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────5章『救え、彼らを』
■1「きゅんとする瞬間」
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****♡Side・葵
黒川からの電話の内容は、”夜もおそいので、明日会えないか?”というものだった。葵にとって”黒川 彩都”とは、クラスメイトであるにも関わらず、先日の事件まで関わりのない人物。外部生でありクラスに馴染むことができず、友人の作れなかった葵は、咲夜にベッタリであった。そのまま関わりを持つことはないと思っていただけに、今さら関わりを持つことになるとは、なんだか妙な感じがする。葵が咲夜の方に目を向けると、不安げ気な表情。
「サク、寝よ?」
葵は咲夜を元気づけようと、極めて明るく彼に抱きつくが、
「久隆が..」
スマホを手に大事そうに持つ彼の手は震えていた。
たった数ヶ月。そんな短い期間なのに、葵たちの中で“大崎 久隆”はいなくてはならない存在になっている。彼は不思議な人だと思う。自分は三年もかけてゆっくり咲夜との愛を育ててきたのに、彼はあっという間に葵たちの心を開き家族のように寄り添ってくれている。
「俺だって、久隆くんがいないのは不安だよ」
泣き出しそうな咲夜の髪を優しく撫でてあげることしか葵にはできない。
「久隆くんのところで二人で寝よ?」
「うん..」
「泣いてたら、心配しちゃうからさ」
咲夜が渋々立ち上がる。いつもなら久隆と咲夜に甘やかされ、ベッタリ甘えるという葵だったが久隆がいない今、自分がしっかりしなければと、強く思う。久隆の部屋に入ると、咲夜はウサギのぬいぐるみを抱き上げスマホを充電器に置いた。
「久隆の匂い」
呟くようにそう言った咲夜の髪に手を伸ばす。絹のような手触りの綺麗な髪だ。
「ん?指輪?」
そこで、咲夜の左手薬指に光る指輪に気づく。
「久隆がくれたの」
はにかむ咲夜が可愛い。葵はベットに寝そべると中学時代の咲夜のことを考えていた。
中学時代の咲夜は..。違うな、久隆くんに会う前のサクは、お兄ちゃんって感じだったのに。
咲夜は今までずっと甘えることを知らないまま生きてきて、彼に出会う。久隆がべったべたに甘やかすものだから、咲夜は不安定になってしまった。
そりゃそうだよね。
ずっと力を入れて引っ張りあっていたものが、急に手を離されたら転んでしまうように、咲夜は加減がわからなくなってしまっている。
俺が甘えて、久隆くんが甘やかす。
二人のバランスが同じくらいだからサクは立って居られた。
それなのに、久隆くんはいない。
ああああああああッ。
どうしたらいいのッ。
葵は隣に寝転んだ咲夜に手を伸ばした。確かに好きになった頃と咲夜は違う。甘えさせてくれるだけじゃない。弱いところも見せるようになった。
そこがきゅんてするんだよなぁ。
ウサギをスンスンして寂しそうな咲夜が可愛い。
「サク」
「うん?」
「ぎゅってしようよ」
そう声をかけると、咲夜はウサギを横において葵をむぎゅっと抱き締めた。
「ポカポカッ」
「うん」
「サク、大好きだよ」
「!」
久隆を恋しがっていた咲夜は、葵が自分を一所懸命元気づけようとしていることに気づく。
「ごめんね。葵、大好きだよ」
「ふふッ」
葵は少しホッとした。
****
「んッ..あッ」
「葵ッ..」
二人は寂しさをまぎらわすようにお互いの熱を貪る。 オーディオから静かに流れる、Sweetest Goodbye。久隆の好きな曲ばかり入っているCD-ROMがくるくる回るように、二人の運命の輪も誰かの手によってくるくる回る。
どうしてかな。
泣きたくなるんだよ。
『もしかしたら、すぐに戻れないかも知れない』
早く戻ってきてよ。
”ただいまっ”て笑顔で俺たちを抱き締めてよ。
『葵ちゃん、咲夜をお願い』
そう締め括られていたメモ。
久隆くんはどんな想いでサクを自分に託したのだろう?
