146 / 147
────5章【葵と大里】
□5「大人になれない自分」
しおりを挟む
****♡Side・咲夜
「それで、行くことになったの?」
と、久隆。葵は今。三人掛けのソファーの真ん中に座り、久隆と咲夜に挟まれ、ご機嫌だ。外出先から帰って来た葵は、まるでイジメにでもあったように、目を赤くして咲夜と久隆に抱きついた。
「だって、ズルいでしょ!大里ばっか」
葵の言葉に困った顔をする、久隆。それもそのはず、今はなるべく大里に合わないようにしているのだから。
「ねえ、いいでしょ?」
まるで両親に甘えるように、久隆に許可を取ろうとする葵。
「俺は、咲夜が良ければいいけど」
と言うのが、久隆の返答。すると今度は、咲夜のほうを見る葵。
「ねえ、いいでしょサク?圭一お兄ちゃんも来るんだって」
まるで子犬のように見つめてくる葵はズルいと思う。そんな風にされたら、断れない。それに久隆は兄と最近一緒に居られないことに寂しさを感じている。久隆に寂しい想いをさせるのは、不本意。
「うん、いいよ」
大里と二人きりと言うわけでもないし、大里グループ所有の別荘にも興味があった。何せ大里の家は宮殿だ。一体どんな別荘なのか想像もつかない。親バカという話は聞いてはいるが。大層娘たちに甘い父らしい。
「で、どんなところなの?」
と、問う咲夜。
「スキー場と温泉が近いんだって」
何故かそこで、葵はチラッと久隆の方に視線を向ける。どうやら、久隆がスキーやスノボーをやろうと言い出さないか、気になるらしい。久隆は運動神経が悪いというわけではないが、センスがない為下手である。
「俺、温泉行きたいな」
久隆が言うので、葵はホッとしたが冗談じゃない。
「ダメッ」
「え?」
───大里に久隆の裸、見せるなんて。
「人前で裸になるからダメ」
と咲夜が言うと、久隆は、
「あ。個室とか探そうか」
と話の方向を変えた。
「いいね」
と葵。二人でタブレットを覗き込む。二人は大人だな、と咲夜は思う。自分は久隆のこととなると、すぐ感情的になってしまう。一見甘えているようで、いつも冷静に自分たちを見ている葵が羨ましかった。
「どうしたの?サク」
心配そうに咲夜の顔を覗き込む、葵。
「どうも、してないよ」
精一杯の強がり。
───久隆を独り占めしたい。でも、縛り付けたいわけじゃない。
大人げない自分がイヤだ。二人に心配させてしまう自分も。対等で居たいのに。
「ここなんかどう?」
と、久隆。葵と咲夜に向かって画面を見せてくる。
「いいね、露天風呂だって」
と、葵が笑う。
───どうして自分は、笑えないんだろう。
強引に二人を、自分に合わせてしまったことが、咲夜の心に深く突き刺さってしまっていたのだった。
「それで、行くことになったの?」
と、久隆。葵は今。三人掛けのソファーの真ん中に座り、久隆と咲夜に挟まれ、ご機嫌だ。外出先から帰って来た葵は、まるでイジメにでもあったように、目を赤くして咲夜と久隆に抱きついた。
「だって、ズルいでしょ!大里ばっか」
葵の言葉に困った顔をする、久隆。それもそのはず、今はなるべく大里に合わないようにしているのだから。
「ねえ、いいでしょ?」
まるで両親に甘えるように、久隆に許可を取ろうとする葵。
「俺は、咲夜が良ければいいけど」
と言うのが、久隆の返答。すると今度は、咲夜のほうを見る葵。
「ねえ、いいでしょサク?圭一お兄ちゃんも来るんだって」
まるで子犬のように見つめてくる葵はズルいと思う。そんな風にされたら、断れない。それに久隆は兄と最近一緒に居られないことに寂しさを感じている。久隆に寂しい想いをさせるのは、不本意。
「うん、いいよ」
大里と二人きりと言うわけでもないし、大里グループ所有の別荘にも興味があった。何せ大里の家は宮殿だ。一体どんな別荘なのか想像もつかない。親バカという話は聞いてはいるが。大層娘たちに甘い父らしい。
「で、どんなところなの?」
と、問う咲夜。
「スキー場と温泉が近いんだって」
何故かそこで、葵はチラッと久隆の方に視線を向ける。どうやら、久隆がスキーやスノボーをやろうと言い出さないか、気になるらしい。久隆は運動神経が悪いというわけではないが、センスがない為下手である。
「俺、温泉行きたいな」
久隆が言うので、葵はホッとしたが冗談じゃない。
「ダメッ」
「え?」
───大里に久隆の裸、見せるなんて。
「人前で裸になるからダメ」
と咲夜が言うと、久隆は、
「あ。個室とか探そうか」
と話の方向を変えた。
「いいね」
と葵。二人でタブレットを覗き込む。二人は大人だな、と咲夜は思う。自分は久隆のこととなると、すぐ感情的になってしまう。一見甘えているようで、いつも冷静に自分たちを見ている葵が羨ましかった。
「どうしたの?サク」
心配そうに咲夜の顔を覗き込む、葵。
「どうも、してないよ」
精一杯の強がり。
───久隆を独り占めしたい。でも、縛り付けたいわけじゃない。
大人げない自分がイヤだ。二人に心配させてしまう自分も。対等で居たいのに。
「ここなんかどう?」
と、久隆。葵と咲夜に向かって画面を見せてくる。
「いいね、露天風呂だって」
と、葵が笑う。
───どうして自分は、笑えないんだろう。
強引に二人を、自分に合わせてしまったことが、咲夜の心に深く突き刺さってしまっていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる