が認められるようになって1世紀以上がたっていた。現会長である祖父に気に入らせ、婚約者として紹介する。そして、次期会長に推す。孫に甘い、甘すぎる祖父のことだ。特に久隆には激甘だった。快諾するに違いない。そう、久隆は自分さえも利用することを念頭に入れていたのだ。それには”片倉 葵”の協力が不可欠で。

「そんなにすんなりいきますかね」
 和は大里のことが気になるようで。
「とりあえず、まずは片倉の父に会いに行く」
「了承しました」
「融資の件と、新しい案を持っていく。事業が少しでも上向けば時間が稼げるはずだから」
「片倉社長は、自分の息子を売るような人物ではないと思いますよ?評判は悪いですが」
「気になるんだよ。担当者に連絡して。さすがに俺が取引申し込むわけにはいかないし」
「手配致します」
 この時和の忠告を軽視していた久隆は、いずれそれが致命的なミスになることにまだ気づいていなかった。
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