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━1章【HAPPY ENDには程遠い】━
8-1 好きと理解
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****♡side・美崎
美崎は鶴城の自分への“好き”を理解しつつも、返事が出せないでいた。
『うん、つき合おう』
と、どうしても言えないのである。それは意地でも強がりでもなかった。
今までは単に、自分が『鶴城の好きになった片倉』とは正反対でつき合って『やっぱり違う』となったらどうしようと不安になっていたから返事ができなかったのである。
だが、今は違う。明確にこうだと説明するのは難しいが。
鶴城はとても残念そうにしていたが、なし崩しに恋人同士になっても蟠りがのこるだけ。そう思った美崎は一旦、返事を保留させてもらった。
「温度差なのかな……」
自分でも説明がつかないもの。その正体。
美崎は風紀委員室で日報を書きながら唸る。
するとそこへ賑やかな声が聞こえてきた。どうやら廊下からである。
──この声は、鶴城と片倉?
美崎はノートを置くとドアに向かった。
「お、優也」
ドアを開けるとすぐに鶴城が気づく。二人の他に圭一の弟、久隆がいた。
「こんにちは」
「よう」
久隆に会釈をされ、美崎はニコッと返事を返す。
彼は人見知りというわけではないが、以前は全く愛想のない事務的な子という印象。
初等部の時のイジメが原因で久隆はそうなったのだと圭一に聞いたことがあり、美崎は理解を示して来た。
そんな彼は最近、とても柔らかい表情をするようになったのである。
「美崎先輩に頼みがあって来たんです」
それが鶴城と同じ中学の後輩、片倉と霧島のおかげだと知り美崎はとても驚いた。
「ん? なんだ?」
片倉は鶴城と十一月の後半に開催される学園祭の話をしている。となると恐らくその関連の話だろうなと美崎は思った。
**・**
「ギターを?」
久隆は学園祭でファッションショーに参加するらしく、その時にバンド演奏をするというのである。
その演奏で、美崎にはギターを担当して欲しいという。
バンド演奏に参加するのは鶴城、片倉、霧島そして久隆の幼なじみである大里。美崎にとっては全員よく知った面子だ。
──ん?
んんんん??
鶴城、片倉、霧島、大里?
大崎は入っていない?
どういうこと?
「それは構わないが、大崎は何をやるんだ?」
と美崎が久隆に問いかけると何故か片倉が反応した。
「久隆くんは音痴で楽器も出来ないからモデルの方に参加するんだよー。ほんと、何も出来ないの! カッコいいだけが取り柄。あ、ベビーフェイスだけどねッ。可哀想だから追求しないであげて」
と。
「おまッ」
片倉の毒舌に、鶴城が慌てる。
「そうなのか」
美崎は片倉のトークに青ざめつつ久隆に向き直ると、彼は怒るでもなく苦笑いをしていた。
「で、これが衣装のデザインで」
と、久隆が衣装のデザイン画を美崎に向けて見せて来たのだが、それを隣から覗き込んで片倉がムンクの叫びの仕草をした。
「ひいいいいいッ」
「何? 葵ちゃん」
「大里が久隆くんは絵心ないって言ってたけど、それはいくらなんでも酷すぎない?!」
美崎は、久隆の手元を見て更に青ざめた。
「園児でももっとマシだよ?!」
鶴城は片倉を止めることを諦めたのか笑っている。
「これ、そもそも何等身なの?! ズボン短すぎない? これじゃパンツ見えちゃう」
「普通に長いズボンだけど」
「ええええええッ! 足、短ッ」
久隆と片倉のやりとりに、美崎もついに吹き出す。
片倉の毒舌に全く動じない久隆がツボだ。
「俺、エッチいスケパンだけど、この長さじゃ見えちゃうよ? 大丈夫なの?! 大事なとこ丸出しになっちゃう」
片倉の言葉に久隆は眉を寄せた。
「いや、普通のパンツ履けばよくない?」
と。
「何それ、パンツ出す前提?!」
何なのこの子たち。
と、美崎は鶴城の方にジェスチャーで伝えると、鶴城は“さあ?”と肩を竦める。
嵐は笑いだけを残して去って行った。
──なんだったんだ?
