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────0話*出会いと恋

16・愛して愛されたい彼に、塩田は【R】

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****side■電車

「はあッ……」
 電車でんまは背後から塩田を抱き締め肌を撫で、首筋に唇を寄せ目を閉じる。大好きな人の体温。吐息、香り。
「塩田、好き」
 何度も何度も想いを告げる。
 返事なんてくれはしないけれど、抱き締めた腕にそっと触れる彼のその手は、まるで”俺もだよ”と言ってくれている様に思えて心を締め付けた。

 塩田を好きだと気付き始めたのは、列車に乗り遅れて終電を逃し家に泊めてくれた翌日。初めて彼の家に泊まった日、なんだか旧友と居るように自然で楽に感じた。
 それなのに。
 恋だと分かっていながら酷いことを彼にしたのだ。
『初めてだったんだぞ』
 塩田のその言葉は、深く胸に突き刺さった。

 どんな汚い手を使ってでも、塩田を自分に向けたかったのは事実。
 皇が塩田にちょっかいを出し始め、焦っていたのも事実だし。便乗したのも事実。

 “お前なら……止めてくれると信じてたのに”
 彼に信頼されていたことを知った。
 それがこんな形なのは辛い。自分がしてしまったことは取り返しのつかないことなのだ。彼の信頼を裏切り、それでもまだ欲しいと心が叫んでいた。
 
「ん……電車、お前……かたく」
「当然でしょ? 好きな人に触っているんだから」
 直接的な言葉で伝えれば、この気持ちは伝わるのだろうか?
「好きな人……」

──きっと塩田はまだ良くわかっていないんだ。
 漠然としか。

「キスしよ。こっち向いて」
 塩田は何を求めても拒否しない。
 それが彼にとって特別なことと気付かない電車は、葛藤していた。
「んッ……もっと乱暴でもいい。女じゃないし」

──なんでそんな悲しいこと言うかな。
 好きだから優しくしたいし、大事にしたいのに。

 泣きたい気持ちを抑え、軽く口づける。塩田は物足りないという顔をして、電車の口元を見つめていた。
「キス、好き?」
「さあな」
 彼は何故か、ムッとしている。
「答えてくれたら、もっとしてあげる」
「なんでそんな……上から目線なんだよ」
 ムッとしながらも、電車の腕に手を添えてくる彼にきゅんとした。
「お前とするのは好き」
「なにその殺し文句」
 きょとんとする塩田に口づけると、チロと舌を出す。貪るように唇を奪い舌を絡めると、彼は首に腕を絡めてきた。
 髪を撫で、背中に腕を回し、ぎゅっと抱き締め合う。

──俺の気持ち、分かってよ。
 俺のこと、好きになって。

 伝わって欲しいと願いながら。
「電車」
「ん?」
 名前を呼ばれ、彼を見つめる。
「早くよがらせろよ」
「……」
 しかし、塩田はやはり塩田であった。
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