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────5話*俺のものだよ
18・焦る感情と真実への道筋
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****♡Side・課長(唯野)
小さなことが自分に恐怖を与えている。
『板井君が最近、秘書室長と会っているみたいなんだがね。二人はお付き合いでもしているのかな?』
いつものように社長室に呼ばれ、皇に関しての嫌味を言われるのかと思ったら、矛先が違っていて唯野は驚いた。
秘書室長の女性は自分と同期入社。彼女が最初に配属されたのは自分と同じ営業であった。しかしその手腕などが認められ、秘書室に配属されたのだ。前室長が結婚退職してからは、彼女が室長として長年勤めている。
彼女は社内一の情報通で有名。てっきり社長側の人間だと思っていた。だがそれを野放しにしているということは、そうではないということなのだろう。
もっとも、緘口令を強いた約四年前の皇に関する件については、彼女も簡単には口にしないであろう。社長のいうことは絶対だ。
そして自分の関係している十七年前の出来事について、彼女がどの程度掴んでいるのか分からなかった。
──板井は何を知っているのだろう?
怖くて聞けない。
自分への印象が変わってしまったかもしれない。そんなことを想いながら社長室から苦情係に戻ると、板井はいなかった。最近少しギクシャクしてしまっているせいか、悪いことばかり考えてしまう。
時計を見上げると、昼過ぎであった。塩田と電車は副社長と外へ食べに行ったのかもしれない。板井はいつも、自分が社長室へ呼ばれた時はここへ残っているのだ。休憩に行けよと先に言っていても。
──普段と違うことがこんなに恐怖だなんて。
唯野はデスクに手を置くと、眩暈のする自分自身を片手で支えた。
元々口数の少ない板井との、帰りの列車での会話が減ったことも、唯野を恐怖に陥れる要因の一つ。先日の違和感の原因が秘書室長にあるなら……。
「課長?」
「!」
呼ばれて唯野はびくっと肩を震わせた。
「なんです? そんなに驚いて」
と、板井は持っていたペットボトルを一つ唯野に向かって差し出す。
「あ、いや……」
”ありがとう”と言って受け取ると、小銭を渡そうとポケットに手を差し入れた。
板井は時計を見上げ、
「今日は早かったんですね」
と微笑む。
いつもと変わらないはずなのに、ドキドキしている自分がいた。何を言われるのだろうと、身体が強張る。
「たまには、外に食べに行きませんか?」
と板井。
唯野は小銭を差し出しながら、ゆっくりとこちらに向き直る彼をぼんやり見ていた。
「顔色、悪いですが。大丈夫ですか?」
ペットボトルをデスクに置いた手が、唯野に触れる。ひんやりとした感触に現実に戻される唯野。
「? 顔、赤い」
青ざめていたはずの唯野が触れた途端色づくのを見て、板井は驚いたようだ。
──俺、なんでこんなに板井のことばかり考えているんだ?
どうしてこんなに不安なんだろう。
「板井、あのさ」
「はい」
「秘書室長と、その……付き合ってるのか?」
自分でも何故そんなことが怖いのか分からない。
「いいえ。なぜです?」
「そ、そうか」
付き合ってもいないのに会っているなら、恐らく何か噂話でも聞いているに違いない。知られたくないことの数々が脳裏を過る。
板井は小銭を差し出す唯野の手を握りこむと、
「課長、離婚されるそうですね」
と切り出した。
「ああ、そのことか」
それが秘書室長から聞いた話なら、全てを知られている可能性は高い。
何故なら、その婚姻こそが全ての始まりだったから。
「課長は、まだ塩田のこと好きなんですか?」
「え?」
驚いたのは質問にではない。ぐいっと腰を引かれたからだ。
「俺があなたを好きだと言ったら、俺にもチャンスはありますか?」
──板井が、俺を好き?
小さなことが自分に恐怖を与えている。
『板井君が最近、秘書室長と会っているみたいなんだがね。二人はお付き合いでもしているのかな?』
いつものように社長室に呼ばれ、皇に関しての嫌味を言われるのかと思ったら、矛先が違っていて唯野は驚いた。
秘書室長の女性は自分と同期入社。彼女が最初に配属されたのは自分と同じ営業であった。しかしその手腕などが認められ、秘書室に配属されたのだ。前室長が結婚退職してからは、彼女が室長として長年勤めている。
彼女は社内一の情報通で有名。てっきり社長側の人間だと思っていた。だがそれを野放しにしているということは、そうではないということなのだろう。
もっとも、緘口令を強いた約四年前の皇に関する件については、彼女も簡単には口にしないであろう。社長のいうことは絶対だ。
そして自分の関係している十七年前の出来事について、彼女がどの程度掴んでいるのか分からなかった。
──板井は何を知っているのだろう?
怖くて聞けない。
自分への印象が変わってしまったかもしれない。そんなことを想いながら社長室から苦情係に戻ると、板井はいなかった。最近少しギクシャクしてしまっているせいか、悪いことばかり考えてしまう。
時計を見上げると、昼過ぎであった。塩田と電車は副社長と外へ食べに行ったのかもしれない。板井はいつも、自分が社長室へ呼ばれた時はここへ残っているのだ。休憩に行けよと先に言っていても。
──普段と違うことがこんなに恐怖だなんて。
唯野はデスクに手を置くと、眩暈のする自分自身を片手で支えた。
元々口数の少ない板井との、帰りの列車での会話が減ったことも、唯野を恐怖に陥れる要因の一つ。先日の違和感の原因が秘書室長にあるなら……。
「課長?」
「!」
呼ばれて唯野はびくっと肩を震わせた。
「なんです? そんなに驚いて」
と、板井は持っていたペットボトルを一つ唯野に向かって差し出す。
「あ、いや……」
”ありがとう”と言って受け取ると、小銭を渡そうとポケットに手を差し入れた。
板井は時計を見上げ、
「今日は早かったんですね」
と微笑む。
いつもと変わらないはずなのに、ドキドキしている自分がいた。何を言われるのだろうと、身体が強張る。
「たまには、外に食べに行きませんか?」
と板井。
唯野は小銭を差し出しながら、ゆっくりとこちらに向き直る彼をぼんやり見ていた。
「顔色、悪いですが。大丈夫ですか?」
ペットボトルをデスクに置いた手が、唯野に触れる。ひんやりとした感触に現実に戻される唯野。
「? 顔、赤い」
青ざめていたはずの唯野が触れた途端色づくのを見て、板井は驚いたようだ。
──俺、なんでこんなに板井のことばかり考えているんだ?
どうしてこんなに不安なんだろう。
「板井、あのさ」
「はい」
「秘書室長と、その……付き合ってるのか?」
自分でも何故そんなことが怖いのか分からない。
「いいえ。なぜです?」
「そ、そうか」
付き合ってもいないのに会っているなら、恐らく何か噂話でも聞いているに違いない。知られたくないことの数々が脳裏を過る。
板井は小銭を差し出す唯野の手を握りこむと、
「課長、離婚されるそうですね」
と切り出した。
「ああ、そのことか」
それが秘書室長から聞いた話なら、全てを知られている可能性は高い。
何故なら、その婚姻こそが全ての始まりだったから。
「課長は、まだ塩田のこと好きなんですか?」
「え?」
驚いたのは質問にではない。ぐいっと腰を引かれたからだ。
「俺があなたを好きだと言ったら、俺にもチャンスはありますか?」
──板井が、俺を好き?
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