一体。
漫才のようなやり取りを見せられ、
「二人は仲良しなんだな」
と美崎が言った時の二人の表情が忘れられない。
二人とも凄く嬉しそうな顔をして、
「マブダチだもんねッ」
と片倉が言えば、久隆もニコッと微笑んだ。
“弟は友達がいないんだよ”と、圭一が言っていたことを思い出す。
イジメによって人間不信になった久隆は心を閉ざし、周りに無関心になった。片倉はそれをいとも簡単に開いたということなのだろう。仲の良い二人のやり取りを目の当たりにして、初めて“鶴城が片倉を尊敬している”理由が納得出来たように思う。
そっかと、美崎は思った。
こうやって鶴城の言葉を一つ一つ実感してゆけば良いのだと。
そうすればいずれは“何故自分が返事を渋っているのか?”の理由にたどり着くのかもしれない。
「ところで鶴城」
「ん?」
鶴城は風紀委員室の奥にある給湯室でドリップコーヒーを入れていた。とても良い香りがする。
「鶴城は何を演奏するんだ? 楽器」
「ドラム」
──ドラム?!
え、カッコいい。
「鶴城ってドラム出来るんだ」
「おう、今度セッションするか?」
「うん」
と、素直に返事をすると何故か彼は驚いた顔をする。
「何?」
「いや、優也が素直だと調子狂うなと思って」
と、鶴城は美崎にマグカップを差し出した。
「ありがと」
「そういや豆切らしてたな。帰り珈琲店寄っていいか?」
鶴城がカップを口元に持っていきながら問う。
「いいよ」
断る理由もないので美崎は承諾した。
──ドラムかぁ。
鶴城、絶対カッコいいよなぁ。
美崎は鶴城の自分への“好き”を理解しつつも、返事が出せないでいた。
『うん、つき合おう』
と、どうしても言えないのである。それは意地でも強がりでもなかった。
今までは単に、自分が『鶴城の好きになった片倉』とは正反対でつき合って『やっぱり違う』となったらどうしようと不安になっていたから返事ができなかったのである。
だが、今は違う。明確にこうだと説明するのは難しいが。
鶴城はとても残念そうにしていたが、なし崩しに恋人同士になっても蟠りがのこるだけ。そう思った美崎は一旦、返事を保留させてもらった。
「温度差なのかな……」
自分でも説明がつかないもの。その正体。
美崎は風紀委員室で日報を書きながら唸る。
するとそこへ賑やかな声が聞こえてきた。どうやら廊下からである。
──この声は、鶴城と片倉?
美崎はノートを置くとドアに向かった。
「お、優也」
ドアを開けるとすぐに鶴城が気づく。二人の他に圭一の弟、久隆がいた。
「こんにちは」
「よう」
久隆に会釈をされ、美崎はニコッと返事を返す。
彼は人見知りというわけではないが、以前は全く愛想のない事務的な子という印象。
初等部の時のイジメが原因で久隆はそうなったのだと圭一に聞いたことがあり、美崎は理解を示して来た。
そんな彼は最近、とても柔らかい表情をするようになったのである。
「美崎先輩に頼みがあって来たんです」
それが鶴城と同じ中学の後輩、片倉と霧島のおかげだと知り美崎はとても驚いた。
「ん? なんだ?」
片倉は鶴城と十一月の後半に開催される学園祭の話をしている。となると恐らくその関連の話だろうなと美崎は思った。
**・**
「ギターを?」
久隆は学園祭でファッションショーに参加するらしく、その時にバンド演奏をするというのである。
その演奏で、美崎にはギターを担当して欲しいという。
バンド演奏に参加するのは鶴城、片倉、霧島そして久隆の幼なじみである大里。美崎にとっては全員よく知った面子だ。
──ん?