「きもちい?」
「きもち..ッ..サクッ」
不意に咲夜がぎゅうッと葵を抱き締め、
「うぅ..」
「サクぅ..なかな..いで..」
葵も耐えなれなくなり涙を溢す。
「葵ッ..あ..おいッ」
「...ッ」
二人はぼろぼろ涙を溢しながらお互いを求めあった。
**
────翌朝、大崎邸にて。
「あったま痛い!」
葵は泣きすぎて、頭痛がした。
「サク、起きて。朝ごはん黒川」
「は?」
寝ぼけ眼で起き上がった咲夜がポカンとする。
「着替えよ」
「何が朝ごはんて?」
頭痛薬貰お。
えっと黒川くんから話を聞いて..。
メモしたほうがいいかな?
「メモ帳」
「え?」
「早く食べにいこうよ」
咲夜はじーっと葵を見ている。その彼を葵は無理矢理ベットから連れ出した。
「何食べるって?」
あ、そうだ。
久隆くんのスマホを持って行くべきだよね。
えっと。
「スマホ、スマホ」
「...」
「早く」
「今日の朝ごはん怖い」
眉を寄せ、心なしか青ざめる咲夜。
「何いってんの?」
**
階下に降りると、和がエントランスに居て、
「おはよ」
「おはようございます」
葵は挨拶を交わす。やはり久隆は戻って来なかったのかと葵は思った。黒川はここに来ると言っているが、そもそも何かすべきことがあるのだろうか?
「佐倉っちは何か言ってた?」
「聖さんに会ってコンビニまで送ったそうです」
と、言うことは二人は合流したのだろうか?
「ご飯食べてくる」
「わかりました」
和がエントランスのグランドピアノの前に腰かけるのが見えた。流れ出すジムノペディ。
「サク、いこう」
「うん。和、ピアノ上手いね」
「そうだね」
「葵も後で何か弾いてよ」
咲夜の気が紛れるならそれもいいかもしれないと葵は思い、
「いいよ」
と返事をする。
「やった」
と、少しだけ元気になった咲夜の手を掴み、
「あとで、どこか行こうよ、サク」
と提案する。
「うん」
葵にも気分転換は必要だった。
黒川からの電話の内容は、”夜もおそいので、明日会えないか?”というものだった。葵にとって”黒川 彩都”とは、クラスメイトであるにも関わらず、先日の事件まで関わりのない人物。外部生でありクラスに馴染むことができず、友人の作れなかった葵は、咲夜にベッタリであった。そのまま関わりを持つことはないと思っていただけに、今さら関わりを持つことになるとは、なんだか妙な感じがする。葵が咲夜の方に目を向けると、不安げ気な表情。
「サク、寝よ?」
葵は咲夜を元気づけようと、極めて明るく彼に抱きつくが、
「久隆が..」
スマホを手に大事そうに持つ彼の手は震えていた。
たった数ヶ月。そんな短い期間なのに、葵たちの中で“大崎 久隆”はいなくてはならない存在になっている。彼は不思議な人だと思う。自分は三年もかけてゆっくり咲夜との愛を育ててきたのに、彼はあっという間に葵たちの心を開き家族のように寄り添ってくれている。
「俺だって、久隆くんがいないのは不安だよ」
泣き出しそうな咲夜の髪を優しく撫でてあげることしか葵にはできない。
「久隆くんのところで二人で寝よ?」
「うん..」
「泣いてたら、心配しちゃうからさ」
咲夜が渋々立ち上がる。いつもなら久隆と咲夜に甘やかされ、ベッタリ甘えるという葵だったが久隆がいない今、自分がしっかりしなければと、強く思う。久隆の部屋に入ると、咲夜はウサギのぬいぐるみを抱き上げスマホを充電器に置いた。
「久隆の匂い」
呟くようにそう言った咲夜の髪に手を伸ばす。絹のような手触りの綺麗な髪だ。
「ん?指輪?」
そこで、咲夜の左手薬指に光る指輪に気づく。
「久隆がくれたの」
はにかむ咲夜が可愛い。葵はベットに寝そべると中学時代の咲夜のことを考えていた。
中学時代の咲夜は..。違うな、久隆くんに会う前のサクは、お兄ちゃんって感じだったのに。
