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────1話*俺のものになってよ

17・それは俺だから?恋人だから?

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****♡Side・電車でんま

 社を出ると、塩田が手を差し出してくる。手を繋ごうという意味らしい。電車は嬉しくなって、無言で彼の手に指先を絡めた。しかし不安でもある。
 塩田が一所懸命、恋人らしいことをしようとするのは、単に”恋人”だからなのかなと。
「塩田」
「ん?」
「俺、最近料理作れるようになったんだよ。簡単なものだけど」
 電車がニコニコしながらそう告げれば、彼は”へえ”と言って笑った。とても可愛い。
「料理は切り方、味付け、火加減らしいぞ。それさえ出来れば美味しいモノが作れるらしい」
と塩田。

「また雑誌の受け売り?」
「ああ」
 塩田はネット検索より雑誌のほうが好きらしい。何故なんだろうと思っていたが、彼はどうやら望まない広告表示が嫌なのだと知った。料理もシンプルなものが好きで、どちらかと言うと調理のほうがしっくりくる。しかも和食が好きなようだ。
「デート、いつする?」
と電車が問うと、彼は目を細めこちらを見上げる。なんだか嬉しそうだ。
「お前の都合のいい時でいいよ」
「じゃあ、今週末」
「ん」

 五分という距離はあっという間で。
 マンションに着いてすることと言えば、まずは入浴だ。彼の習慣のおかげで、電車は花粉症にもインフルエンザにもかかったことがない。綺麗に整頓された室内は、彼らしいなと感じる。
 部屋に似つかわしくない、バナナの家具や生活用品がそこかしこにあるのは、電車のせいだが。

「すぐに湯が溜まるよ」
 ワイシャツの袖をまくり、浴室で蛇口をひねる彼の後姿を見つめていると、そういって振り返った彼が眉を顰める。
「何突っ立てんだよ」
「え?」
「気が利かないな」
 ”スーツはここ”と言って、彼は縦長のボックスを開く。除菌などをしてくれるボックスなのだが、電車はその習慣には慣れていなかった。いったいどんな構造をしているんだと訝しんでいる。
「変な顔してないで、早く脱げよ」
と、彼。
「いやん、塩田のエッチ!」
と、上着を引っ張る彼にふざけて言えば、
「阿保か」
と軽くひっぱたかれた。
「塩田、好きだよ」
「俺も好きだから、早く脱げ」
「ちょっ待って!」
 上着とスラックスをはぎ取られ、電車は複雑な気持ちになる。鏡に映る、なんとも情けないカッコ。

「どうした?」
「どうしてスーツって、脱ぐとこんな間抜けなカッコになるんだろうね」
と電車が塩田に視線を移せば、
「バナナ柄のパンツなんか履いてるからだろ」
と言われる。しかし、彼が履いているのは……。
「今日はトランプなの?」
「なんだ? オ〇マのは持ってないぞ」
と、塩田。
 彼のパンツのバックプリントのことだ。
「なんでそんな色気のないモノ履いてるのさ」
と電車が抗議すると、
「お前が言うのか?」
 もっともではあるが。

「バナナは可愛いでしょ」
「俺にバナナを履けと?」
と、彼。
「そうは言ってない」
 怪訝そうな顔をする彼は、
「じゃあ、どんなものを望んでるんだよ」
「うーん……ピンクのスケスケおパンティとか…いてッ」
(発想がどっかの誰かと一緒である)

「馬鹿言ってないで、風呂入るぞ」
「はーい」
 彼にひっぱたかれた頭をさすりつつ、電車は服を脱ぎ捨てると浴室へ足を踏み入れたのだった。
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