んんんん??
鶴城、片倉、霧島、大里?
大崎は入っていない?
どういうこと?
「それは構わないが、大崎は何をやるんだ?」
と美崎が久隆に問いかけると何故か片倉が反応した。
「久隆くんは音痴で楽器も出来ないからモデルの方に参加するんだよー。ほんと、何も出来ないの! カッコいいだけが取り柄。あ、ベビーフェイスだけどねッ。可哀想だから追求しないであげて」
と。
「おまッ」
片倉の毒舌に、鶴城が慌てる。
「そうなのか」
美崎は片倉のトークに青ざめつつ久隆に向き直ると、彼は怒るでもなく苦笑いをしていた。
「で、これが衣装のデザインで」
と、久隆が衣装のデザイン画を美崎に向けて見せて来たのだが、それを隣から覗き込んで片倉がムンクの叫びの仕草をした。
「ひいいいいいッ」
「何? 葵ちゃん」
「大里が久隆くんは絵心ないって言ってたけど、それはいくらなんでも酷すぎない?!」
美崎は、久隆の手元を見て更に青ざめた。
「園児でももっとマシだよ?!」
鶴城は片倉を止めることを諦めたのか笑っている。
「これ、そもそも何等身なの?! ズボン短すぎない? これじゃパンツ見えちゃう」
「普通に長いズボンだけど」
「ええええええッ! 足、短ッ」
久隆と片倉のやりとりに、美崎もついに吹き出す。
片倉の毒舌に全く動じない久隆がツボだ。
「俺、エッチいスケパンだけど、この長さじゃ見えちゃうよ? 大丈夫なの?! 大事なとこ丸出しになっちゃう」
片倉の言葉に久隆は眉を寄せた。
「いや、普通のパンツ履けばよくない?」
と。
「何それ、パンツ出す前提?!」
何なのこの子たち。
と、美崎は鶴城の方にジェスチャーで伝えると、鶴城は“さあ?”と肩を竦める。
嵐は笑いだけを残して去って行った。
──なんだったんだ?
一体。
漫才のようなやり取りを見せられ、
「二人は仲良しなんだな」
と美崎が言った時の二人の表情が忘れられない。
二人とも凄く嬉しそうな顔をして、
「マブダチだもんねッ」
と片倉が言えば、久隆もニコッと微笑んだ。
“弟は友達がいないんだよ”と、圭一が言っていたことを思い出す。
イジメによって人間不信になった久隆は心を閉ざし、周りに無関心になった。片倉はそれをいとも簡単に開いたということなのだろう。仲の良い二人のやり取りを目の当たりにして、初めて“鶴城が片倉を尊敬している”理由が納得出来たように思う。
そっかと、美崎は思った。
こうやって鶴城の言葉を一つ一つ実感してゆけば良いのだと。
そうすればいずれは“何故自分が返事を渋っているのか?”の理由にたどり着くのかもしれない。
「ところで鶴城」
「ん?」
鶴城は風紀委員室の奥にある給湯室でドリップコーヒーを入れていた。とても良い香りがする。
「鶴城は何を演奏するんだ? 楽器」
「ドラム」
──ドラム?!
え、カッコいい。
「鶴城ってドラム出来るんだ」
「おう、今度セッションするか?」
「うん」
と、素直に返事をすると何故か彼は驚いた顔をする。
「何?」
「いや、優也が素直だと調子狂うなと思って」
と、鶴城は美崎にマグカップを差し出した。
「ありがと」
「そういや豆切らしてたな。帰り珈琲店寄っていいか?」
鶴城がカップを口元に持っていきながら問う。
「いいよ」
断る理由もないので美崎は承諾した。
──ドラムかぁ。
鶴城、絶対カッコいいよなぁ。
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