咲夜は今までずっと甘えることを知らないまま生きてきて、彼に出会う。久隆がべったべたに甘やかすものだから、咲夜は不安定になってしまった。
そりゃそうだよね。
ずっと力を入れて引っ張りあっていたものが、急に手を離されたら転んでしまうように、咲夜は加減がわからなくなってしまっている。
俺が甘えて、久隆くんが甘やかす。
二人のバランスが同じくらいだからサクは立って居られた。
それなのに、久隆くんはいない。
ああああああああッ。
どうしたらいいのッ。
葵は隣に寝転んだ咲夜に手を伸ばした。確かに好きになった頃と咲夜は違う。甘えさせてくれるだけじゃない。弱いところも見せるようになった。
そこがきゅんてするんだよなぁ。
ウサギをスンスンして寂しそうな咲夜が可愛い。
「サク」
「うん?」
「ぎゅってしようよ」
そう声をかけると、咲夜はウサギを横において葵をむぎゅっと抱き締めた。
「ポカポカッ」
「うん」
「サク、大好きだよ」
「!」
久隆を恋しがっていた咲夜は、葵が自分を一所懸命元気づけようとしていることに気づく。
「ごめんね。葵、大好きだよ」
「ふふッ」
葵は少しホッとした。
****
「んッ..あッ」
「葵ッ..」
二人は寂しさをまぎらわすようにお互いの熱を貪る。 オーディオから静かに流れる、Sweetest Goodbye。久隆の好きな曲ばかり入っているCD-ROMがくるくる回るように、二人の運命の輪も誰かの手によってくるくる回る。
どうしてかな。
泣きたくなるんだよ。
『もしかしたら、すぐに戻れないかも知れない』
早く戻ってきてよ。
”ただいまっ”て笑顔で俺たちを抱き締めてよ。
『葵ちゃん、咲夜をお願い』
そう締め括られていたメモ。
久隆くんはどんな想いでサクを自分に託したのだろう?
「きもちい?」
「きもち..ッ..サクッ」
不意に咲夜がぎゅうッと葵を抱き締め、
「うぅ..」
「サクぅ..なかな..いで..」
葵も耐えなれなくなり涙を溢す。
「葵ッ..あ..おいッ」
「...ッ」
二人はぼろぼろ涙を溢しながらお互いを求めあった。
**
────翌朝、大崎邸にて。
「あったま痛い!」
葵は泣きすぎて、頭痛がした。
「サク、起きて。朝ごはん黒川」
「は?」
寝ぼけ眼で起き上がった咲夜がポカンとする。
「着替えよ」
「何が朝ごはんて?」
頭痛薬貰お。
えっと黒川くんから話を聞いて..。
メモしたほうがいいかな?
「メモ帳」
「え?」
「早く食べにいこうよ」
咲夜はじーっと葵を見ている。その彼を葵は無理矢理ベットから連れ出した。
「何食べるって?」
あ、そうだ。
久隆くんのスマホを持って行くべきだよね。
えっと。
「スマホ、スマホ」
「...」
「早く」
「今日の朝ごはん怖い」
眉を寄せ、心なしか青ざめる咲夜。
「何いってんの?」
**
階下に降りると、和がエントランスに居て、
「おはよ」
「おはようございます」
葵は挨拶を交わす。やはり久隆は戻って来なかったのかと葵は思った。黒川はここに来ると言っているが、そもそも何かすべきことがあるのだろうか?
「佐倉っちは何か言ってた?」
「聖さんに会ってコンビニまで送ったそうです」
と、言うことは二人は合流したのだろうか?
「ご飯食べてくる」
「わかりました」
和がエントランスのグランドピアノの前に腰かけるのが見えた。流れ出すジムノペディ。
「サク、いこう」
「うん。和、ピアノ上手いね」
「そうだね」
「葵も後で何か弾いてよ」
咲夜の気が紛れるならそれもいいかもしれないと葵は思い、
「いいよ」
と返事をする。
「やった」
と、少しだけ元気になった咲夜の手を掴み、
「あとで、どこか行こうよ、サク」
と提案する。
「うん」
葵にも気分転換は必要だった。
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